女性を中心に熱狂的なファンを擁する「カルディコーヒーファーム」。店頭で店員が「コーヒーを 飲みながらゆっくり店内をご覧ください」などと声をかけながら、試飲用のコーヒーを配っている姿を見かけた人も多いだろう。

一方で、カルディの存在は知っていても、店内に踏み込んだことがなく、どういった店なのかを詳しく知らない人も少なくないのではないか。

 カルディとは、どのような店なのか。なぜ人気があるのか――。

 カルディは、コーヒー豆や輸入食品を扱う小売店だ。運営会社のキャメル珈琲は、主力のカルディを運営するほか、コーヒー豆などの卸売りや飲食店の運営などを行っている。同社の業績は好調で、2018年8月期の売上高は前期比6%増の945億円だった。売上高は右肩上がりで増えており、 近年は年に5~8%程度の高い伸び率を示している。

 同社の業績を牽引しているのがカルディだ。1986年に京王電鉄と東京急行電鉄が乗り入れる下高井戸駅の近くに1号店がオープン。2010年に国内200店を達成し、その後、急速に店舗数を増やしてきた。12年には300店に達し、17年に400店となった。18年8月時点では421店となっている。

このようにカルディは大きく成長し、それに合わせてキャメル珈琲の業績も伸びていった。

 カルディのメイン商材は、屋号に「コーヒー」とあることからもわかるように「コーヒー豆」だ。約30種類のコーヒー豆を扱っており、品ぞろえは豊富だ。

 なお、「カルディ」の名前の由来は「エチオピアのヤギ飼いが飼っていたヤギがコーヒー豆を食べて興奮状態になったのを見て、自身も同じようにコーヒー豆を食べてみたところ、元気が出た」という伝説があり、そのヤギ飼いの名前が「カルディ」だったことからきている。カルディの手提げ袋や店舗の外装にヤギが描かれているのはこのためだ。

コーヒー豆を売るための施策

 カルディではコーヒー豆がメイン商材となっているとはいえ、コーヒー豆自体は差別化されたものではない。オリジナルのブレンドコーヒー豆も販売してはいるが、特別なコーヒー豆を売っているわけではないのだ。

 また、コーヒー豆は価格帯が特別低いわけでもない。200グラムで500~800円程度のものが中心で、高級スーパー「成城石井」やカフェチェーン「スターバックスコーヒー」などよりは安いが、一般的なスーパーと比べると高い。カルディのコーヒー豆は低価格とは言えず、価格競争力が高いわけでもない。

 そのため、コーヒー豆をただ販売するだけでは競合との競争に勝つことができない。そこでカルディはコーヒー豆を売るためにさまざまな施策を講じている。

 まず挙げられるのが「試飲」だ。カルディは店頭でコーヒーの試飲を客に対して積極的に実施している。コーヒーが注がれた紙コップを店員が来店客に配っている。もちろん、試飲は無料だ。

 店頭で試飲してもらうことで、「自宅でも同じコーヒーを楽しみたい」と思わせることができる。また、人の好意に報いたいという心理が働く「返報性の原理」により購買につなげる狙いもある。さらに、コーヒーの味を思い出させることで、コーヒーに合う食品の購買につなげる狙いもあるだろう。

 こうした店頭でのコーヒーの無料提供は、1992年にオープンした下北沢店で実施したのが始まりだ。夏の暑い時期に来店する客に対し、感謝の気持ちを込めてアイスコーヒーを無料で提供したところ、これが好評だったことから、カルディ全体で行う取り組みとなった。

 コーヒーに合う輸入食品が豊富なことも、コーヒー豆の販売につながっている。カルディではクッキーやチョコレート、ケーキといったコーヒーに合う食材を数多く取りそろえている。ワンストップでコーヒーとそのお供になる食材を買えるという利便性が、コーヒーの販売につながっているのだ。

 輸入食品のラインナップは多種多様だ。タイの「トムヤムスープ」やイタリアの「トマト缶」、アメリカの「サラミ」、インドネシアの「ナシゴレンの素」、ヨーロッパ各地やアメリカ、チリ、アルゼンチンといった世界各国の「ワイン」など、国際色豊かな食品を豊富に取りそろえている。

個性的な品ぞろえがSNS時代にマッチ

 カルディはオリジナル商品も展開している。パンダのデザインの箱に詰めた「杏仁豆腐」や「サバの水煮」、「豆乳ビスケット」などバラエティに富んでいる。オリジナル商品の「ガーリックマーガリン」は、年間15万食を売り上げる大ヒット商品となった。

 日本各地の名産品を使った食品も豊富だ。06年にもへじを設立。「北海道から」というオリジナルブランドをつくって、北海道産のメロン果汁を使用した「キャンディー」や北海道で漁獲されたサンマを使用した「サンマの味噌煮」など北海道ならではの食品を扱うほか、大分県産のカボス果汁を使用した「カステラ」、鹿児島県産の皮付きゴボウを使用した「ゴボウ茶」など、日本各地の特産品を使った食品を開発し、カルディで販売している。

 こういった国内外の食品を適宜投入するほか、季節性のある商品を随時投入することで、常に売り場に変化を持たせ、客を飽きさせないようにしている。季節商品は、たとえば、この7月からは、暑い季節でも爽やかに飲める味わいの「ワインカクテル」を発売した。1月には、寒い季節にぴったりで体が温まる韓国料理の「サムゲタン」を販売している。こうした季節に合った商品を次々と投入し、売り場の鮮度を保っているのだ。

 こうした個性的で豊富な品ぞろえは、今のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)時代に即している。カルディの商品は、ほかでは手に入らない珍しいものばかりなので、どういった商品なのかを伝えることが難しいという側面がある。そのため、客は買うのを躊躇してしまいがちだ。だが、今はSNSが発達しているので、味の感想や調理方法などをネット上で確認することが容易だ。購入前に商品に関する情報を手軽に入手できるので、購買のハードルは、かつてと比べてかなり低くなっている。 客は安心して買えるので、SNSの発達はカルディにとって追い風といえる。

 カルディは独特の陳列方法で商品を並べているのも特徴的だ。天井近くまである木でできた棚に、所狭しと商品を陳列。店内の照明は照度を落としてやや暗めにし、間接照明で商品を照らして商品が目立つようにしている。内装は「西洋の図書館」をイメージして設計されているという。目当ての本を探すかのような感覚で商品を見つける楽しさを演出している。

 カルディの陳列は、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」の、商品を天井近くまで積み上げる「圧縮陳列」と呼ばれる陳列方法と酷似している。

ドンキは「ジャングル」を連想させる非日常空間を演出しているが、カルディの「西洋の図書館」もそれと似たようなものだ。カルディには「ワクワクドキドキ」させる空間があり、それが客を魅了している。

 カルディに行けば、ほかにはない商品と体験が得られる。それが強さの秘密だ。真似しようにも簡単に真似できないものがカルディにはある。カルディの快進撃はまだまだ続きそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。

店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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