「ビジネスモデルとは、『どのように価値を創造し、顧客に届けるかを、論理的かつ構造的に記述したもの』といえる。
今回、特に必読なのは特集記事『ネスカフェVSオフィスグリコ 無人販売モデルの意外な違い』だ。
ネスレ日本は通常9800円する同社のコーヒーマシンを無料で設置(無償貸与)し、1杯20円程度の格安でコーヒーを提供するサービス「ネスカフェアンバサダー」を展開している。インスタントコーヒーのネスカフェながらも、技術革新で見た目も香りも本格的だ。
「コーヒーパックの調達や代金回収などは、マシンの設置先の社員などに『アンバサダー(大使)』という“世話役”を買って出てもらうのが特徴。アンバサダーは自身のクレジットカードで材料となるネスカフェを購入。1杯20円程度で提供し、回収した代金で精算する仕組みだ。報酬なしのボランティアにもかかわらず、2012年11月のサービス開始以来、すでにアンバサダーは10万人を超え」「ネスレ日本は、20年までにアンバサダーを100万人にする目標を掲げている」「100万というのはコカ・コーラの自販機数に匹敵する数だ」(同記事より)
●富山の薬売りとヤクルトレディを現代風にアレンジ一方で、江崎グリコは1999年以来、菓子の入った「リフレッシュボックス」と呼ぶ箱を設置し、1つ100円で無人販売する「オフィスグリコ」を展開している。
オフィスに箱を設置してもらい、消費したお菓子分の入金をしてもらう。入金は職場のモラルを信じ、減った分だけ補充するという手法をとったのだ。
「現在、首都圏、近畿地区、愛知県、福岡県の4エリアで11万6000台ものボックスが置かれている。
商品の不足分を担当者が巡回・補充するという仕組みは“富山の薬売り”、オフィス内に販売して回るという仕組みは“ヤクルトレディ”のビジネスモデルだ。それをオフィスの空きスペースの有効活用、従業員のリフレッシュという意味合いで、現代風にアレンジしたビジネスモデルというわけだ。
ネスカフェアンバサダーとオフィスグリコに共通する特徴としては、従来から家庭以外で、特にオフィスで消費されてきた飲食物を扱っている点だ。そのスキマ領域に企業のビジネスが参入したのだ。セキュリティの関係で飛び込み営業することが困難になったオフィスビルなどにも容易に入っていける効果もある。
逆に、相違点もある。
オフィスグリコは商品の補充、代金回収をサービススタッフという社員が行っているためにエリアが限られ、都市部が中心にならざるを得ない。「導入先は20人以上の職場が対象」としている。
一方で、ネスカフェアンバサダーは「5~19人の職場がメイン」という。アンバサダー(社内ボランティア)が仕入れ・補充など従業員代わりに働いてくれる。しかも、アンバサダーのクレジットカードからの引き落としなので、不良債権化しにくいという利点も大きい。言ってみれば、取引先の社員が自社の協力者になってくれるので、リスクの低い優秀なビジネスだといえる。
「都市部の大企業の場合、周辺にコーヒーショップやコンビニエンスストアも多く、コーヒーを買う場所には困らない。地方の小さな職場ほど重宝がられるというわけだ」(同記事より)
ビジネスモデルが洗練されていて、これからも伸びる余地があるのは、ネスカフェアンバサダーのほうか。ただし、ともに現在の市場規模は10万件台だ。新しいものを積極的に取り入れる職場は、10万程度ということなのかもしれない。
いずれにせよ、オフィス内部に、仕事の邪魔をしないで入り込める業種はまだまだ参入の余地がある、というヒントになりそうだ。
(文=松井克明/CFP)