8月の2日(金)、3日(土)、4(日)に開幕される世界最大のアイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL」。“現場系”有名アイドルヲタク・ガリバー氏がつづる本連載では、【前編】に続き、この「TOKYO IDOL FESTIVAL」の歴史を振り返ります。
【前編】で述べた通り、当初よりTOKYO IDOL FESTIVAL(以下、TIF)は、アイドリング!!!あってのイベントであると認識されていた。そのため、その継続開催に対しては、毎年懸念されつつも続行されてきた印象があった。「来年は開催されるのか」「採算が取れているかどうかもわからないイベントのために、いつまでフジテレビがお金を出し続けるのか」「アイドリング!!!にとって“効果”はあるのか」――。
その不安は2014年、アイドリング!!!の解散発表によってもっとも高まることとなる。長期持続がなかなか困難な女性グループアイドルという存在を、イベントの象徴として戴いていることの危険性があらわになったわけである。しかしここでフジテレビは、「TOKYO IDOL PROJECT」(以下、TIP)を発足させ、その不安を払拭してみせる。TIPの立ち上げによって、TIFを継続開催し、TIFを中心としたアイドル事業を展開していくという明確な意志を表明したのである。
2014年にメインステージ争奪バトル、TOKYOへの回帰2014年からは、メインステージへの出演権をかけた「めざせ!HOT STAGE」も開始され、こうした“バトルステージ企画”は、TIP体制で再スタートを切った形となった2015年の第6回以降も続行していく。これは、ごく限られたアイドルしか立てないTIFのメインステージに、事前のファン投票によって勝ち残った1組が出演できるというもの。8月開催のTIFと通年で連携していくイベントが、TIP主催のもとで開始されるという点で大きな意味を持つものであったが、一方で、主に東京を活動拠点とするアイドルが参加するものとなっており、相対的に地方勢は参加しづらいという側面もあった。
2016年、3日間開催、一方で問われるマナー2016年の第7回では、それまで2日間開催だったTIFがついに3日間開催となり、動員数も約7万6000人まで伸長、国内のフェスランキングでトップ10に入る規模となっていく。開催日に金曜日が加わったことにより、土日にみずからの単独公演やイベントを行うことが多い大手芸能プロ所属のアイドルが出演しやすくなった面もあろう。
規模としてはより巨大化したが、同時にこの時期に問題となってきたのが、アイドルファンのマナー問題だ。それは、セキュリティ対策として、警備・ボディーガードを専門とするBONDSを会場内に配し始めたことからも見てとれる。BONDSの配置によって一般ファンの安全が確保されていった一方で、「ファン対BONDS」をおもしろがるような形で、TIFの注目ポイントが、ステージ上からステージ外へと移行していったことも意味する。その結果、ファンが盛り上がりやすいグループや、ファンの動きが活動的なアイドルに注目が集まることにも繋がった。
そのことをもっとも象徴的な形で物語る事件となってしまったのが、SMILE GARDENにおけるベイビーレイズJAPANのステージだろう。同グループが前年にリリースした楽曲「夜明けBrand New Days」はSNSを通じ、アンセムソングとして広くアイドルファンに認知されるようになっていた。その結果、つめかけた一部聴衆の悪質行為をきっかけに、この楽曲の大サビで、サイリウムを空に向けて投げ飛ばしまくるという行為が同時多発的に発生。この曲がフェスで“封印”されるほどに、一部ファンらのマナーは悪化の一途をたどっていた。BONDSたちとの小競り合いが“アトラクション”化し、一部ファンがステージ最前列を集団で占拠する等の事案が目立ち始めた時期でもあった。
2017~2018年、中堅の相次ぐ解散発表とオーディションレースの導入この時期のTIFでは、解散・卒業していくアイドルを見送るための企画が連続する。TIFのみならず広くアイドルシーンの発展に貢献してきた中堅どころのアイドルが、次々と解散や活動休止を発表していったのだ。TIFにとってもっとも重要なアイドリング!!!の解散からも約3年がたち、グループアイドルのサイクルが一巡したこともあったのだろう。
オーディションレースの導入も、TIF出演者の新陳代謝を不活性化させるものとなっているように感じる。地方アイドル勢にとって、TIF出演への主な門戸がSHOWROOMでの課金競争となってしまっている側面があるのだ。地方アイドルがTIFに出演するには、地元での活動や東京遠征での関東ファンへのプレゼンス向上に加えて、SHOWROOMにおけるファンの有料アイテム購入金額やライブ動員数が大きな指標となる、ほかのアイドルたちとの“レース”に勝利する必要があるのだ。つまり、ライブパフォーマンスの向上というシンプルな目標以外の要素が付加されているわけである。
TIFの開始当初はもっとアイドルシーンも狭く、主要アイドルの選定が主催者側でしやすかったはずで、シーンがここまで巨大化してしまった以上、地方アイドルにもフラットに出演機会を与えているという、試行錯誤の上での試みであることは理解できる。しかし、もう少し以前のように、主催者側のほうで主体的に地方アイドルをピックアップしてもよいのではなかろうか。
