美顔器「ReFa(リファ)」や腹筋などのトレーニング機器である「SIXPAD(シックスパッド)」を手がける、健康美容機器企業MTGの経営先行きに不透明が高まっているとの見方があるようだ。

 その背景には、中国の規制強化を受けた美顔器需要の落ち込みと、上海の子会社が不適切な会計処理を行っていたことがある。

それに加え、MTGのグローバルブランド事業本部でも不適切な会計処理がなされた疑義が浮上してきた。一連の問題が業績と今後の経営にどう影響するか、現時点では判断が難しいだろう。

 もともと、MTGはブランディングで成長してきた企業だ。同社は超人気サッカープレイヤーのクリスティアーノ・ロナウド選手などを広告塔に起用し、成長を追求してきた。経営者の発言などを見る限り、MTGの成長志向はかなり強い。それは重要なことだが、同時に同社の経営管理体制は不十分だ。

 MTGがこのまま成長を追求することに、市場参加者は懸念を募らせている。同社は冷静に問題の原因を突き止め、その教訓を生かしたガバナンス体制を整備しなければならない。過度な成長志向をいさめ、持続可能な経営を目指すことができるか、MTGは正念場を迎えた。

中国EC法施行による美顔器事業の失速

 MTGの売り上げ構成をブランド別にみると、美顔器リファが55%程度を占める。加えて、MTGは海外での売上高を急速に増加させてきた。それを支えたのが、中国の需要だ。

 2019年9月期の業績修正に関する説明資料によると、美顔器リファの売り上げの40%が中国向けだ。中国では経済成長率に伴って所得が増加してきた。人々がより多くのお金を手にし、より良いもの、より良い生活、美容、健康を手に入れようとするのは当然だ。MTGは超有名人を広告塔に起用して自社製品の性能などをアピールすることで、中国の需要を取り込むことには成功した。

 ただ、中国政府の規制強化により、MTGが中国事業で収益を稼ぎ、高い成長を続けていくことは難しくなっている。1月、中国政府は電子商取引(EC)法を施行した。この法律は、中国人ブローカーが転売を目的に商品を購入する“代理購買”の取り締まりを目指している。

 この結果、MTGの業績拡大を支えた韓国での販売が急速に減少した。中国のインバウンド需要を取り込んできた日本の百貨店や免税店などにおいても中国EC法の施行とともにリファに対するインバウンド需要が失速してしまった。MTGは中国国内における美顔器への需要は底堅く推移すると見込んではいるものの、日韓の販売減少を埋め合わせるだけのモメンタムはない。MTGは2019年9月期の営業利益を当初計画の98億円から10億円に引き下げた。

 MTGにとって中国の需要に支えられた美顔器事業の動向は、ブランディングを通して高付加価値の商品を販売して収益を獲得するというビジネスモデルを揺るがす問題だ。

トレーニング機器であるシックスパッド事業の売り上げは、緩やかに増加している。ただ、美顔器事業への依存度が高く、当面の業績への不安は高まりやすい。

中国子会社における不適切取引の発覚

 MTGは中国需要の急減に加え、中国の子会社であるMTG上海における不適切な取引や会計処理、および虚偽説明の疑義といった問題にも対応しなければならない。中国子会社の問題からいえることは、MTGが成長を過度に追求し、中国ビジネスのリスクを見落としたことだ。企業として成長を追い求めることは当然だ。それは、持続可能なものでなければならない。MTGは相対的に成長期待の高い中国に狙いを定め、その需要取り込みを狙った。その発想自体に問題はない。

 加えて、企業が持続的な成長を実現するためには、コーポレートガバナンスの体制を整え、強化することが欠かせない。その目的は、過度なリスクテイクがないか、適切に会計などの業務が行われているかを客観的にチェックし、経営者の強欲の行き過ぎを防ぐことだ。

 振り返って考えると、MTGはあまりに前のめりの姿勢で成長を実現しようとしてしまった。2008年から2018年までの間に同社の従業員数は17倍近く増えた。

昨年7月には東証マザーズ市場への上場も果たした。上場を行えば、経営者は株主への説明責任も果たさなければならない。

 利害関係者が増えるに伴い、ガバナンス体制を整備することは不可欠だ。しかし、MTGはガバナンスの整備よりも中国での利得確保を優先してしまった。中国では、日本の常識が通用しないことが多い。リスクの管理には、国内事業とは異なる発想が必要だ。住宅設備大手のLIXILでは買収した中国子会社の不正会計が発覚し660億円の損失を計上した。ファミリーマートも中国事業をめぐって、パートナー企業との関係が悪化している。

 中国で事業を行ってきた商社出身の知人は、「中国でビジネスを行う場合は、はじめから最後まで、本社の考えに基づいたマネジメントを徹底できるかが成否を分ける。現地任せにすると、問題が発覚した際に手が付けられないこともある」と話していた。

正念場を迎えたMTG

 MTGの経営を見ていると、次から次に想定外のことが起き、どのように経営が安定し改善に向かうか、先行きが見通せない。この状況のなかで、多くの投資家が同社の経営に不安を募らせていることはいうまでもない。

 6月13日には、MTGのグローバルブランド事業本部でも、中国向け越境電子商取引(EC)事業における会計処理に関する疑義が出てきた。これを受けて、MTGは第2四半期の報告書提出を再延長した。現時点で、直近の業績と経営管理体制の問題がどの程度深刻か、市場参加者は判断するすべを持ち合わせていない。

 気になることは、経営トップが自社の置かれた状況を冷静に把握できているか否かだ。5月、MTGのトップは不適切な取引は中国に限った問題との見解を示し、決算の過年度修正も否定した。加えて、業績のV字回復へのこだわりも示した。

 MTGの経営陣に求められることは、冷静かつ迅速に、自社の事業内容を精査することだ。その上で同社は自社に適した成長戦略を策定し、客観的にその執行をモニターしなければならない。それが、現在のMTGに求められる取り組みである。

 もし、経営陣が成長重視の姿勢をとり続けるならば、市場参加者はMTGのリスクテイクが実力を上回っていると考えはじめるだろう。その場合には、経営への不安から同社の株価が一段の下押し圧力にさらされる展開も否定はできない。

 このように考えると、MTGがコーポレートガバナンスの体制を整備して適切に業務を遂行することが求められる。

それが、持続的な経営と株主をはじめとする利害関係者との良好な関係維持につながるだろう。その体制が整えば、市場参加者が再度MTGのブランディング力を評価し、成長への期待を高める可能性はある。

 従来の成功体験がある分、MTGの成長志向は強い。それをこらえて経営の根幹を固められるか、MTGは正念場を迎えている。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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