事務用品大手コクヨが、筆記具大手ぺんてるの事実上の筆頭株主となった。ぺんてるの普通株式37.45%を保有するマーキュリア インベストメントが運用するファンドに101億円出資し、同ファンドの支配権を得た。

コクヨがぺんてるに間接的に資本参加したことになる。

 マーキュリアは日本政策投資銀行が24.5%を出資する中堅の投資ファンド。2018年3月に傘下のファンドが、ぺんてるの創業家の堀江圭馬・前社長から持ち株を取得し、筆頭株主になった。取得金額は70億円程度とみられる。

 ぺんてるはファンドの持ち分のコクヨへの売却を直前まで知らされなかったため、猛反発した。株式取得の経緯を問題視し、コクヨからの提携に向けた話し合いの申し入れに応じていない。

 なぜ、“間接出資”なのか。ぺんてる株は譲渡制限が付いた未公開株だ。株式の譲渡には、ぺんてるの取締役会の承認を得る必要がある。コクヨは直接、ぺんてるの株主になるわけではない。あくまでファンドに出資するだけだ。ぺんてる株の名義はファンドのままなので、売買に相当せず、譲渡制限には抵触しない。

そのため、事前にぺんてるに通知する義務はないとの理屈だ。

 一方、ぺんてるは特定の企業に株式の37%を保有されることを避けるため、複数の事業会社への分割譲渡を希望していた。計画では譲渡先に文具大手プラスなど複数の文具メーカーが含まれていたとされる。

 そこでファンドは、ぺんてるの筆頭株主にとどまり、コクヨはファンドに出資するかたちをとる“奇策”を編み出した。これでは正当なM&A(合併・買収)とは言い難い、との厳しい指摘もある。

ぺんてるの御曹司は、ぺんてる株の売却で得た資金で投資会社を設立

 事の発端は12年5月、ぺんてる創業家の3代目・堀江圭馬社長の解任劇にまでさかのぼる。

 堀江氏は創業者の孫として米ロサンゼルスで生まれた。慶應義塾大学法学部政治学科在学中は、カヌー部のインカレ優勝に貢献したスポーツマン。米ジョージ・ワシントン大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。02年、32歳の若さでぺんてるの社長に就任した。

 堀江社長は12年5月23日の取締役会で定年(62歳)を過ぎた役員4人の退任を求める予定だった。ところが逆に、ここ数年の業績不振に対する責任を取るべきだとの理由で社長解任動議が出され可決された。

海外で豪遊を繰り返すなど御曹司の道楽に古参の役員たちの堪忍袋の緒が切れたということだ。その後、生産畑出身の和田優氏が社長に就いた。

 堀江氏は、家族と合わせてぺんてる株式37.45%を保有する筆頭株主だ。社長復帰を目指していたが、株主でもあるほかの堀江一族の支持が得られなかった。

 帰り咲きを諦めた堀江氏が株式の売却を持ちかけたのが、未公開株を中心に投資を行うマーキュリアだった。マーキュリアは17年12月、ぺんてる株式の受け皿となるファンドを組成した。

 一方、堀江氏は18年2月、ラーテルハートを設立。ぺんてる株を売却した資金を元手に消費財の新製品開発を行う企業への投資事業を始めた。

 関係者によると、ぺんてるの経営陣は文具大手のプラスとの経営統合を希望していたとされる。マーキュリアがこの統合計画に乗らず、コクヨの出資を受け入れたことが、こじれる元になったようだ。

ぺんてるは海外売り上げが6割超

 コクヨの黒田英邦社長は創業家の4代目。甲南大学経営学部卒、ルイス&クラークカレッジ経済学部を卒業し、01年にコクヨに入社。

15年、父である黒田章裕氏(現会長)の後を継いで社長に就いた。

 コクヨは10年代から海外市場に進出している。11年にインドのノート製造会社、12年には中国の同業を買収。「海外売上高比率を20年度に30%以上に高める」計画を立てたが、計画の達成はおぼつかない。

 21年12月期を最終年度とする3カ年の中期計画では、17年12月期に7%だった海外売上比率を10%程度に高めるとした。インドや中国だけでなく、新しい国・地域へ進出するとしているが、前途は多難だ。

 そこで、海外進出のカードとして、ぺんてるに目をつけたわけだ。ぺんてるの18年3月期の連結売上高は409億円。欧米やアジアなど海外約20カ所に販売拠点を持ち、海外比率は65.3%に上る。海外が主力なのである。

 コクヨはぺんてるを事実上、買収して、海外の強化につなげることができるのか。創業家4代目の腕の見せどころだ。

ぺんてるの株主総会はコクヨ不信一色

 非上場のぺんてるの株主総会がこれだけ注目を浴びたのは、コクヨ問題があったからだ。ぺんてるは非上場ながら、取引先やOBなど数百人の個人株主がいる。

 6月26日に開催された株主総会では、個人株主が提案していた自社株買いの議案が否決された。提案した個人株主は、「株式総数の3%を上限に、1株2000円で株式を買い取るよう」要求していた。買い取りを実施するには5億円余の資金が必要で、減収減益が続くぺんてるには負担が重かったことから、株主提案には反対していた。

 筆頭株主のファンドにコクヨが大口出資しており、自社株買いがコクヨの影響力の拡大につながるとの警戒感もあったようだ。

 株主総会で、和田社長はコクヨに言及。「信頼関係が築けておらず、コクヨが求めている海外での提携の話し合いのテーブルにはついていない」といった趣旨の説明をしたようだ。協業への道程は遠い。

 5月以降、ぺんてるの和田社長とコクヨの黒田社長は数度、協議したという。独立を主張するぺんてるはコクヨに対して「ぺんてる株を間接取得した経緯の説明や株の買い増しをしないよう」求めてきた。

 ぺんてるの経営陣と取引先の思惑は必ずしも一致していない。「いつまでも対立していてはビジネスチャンスを失う。歩み寄るべきだ」との意見が取引先にはある。

 ノートが主力のコクヨと筆記具のぺんてるは商品の重複も少ない、というメリットもある。

 ぺんてるの経営陣は、依然としてプラスとの経営統合を視野に入れているとの情報がある。プラスは非上場ながら年商は1772億円(18年12月期)。ぺんてるの4倍以上の企業規模だ。総合文具メーカーとして、コクヨの次がプラスという勢力地図になっている。ぺんてるとプラスは共同で販売会社を計画するなど関係は深い。

 一方で、コクヨにとってプラスは、オフィス家具の通販などで競合するライバルだ。業界内では「PK戦争」と呼ばれるほど、営業面で激しくぶつかり合っている。そのため、ぺんてるを介してコクヨとプラスが握手することは考えられない。

 しばらくはコクヨとプラスの綱引きが続くことになるのかもしれない。
(文=編集部)