筆者は元日、ある“話題の”ショッピングモールの初売りに行くため、始発の東海道新幹線に乗った。滋賀県・米原駅からさらに車で1時間ほど琵琶湖沿いの道路を走った先に、目的地である「ピエリ守山」はあった。
すでに一部メディアやインターネット上で話題になっているように、ピエリ守山は2008年、200店舗が入る華々しいショッピングモールとして営業を開始したものの、周辺にイオンモールや三井アウトレットパークなどの競合施設が増えるのに従い、相次いでテナントも撤退。いつの間にか残されたのはペットショップとカフェ、JTBの旅行代理店、宝くじ売り場という4店舗のみで、13年には「廃墟のショッピングモール」として話題となった。
小売店の初売りとなれば、開店前から客の長蛇の列ができることも珍しくない。例えば今年の初売りでは、日本橋三越本店では3850人(1月2日)が、西武池袋本店(1日)では約2万人が行列をつくった。一方、ピエリ守山は開店の10分前となる1日9時50分、並んでいる客はおらず閑散として、施錠された自動ドアの向こう側からは店員向けのアナウンスの声が聞こえるほどであった。
そして、10時ちょうどにドアの施錠が開放された。一般的な百貨店やショッピングモールであれば、「おはようございます」「明けましておめでとうございます」などと店員が列をなして客を出迎えるところだろうが、ここではそのような出迎えもなかった。筆者は2014年、ピエリ守山の初の客となった。
入店するとまず目につくのは、至るところに貼られた「撮影禁止」の文字。ネット上で話題になっているだけあり、筆者のような物味遊山の客が多く訪れているのだろう。
だが、モール内は床も磨かれてピカピカで、カーペットも汚れは目立たたず、トイレも清潔。とても「廃墟」と呼ばれるモールとは思えない。BGMには正月気分を盛り上げるための琴の音楽が流されており、変わっていることといえば、店舗がもぬけの殻なのと、客がいないことだけだ。
数少ない入居店舗のひとつ「ペットショップ ミクニ」では、ペット用品や、生体販売、トリミングなどを行っていて、店員はとても感じのいい接客だ。初売り恒例の福袋はなかったが、サービスで温かいぜんざいを振舞っていた。鍋一杯に用意されたぜんざいを見て、「今日は、かなりお客さんが来るんですか?」と店員に聞くと、首を振り「ぜんざいも余ってしまうかもしれませんね」と力なくつぶやいた。
200店舗が入居できるピエリ守山は、とても大きな施設だ。現在では、4店舗しか入居していないにもかかわらず、電気も暖房も節電をすることなく使用されている様子で、無人のエスカレーターはずっと動き続ける。館内すべてのトイレも使用可能だ。あたかも、200店舗が入居していた往時のように、館内の隅々までピエリ守山はその設備を守っている。施設担当者と思しき人に「なぜ写真撮影が禁止なのですか?」と聞いたところ、「他の百貨店はショッピング施設でも撮影は禁止ですから」とのことで、競合他店へのライバル意識は健在のようだ。
そんなピエリ守山では、初売りのイベントとして、先着50人の子ども限定で、ピエリ守山特製風船のプレゼントが行われていた。昼12時の配布開始が近づくにつれ、家族連れの姿もちらほらと見えてきて、子供向けの遊戯施設「キッズパーク」には、青と黄色の風船を持った女性がやってきたが、手に持っている風船の数は20個程度であった。風船をもらおうと、ひとり、またひとりと親に連れられた子どもがやってきたが、10個程度配布されたところで終了。その女性に試しに「大人でも風船はもらえますか?」と聞いてみると、「ネットでは『風船をゲットする』なんていう声もありましたが、これは子ども向けです」と断られ、ネットに対する強い警戒心が伺えた。
見方を変えれば、ピエリ守山はある意味とても便利で都合がいい場所かもしれない。小さい子どもを連れた家族にとって、子どもがいくら騒いでも駆け回っても迷惑にならないし、おもちゃをねだれる店舗もない。
また、他のショッピングモールと同じように、客の休憩用に数多くのソファーがあちこちに置かれている。筆者もゆったりとソファーに腰掛けていると、「ひとりでも多くのお客様にご利用いただけますよう、ソファーは譲り合ってご利用ください」との館内アナウンスが流れたが、おそらくかつて賑わいがあった頃から同じアナウンスが使われていたのだろう。
そして帰り際、出入口に目をやると「謹賀新年」という文字とともに、次のような新年のあいさつが掲出されていた。
「ピエリ守山はおかげさまで新しい年を迎えることができました。
この晴れがましい気持ちをみなさまに…と願って。
ピエリ守山を今年も、どうぞよろしくお願いいたします
平成26年 元旦」
ピエリ守山が今年、かつての賑わいを取り戻し、来年は活気あふれる初売りを迎えられることを願いたい。
(文=萩原雄太/ライター)