サンマが旬の季節に入りましたが、筆者は秋の新鮮なサンマが大好きです。軽く塩を振ってじっくり焼いたサンマは内臓まで美味しく頂いています。
北海道などで朝獲れたサンマを入荷している居酒屋などでは、サンマの刺身が食べられることを旅の楽しみにしています。

 スーパーの店頭で「○○産 朝どれサンマ」などとポップに表示されているのを目にしたことはありませんか。関東のお店で「千葉産朝どれサンマ」が夕方並んでいれば間違いなく「朝どれ」かもしれません。朝獲ったサンマを当日中にスーパーまで運んだとしても、その日のうちに並べて売り切らなければ、翌日は朝どれサンマではなくなってしまいます。スーパーでは入荷日を記したシールが、サンマを入れた発砲スチロール箱に貼られています。売り場に出ている箱の横を見ると、入荷日が前日だったことがあります。


 魚に限らず野菜でも「朝どれ○○」はよく見かけますが、例えば「朝どれレタス」は、太陽が上る前に収穫されると光合成を始めていないので美味しいといわれています。レタスを畑から採ったあと、すぐに真空冷却を行い冷蔵保管すれば翌日でもおいしさが保たれるので、前日に採ったレタスが「朝どれレタス」として販売されることがあります。サンマも前日に獲れたものが「朝どれサンマ」として売られることがありますが、このような行為は「今朝獲ったので新鮮」という誤ったメッセージをお客様に伝えてしまうため、表示違反になると筆者は思っています。もちろん、獲れた時期をお客に伝えるのではなく、ただ「新鮮です。刺身で美味しい」とポップに記載するのであれば、なんの問題もありません。新鮮な魚は刺身用に、鮮度が落ちれば焼き魚・煮魚用に販売するのが、お客のことを考えているお店の表示だと思います。
●「5時以降につくりました」の嘘


 夕方にスーパーの総菜売り場に行くと、「5時以降につくりました」といった表示がよく目に止まります。

 この「5時以降につくりました」というのは、どういうことを指すのかを考えてみます。

 例えば、スーパーの厨房でマグロの刺身をつくる場合、どの作業が5時以降ならこのように表示することができるのでしょうか。一般的なスーパーでは、大根のツマなどは工場でつくられたものを仕入れます。マグロは柵になっている物を仕入れます。トレイにツマをしいて、マグロの柵から切ったマグロをトレイに並べて、トレイの蓋をして、一括表示のラベルを貼って完成です。


 
 法律上の製造時間は、一括表示のラベルを貼るところで製造が完了することになります。製造時間をラベルに表示しているお店であれば、5時過ぎにラベルを発行すれば自動的に表示される製造時間もその時間になります。つまり、昼頃に刺身を切り、一旦トレイの蓋を閉めて冷蔵庫に保管し、夕方5時になるのを待ってラベルを発行したとしても法律上は問題ないのです。

 筆者がスーパー品質管理担当の時にバックヤードの冷蔵庫扉を開けると、ラベルの貼られていない刺身が大量に保管されていました。刺身の責任者に確認すると、「5時以降のラベルを貼りたいから、それまで冷蔵保管している」との答えでした。法律上の問題はなくても、倫理的には問題があるといえます。

●法律よりも優先すべき土台


 企業はものを製造して販売し、利益を出し続ける必要がありますが、その過程においては法律違反をしないことが大切です。しかし、法律よりも優先すべき土台があります。それは働いている従業員が長い人生の中で身につけてきた、個人個人の倫理感です。法律で決められていないことはたくさんあります。

スーパー、嘘表示が横行するカラクリ 朝どれサンマ、「5時以降につくりました」の惣菜…

「法律に書いていないから」「法律で決められていないから」と法律を盾にとって物事の善し悪しを決める人もいます。大切な子どもの健康を考えた食品を製造する場合、本当に「5時以降に製造しました」という表示でいいかどうかを、従業員一人一人の倫理感で考えて見ることが大切です。

法律にないこと、企業の規則・ルールにないことでも「自分の倫理感上おかしい」と思った時は上司に話してよい。上司が聞く耳を持たない場合は、上司の上司に話してもよい。それでもダメな時はこのコールセンターに連絡する。こうした仕組みをつくり、従業員教育を行う必要があるのです。
 
 牛肉の挽肉に豚の心臓やパンを入れるという行為は、上司の命令であっても大切な子どもの健康を考えると、食品製造にはふさわしくない行為だということは倫理上明確なはずです。2007年、食品加工会社ミートホープの牛肉偽装が発覚しましたが、初めに社長から偽装を指示された時に、従業員の中で一人でも声を上げて、第三者のコールセンターなどに通報していれば、同社はその後も存続していたかもしれません。
声を上げなかったために、従業員は働く場所をなくしてしまったのです。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表) 

●河岸宏和
食品安全教育研究所代表。1958年1月北海道生まれ。帯広畜産大学を卒業後、農場から食卓までの品質管理を実践中。これまでに経験した品質管理業務は、養鶏場、食肉処理場、ハムソーセージ工場、餃子・シュウマイ工場、コンビニエンスストア向け総菜工場、玉子加工品工場、配送流通センター、スーパーマーケット厨房衛生管理など多数。 毎年、100カ所以上の食品工場点検、教育を行っている。

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【著書】 
『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます』『スーパーの裏側 安全でおいしい食品を選ぶために』『放射能汚染食品、これが専門家8人の食べ方、選び方』(以上、東洋経済新報社)、『日本の農業は風評被害に負けない』『“食の安全”はどこまで信用できるのか 現場から見た品質管理の真実』(共にアスキー・メディアワークス)、『ビジュアル図解 食品工場の点検と監査 』『ビジュアル図解 食品工場の品質管理』『ビジュアル図解 食品工場のしくみ』(以上、同文舘出版)、『図解入門ビジネス 最新食品工場の衛生と危機管理がよ~くわかる本』『食品販売の衛生と危機管理がよ~くわかる本』(共に秀和システム)