昨年6月、当時1学年だった男子学生が、上級生に服を脱がされて体毛に火をつけられ、腹部に全治3週間のやけどを負ったほか、今年5月、地元に帰省した際に休暇届を出すのが遅れたことを理由に、上級生や同級生から殴られるなどした。
防大OBで現役幹部陸上自衛官は、こうしたいじめは、防大はもとより自衛隊全体にはびこる悪弊であるといい、その内情を次のように明かす。
「寝ている学生を靴やスリッパで叩いて起こす。服を脱がせ体毛を焼く。先輩の男性器をくわえさせ、それを写真に撮るなどのいじめは、数年前でも校内では行われていた。自衛隊の中でも、そうした事案は多々耳にする。今回、こうして公になったことで、自衛隊の悪弊を絶つための、いいきっかけになると思う」
その一方で、同じく防大OBで現役幹部海上自衛官は、「こうしたいじめに耐える、いじめられないように立ち振る舞うことも自衛官としての修行になる」と話す。
「そもそも、いじめに遭うのは動作が緩慢な者か、やたらと正論を吐く理屈っぽい者が多い。自衛隊のような戦闘組織は命令一下、たとえ理不尽な命令でも率先して動かなければならない。動作が緩慢な者はいざというときに組織の足を引っ張る。海外からの侵略や震災などの有事の際は、『何が正しいか』を議論している間に、事態が深刻化することもある。
異なる見解を示すOBだが、「この告訴した男子学生が、これから防大に復帰して生きていくことは極めて難しい」との点では一致している。●ITの発達で、密室の出来事を告発しやすい環境に
昨年は保険金詐欺事件が発覚したが、防大ではほかにも、ここ数年の間に不祥事が頻発している。
これについて前出の防大OB2人は、「ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)が発達するなど、インターネットの利用が増えたことで、防大外部へのアクセスが容易になったからではないか」という。つまり、不祥事が増えたというよりも、不祥事を告発しやすい環境になってきたということか。
それでも公になっているのは、氷山の一角にすぎないようだ。防大OB、現役防大生をはじめとした関係者たちは、上級生による下級生への暴力を伴う指導、男子学生による女子学生への性的暴行など、表に出てこない不祥事は数多くあるといい、今回発覚したいじめ事案は、あくまでそのうちのひとつでしかない。
長年、防大という密室の中での出来事は、外からはうかがい知ることができなかった。しかし、IT環境が発達したことで、内部からおかしいと思うことを告発し、事を公に解決しようとする動きが出てきた。防大内の膿を出し切ることはできるだろうか。
(文=秋山謙一郎/ジャーナリスト)