静岡県伊東市において、伊豆シャボテン公園、伊豆ぐらんぱる公園、伊豆高原旅の駅ぐらんぱるぽーとなどの公園を運営するソーシャルは6月26日、定時株主総会を開催。経営側と株主側が熾烈な多数派工作を行い、経営側は奇策に打って出た。
5月14日にコンサルタント会社と2個人に第三者割当増資を実施。通常であれば、決算期末である3月31日を過ぎて株式を取得した株主には、総会での議決権はない。ところが、会社側が認めれば基準日以後の株主にも議決権を付与できるという会社法の規定に基づき、ソーシャルはこれらの株主に対し議決権を与えた。従来の株主に不利益となるため、株主側は増資差し止めの仮処分を東京地方裁判所に申し立てたが却下された。
6月11日、ソーシャルは瀬川グループの本丸で筆頭株主の東拓観光とロイヤル観光を被告として、東京地裁に議決権行使禁止の仮処分を申し立てたが、「申し立てに理由がない」として却下された。
このような経緯を経て、株主総会は開催された。株主側は「議長不信任と新議長選任」の緊急動議を提出。それが可決され、株主側から新議長が出された。株主側は「取締役5名の選任」の会社提案原案に対する修正案を提出。投票の結果、取締役選任の議案は会社側、株主側のどちらの案も過半数に達せず、議長が流会を宣言して総会は終了した。
ところが、ソーシャルが6月27日に東京証券取引所に提出した「臨時報告書」によれば、会社原案の取締役5人が選任されたことになっている。小松裕介社長の賛成票は51.72%。他の取締役も全員51%台の賛成があり、他方、株主側提案の修正動議は、取締役5名全員が53.03%の反対で否決されたとしている。総会直前の6月20日に議決権を得た株主のうちの1人が会社提案に賛成し、取締役選任議案は可決したことになっている。
株主総会で議案は成立したのか、しなかったのか。取締役の選任については宙ぶらりんの状態のまま、総会後に両派は訴訟合戦に突き進んだ。
7月10日、小松社長は東京地裁に「株主総会決議不存在、決議存在確認及び取締役の地位確認訴訟」を提起した。新議長が、総会において株主1名の事前の議決権行使を表決に加えない措置をしたことは、議長の権限の範囲を超えた違法措置であり、法的効力はないという主張だ。
従って、会社提案原案が否決されたという決議は存在しないことの確認、会社原案提案が可決されたことの確認及び取締役候補者が取締役の地位にあることの確認のために法的手続きを取った。会社提案の取締役選任案が可決したことを法的に確定するのが狙いだ。
これに対して7月16日、個人株主と東拓観光、ロイヤル観光はソーシャルに対して、臨時株主総会の招集を請求した。
それに先立つ7月9日、静岡県警生活経済課と伊東署は、ソーシャルの主要子会社サボテンパークアンドリゾーツに対する産業廃棄物処理違反容疑で、同社が運営する「伊豆ぐらんぱる公園」内事務所の家宅捜索を行った。
公園から出た廃材、プラスチック、コンクリート、植え替えたソテツなどを隣接地の山林に大量不法投棄した疑いだ。県警は容疑が固まり次第、関係者を立件する方針だ。ソーシャルの経営の混乱に警察の動きが一枚加わり、事態はさらに複雑さを増した。
●山口氏と瀬川氏の関係とはソーシャルの泥沼の歴史を振り返ってみると、「日本長期信用銀行(長銀)を食い潰した男」と呼ばれたイ・アイ・イ・インターナショナル元社長の高橋治則氏が深く関わっている。
高橋氏は1995年、買収した東京協和信用組合、安全信用組合から背任罪で告訴され、逮捕・起訴された(二信組事件)。いったんは表舞台から姿を消すが、2002年ごろに息を吹き返した。水面下で株の仕手戦やM&A事業に乗り出し、手がけた銘柄は20社に上った。そのうちの1社がオメガプロジェクトホールディングス(以下、オメガ)で、後のソーシャルだ。
05年7月に高橋氏が急死し、右腕だった横濱豊行氏がオメガの会長として実権を握った。
これにより、高橋氏のスポンサーであった大株主の瀬川氏、会長を退いたものの引き続き影響力を残したい横濱氏、主導権を発揮したい近藤宜彰社長による三つ巴の争いが始まった。
瀬川氏は44人が死亡した01年の東京都新宿区の歌舞伎町雑居ビル火災で、ビルの実質的な経営者として有罪判決を受けたが、広島市を本拠地に風俗店を展開し、証券界では有力仕手筋として名が通るなど、表裏それぞれの世界で活躍してきた。
そんな瀬川氏や横濱氏という海千山千を相手に、30代の近藤社長はとても太刀打ちできない。そこで助っ人に頼んだのが高橋氏の盟友、山口氏だった。山口氏は、高橋氏が失脚した二信組事件で逮捕起訴され、実刑判決を受けて服役。09年10月に仮出所したばかりだった。
山口氏は、直接株式も持たず、役員でもないが、実質的に経営を牛耳っていると多くのメディアで報じられている。山口氏の関与する会社から不自然な借金を重ねるなど、疑惑も多く指摘されている。
その後オメガは10年10月、ソーシャル・エコロジー・プロジェクトに社名を変更したが、山口氏が支配する経営陣と、瀬川グループの戦いは延々と続いているのである。
果たして、臨時株主総会で勝負はつくのだろうか。
(文=編集部)