東芝は自社技術を無断で取得、使用されたことで1000億円の被害を受けたとされている。関係者によると「流出したのは、社内のセキュリティが最も高い機密情報」という。 とはいえ、NAND型フラッシュメモリの技術流出は今に始まった話ではない。東芝関係者は「90年代後半以降、東芝から多くの技術者が抜けていったが、その原因は東芝社内のゴタゴタにもある」と語る。
当時、社内ではパソコンの記憶媒体に使うDRAMが主流で、NANDは将来性が定かでなく傍流だった。ただ、DRAMがサムスン電子を筆頭とする韓国勢に敗れ、02年に撤退を決めると、DRAM部門の技術者の大半がNANDに移った。「社内のヒエラルキーで、DRAMから来た人間がなんの知識もないのに大きな顔をして、従来よりNANDに携わっていたはずの人間が追いやられた。その結果、元からのNANDの技術者は、米マイクロン・テクノロジーなどの競合他社にほとんどが移ってしまった」(当時を知る技術者)という。
一部報道によると、逮捕された元社員はデータの持ち出しを「転職を有利にするため」と語り、他社にも話を持ちかけたが断られたとしている。引き抜かれるのが日常茶飯事の半導体業界で転職に四苦八苦している姿は、自らの技術力のなさを露呈している。
前出の東芝の元技術者は「優秀な技術者であれば、データなど抜き取らなくても有益な情報を転職先に提供できる」と語るが、破綻した旧エルピーダメモリ(現マイクロン)からは米インテルなどに技術者が流出。エルピーダの二の舞いになりそうなところを官民ファンドの産業革新機構に救われたルネサスエレクトロニクスも、米フリースケールなどに技術者が多数移籍している。
今回の訴訟は、日本企業からの技術漏えいに対しては一定の抑止力は働くだろうが、「優秀な技術者の海外企業流出に歯止めをかける」という抜本的な解決にはならない。日本の半導体産業が崖っぷちの構図は依然として変わらないと、多くの関係者はみている。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)

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