2012年ミス・インターナショナル世界大会グランプリの吉松育美氏は昨年12月、大手芸能事務所・ケイダッシュ幹部の谷口元一氏からストーカー被害に遭っていたと告発し、刑事告訴と民事訴訟を起こした。その彼女の支援に立ち上がったのが安倍晋三首相の妻・昭恵夫人であり、「週刊文春」(文藝春秋/2月27発売号)に掲載された吉松氏と昭恵夫人の対談では、2人は吉松氏へのストーカー事件について海外メディアがこぞって報じているにもかかわらず、日本のメディアがこの事件を無視し報じない事態に疑問を呈している。

 この事件の経緯を整理してみよう。発端は吉松氏が自身の昨年12月11日に自身のブログに掲載した記事『心配してくれている皆様へご報告』で現役ミスとしての最後の役目である、世界大会の最終審査のステージで新しいミスに王冠とガウンを渡す役目を辞退し、この大会を欠席する理由を報告したことだ。その理由とは、まさに谷口氏によるストーカー問題だったのだ。

 ブログで吉松氏は、「1年前からずっと、つきまとい、嫌がらせ、脅迫、脅し、業務妨害を受けていました」と明かし、その相手は「大手芸能プロダクションの幹部であり、芸能界やマスコミには影響力のある人物」、つまり谷口氏であったと告発したのだ。

 吉松氏が外国人記者クラブで行った記者会見の内容をニュースサイト「J-CASTニュース」が報じているが、ストーカー問題が最初に起こったのは12年春で、格闘技の元プロモーター男性が突然吉松氏の所属事務所に現れ、ケイダッシュのオフィスに連れて行かれたという。そしてその場で系列事務所への所属を求めてきたという。だが、このケイダッシュは反社会的勢力とのつながりが取りざたされていたという理由から、吉松氏は所属を拒否。今回のストーカー問題で告発されている谷口氏は、この系列事務所の役員だったと「J-CASTニュース」は報じている。

 吉松氏は「彼は、ミスインターナショナルの協賛企業に幾度となく、脅迫とも言える電話をしたそうです。(略)国際文化協会から『マスコミがミスインターナショナル以外のことで騒ぐと困るから、吉松さんは大会期間中、体調不良を理由に自粛してほしい。』と言われました」と、無念な思いをブログで綴っている。さらに「彼は、両親にまで連絡をし、私が自殺をしてしまうようなことになる、と言いました」と書かれており、常に殺される恐怖に怯えており、今は24時間体制でセキュリティーがついているそうだ。

 ブログの最後には「同じ悩みをもつ多くの女性のためにも、自分の問題をこのままにしておいてはいけないと思い、行動したいと思います」と切実な訴えを掲げ、ストーカー撲滅のための活動をしていくと発表した。

●ネット署名は12万人に

 その後、吉松氏のブログを読んだ読者たちからの応援コメントが実に700件以上も書き込まれており、吉松氏自身がネット署名募集サイト「change.org」に立ち上げた「STALKER ZEROキャンペーン~被害者が守られる社会へ~」への賛同者が2月下旬現在で約12万人にも及ぶ事態にまで発展している。ちなみにこのキャンペーンの賛同者には、前出の安倍昭恵夫人やオノ・ヨーコ・レノン氏など影響力がある人物も名を連ねている。

 こうした世論の広がりにもかかわらず、いまだに日本のメディアがこの事件を報じない理由について、芸能プロダクション関係者が次のように明かす。

「ケイダッシュとその系列芸能プロダクションからなるケイダッシュグループは、渡辺謙や坂口憲二、高橋克典といった俳優から、押切もえや山田優などのモデル、お笑いタレント、ミュージシャンなど、数多くの人気タレントを抱えています。それゆえ今後、自社の番組や媒体への出演を断られたり、ケイダッシュのタレントをCM・広告で起用している企業から広告出稿を受けられなくなることを恐れているのではないでしょうか」

 安倍首相は、第68回国連総会における総理演説の中で、「女性が輝く社会をつくる」と明言。その発言を受けて、吉松氏は「change.org」上で「“女性が輝く社会”というのは、まず“女性が安心して輝ける環境を作ること”です。その環境を作るためには、総理のリーダーシップが必要です」と切実に訴えている。

 吉松氏支援の世論が高まる中、本事件は今後どのような展開を見せるのか。裁判の動向とともに気になるところである。
(文=成田男/フリーライター)

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