「ブラック企業アナリスト」として、テレビ番組『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)、「週刊SPA!」(扶桑社)などでもお馴染みの新田龍氏。計100社以上の人事/採用戦略に携わり、数多くの企業の裏側を知り尽くした新田氏が、ほかでは書けない「あの企業の裏側」を暴きます。

「農業委員会」という組織をご存知だろうか。身近に農地が少ない都市部在住者には馴染みがないかもしれないが、教育委員会などと同じく、日本の市町村単位で設置が義務付けられている行政委員会だ。委員会を構成する農業委員は、地元農家から選挙で選ばれた選挙委員と、市町村長から選任される選任委員からなり、「特別職の地方公務員」という扱いになっている。

 農業委員会の主な仕事は農地行政に関する事務であり、農地売買や農地転用に際して、農地の無秩序な開発を監視・抑止する役目を担っている。具体的には、「農地の売買や貸借の許可」「農地転用案件への意見具申」「遊休農地の調査・指導」などを担当する。

 そもそも農地というのは、個人所有の不動産でありつつも、国民の食料を生産する公共的役目を持つ一面も有しているという考え方に基づき、農地所有者の個人的な意思だけで勝手に売買処分や地目の変更はできない。

一定の制限が課せられているかわりに、固定資産税などは低く抑えられている。

 このような経緯から、農地は原則として農家の要件を満たさない者への所有権移転等は認められず、都市計画の用途指定区域にある農地を除き、簡単に宅地などへ地目変更できないという決まりがある。この許認可権を握っているのが、各地の農業委員会なのだ。

 しかし、本来は農地確保と有効利用を推進するために存在する農業委員会が、利権を振りかざす一部委員の個人的な思惑により、地元農家が迷惑する存在となっていることはあまり知られていない。

●農地造成業者とのトラブル発覚

 A社(仮名)は、神奈川県横浜市北部を中心に農地造成を行っている業者であり、これまで10年以上の経験と豊富な実績を持っている。今回、そのA社と、横浜市の農業委員であるB氏(仮名)とのトラブルが発覚した。

 発端は2013年夏のことだ。A社が造成を担当した土地の現地立会いにB氏が参加した際、B氏は「A社と関係する業者は、この町内で仕事をできなくしてやる」との暴言を吐いたのである。その後も、A社の農地造成に関して合理性のない修正を指示し、無駄な修正工事を行わせるといったことが起こった。

 そして今回問題となっているのは、同市内の別の農地造成に関してである。この土地は傾斜地にあるため、豪雨のたびに土壌が流出してしまい、畑地の地形も変わるため、放置すれば畑地としての価値も低下してしまう恐れがあった。その傾斜を修正するという、合理性が極めて高い造成工事をA社が請け負うこととなり、隣接地の所有者からの同意も得て今年1月、農業委員会に事前相談書を提出した。

 しかし2月に行われた現地立会いの際、B氏は理由なく「農地造成の必要なし」との見解を示したばかりか、A社に対し「農地造成業務をやめろ」とも発言したのである。その後、地主とB氏を交えて協議を行い一件落着したものと思われたのだが、今度は3月に隣接地の地主に確認したところ、B氏から「同意書に署名しないように」と連絡を受けたとのことであった。

 農業委員会の承認がない限り、農地に関する決め事は何も進まないし、役所さえも動けない。ちなみにB氏は、横浜市の農業委員、農協の地区副理事、そして工事部長を兼ねている。本来ならばさまざまな問題を調整してうまく仕事を進ませる役割であるはずのB氏が、合理的な理由や説明もなく工事を止めているのだ。

 このようなB氏の言動は、法的にも、民事的には業務妨害行為、行政法的には裁量権の濫用行為、刑法的には威力業務妨害罪、公務員職権濫用罪にあたる違法な行為であり、農業委員として不適切な行為である。

 さらにB氏は、自らも農業を営んでいるのだが、農地法に関する条例や規制に関する情報をいち早く得られるという立場を悪用し、自らの農地の工事造成を規制がかかる前にやってしまうなどの利権悪用行為も見受けられる。

●横浜市中央農業委員会、事実と異なる回答か

 このような人物が、農業行政において許認可権を持っていることは問題ではないのか。筆者は横浜市中央農業委員会に対し、次の点について取材を申し込んだ。

「上記事件について、関係者に取材の上で事実確認しているが、農業委員会として何かしらの疑義があるか?」
「B氏の行為は裁量権の濫用のみならず、法的にもグレーであり、農業委員として不適切であると思われるが、農業委員会としてどのように考えているのか?」

 これに対し横浜市中央農業員会会長の名義で、次のような回答が寄せられた。

「土砂流出している土地に隣接する土地の所有者が、土砂対応で苦慮している件は、B委員からの報告を受け回答している」

「農地造成に関する手続きは、申請者から事前相談書の提出を受け、関係行政部署とも調整のうえ、農地造成に向け必要な要件や意見等を付した回答書を渡している。申請内容については、当委員会で委員の合議により審議することになる。

施工場所が土地改良区内等で地域農業団体が存する場合には、その意見を確認することになっている」

 しかし、この回答内容は筆者の取材により確認した事実とは異なるものであった。まず、「隣接する土地の所有者」から「苦慮している」というようなクレームはまったく発生していない。横浜市中央農業委員会は、B氏の報告書の真偽について確認しているのであろうか。さらに、土地改良区に関して横浜市は介入できないはずだが、なぜ農業委員が介入しているのかという疑問が残る。

 筆者はこれらの点を指摘した上で、改めて以下の点について横浜市中央農業委員会へ問い合わせを行った。

「そもそもB氏が、なんの違法事象もないにもかかわらず、『A社と関与がある業者すべてに農地造成をさせない』と脅迫した事実は把握しているのか?」

 回答期限を過ぎた現時点においても、まだ回答は得られていない。


(文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)

横浜市農業委員会、利権濫用・脅迫的行為で農家が被害 農地価値低下を招く行為も
新田 龍(にった・りょう):株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト。
早稲田大学卒業後、「ブラック企業ランキング」ワースト企業2社で事業企画、人事戦略、採用コンサルティング、キャリア支援に従事。現在はブラック企業や労働問題に関するコメンテーター、講演、執筆を展開。首都圏各大学でもキャリア正課講座を担当。