フェスに求められる“役割”の変化夏の代表的なアイドル系大型フェスである「アイドル横丁夏まつり!!」が2012年、「@JAM EXPO」と「関ヶ原歌姫合戦」がともに2014年から開始されていることを考えると、やはりTIFは、シーンにおける強固なコンセプトの構築に早い段階で成功していたことがわかる。その結果としてTIFは、2016年の301組をピークに、動員数は維持しながらも徐々に参加アイドル数を減らし、フェスとしての快適度の向上に努めているようだ。
2018年には、一部ステージを撮影可能にするなど(スマートフォン限定)、ライブの持つ意味の世界的な変化や、アイドル現場での撮影会や画像の波及力の強まりを貪欲に取り入れるような取り組みも進めている。
2017年、テレビ局の力が可能にした乃木坂46選抜メンバー出演2017年のHOT STAGEにおける、乃木坂46 3期生のステージは非常に象徴的である。それは、AKB48が社会現象となった2010年という年に開始された観客動員数5000人ほどのフェスであるTIFが、その後、AKB48グループも取り込みつつ、2017年にはその象徴たる指原莉乃をチェアマンに迎えるといったアジャストを経ながらも、その時点における国内トップアイドルグループの出演を実現させた瞬間であった。
もともと2017年の第8回TIFでは、乃木坂46 3期生の12人のみが出演する予定であった。もちろん、乃木坂46のグループとしてのTIF初出演なのであり、それだけでも十分に話題性はあった。ところが、TIFと同時開催されていたフジテレビ夏イベントの主題歌を乃木坂46が歌っていたことから、突如、白石麻衣ら選抜メンバーまでもがサプライズ出演したのだ。
もちろんそれまでもTIFは、いくつもの名演を生んではいる。しかし、感動的なサプライズという意味では、2017年のこの出来事以上のものは今なおないのではないか。会場は、ただただ熱狂の渦に襲われていた。それはTIFが、大手テレビ局主催のものだからこそ可能になった、ウルトラCであった。
しかし同時にそれは、決してこの2017年のみの例外的な措置だったのではない。2016年には、すでに快進撃を続けていた坂道シリーズから欅坂46が、デビュー年ながら複数ステージ出演したし、今年2019年にも、日向坂46や乃木坂46 4期生の出演が決定している。2010年のTIF開始当初、国民的アイドルとして君臨していたAKB48がTIFに出演することなど想像もつかなかった頃を思えば、隔世の感がある。アイドル界のトップランナーたちとTIFとの距離感は、10年前よりも確実に縮まっている。とりもなおさずそれは、質・量の両面でTIFがそれだけ巨大化したことを意味するだろう。
一方で近年のTIFが、メジャーグループの新たな核として、BiSHを始めとした“WACK勢”を中心に据えていることも、メジャーグループの入れ替わりをビビッドに反映しているという意味で、よい傾向であろう。
また、日本から輸出されていったアイドル文化の“逆輸入”も注目ポイント。「恋するフォーチュンクッキー」をきっかけにタイの国民的アイドルへと成長したBNK48がTIFに出演したり、逆にTIFの派生イベントをタイで開催するなど、海外展開からも目が離せない。
ちなみにアイドル業界の“老舗”ハロー!プロジェクトからは、真野恵里菜が2011年に初出演を果たして以降、多くのグループがTIFのステージに立ってはいる。しかし、いまだモーニング娘。だけはTIF出演を果たしておらず、ハロプロの“本丸”がいつ出演するのか、というのも今後のTIFの注目ポイントになるだろう。
地方勢にとってますます高くなる壁、今後のTIFの行方ただし、前述の通り一方で、2019年のNegicco不参加にも象徴されるように、地方のグループがTIF出演を果たすことは、企画レースがなかった時代に比べて、非常にハードルが高くなっていることもまた事実だ。
振り返れば、アイドリング!!!がホスト役として存在感を発揮していた2015年頃までは、中堅どころの中心に位置する絶妙な“バランサー”としてアイドリング!!!が機能していたように思われる。アイドリング!!!が軸となることで、メジャーアイドル以外の地方アイドルやライブアイドルも、結果としてフラットに扱われていたのだ。一方の観客の側も、新たな発見を求めて、まだ見ぬアイドルに出会うためにこそTIFに参戦していた。
しかし、TIFの中心からアイドリング!!!が失われ、一方で動員規模が一層拡大し大手芸能プロの参画が増えてくるに従い、TIFの注目ポイントはおのずと、メジャー組に移っていった。しかし、メジャーアイドルグループから地方アイドル、ライブアイドルという多様性を観客に提示してみせることこそ、TIF本来のコア理念であったはずだ。であれば“アイドルの見本市”としてのTIFには、その理念を伝えるための物語を、今こそ、より丁寧につむいでいってほしいと思う。
果たして、そうした物語を、2019年のTIFはつむぎ出せるのか。世界最大のアイドルフェスに成長したTIFが、どのような姿を見せてくれるのか。そうしたことを楽しみにしつつ、10年目のTIFを存分に楽しんでみたい。
(文=ガリバー)
ガリバー
アイドルのライブに通い始めて14年目。メジャーアイドルからインディーズ、地方アイドルのライブや握手会まで、年間約300回ほど足を運んでいます。大阪の地を拠点に、北は北海道から南は沖縄まで全国を回りますが、最近の遠征先は東京が多め。現在もっともハマっている「推し」は、乃木坂46の齋藤飛鳥さんと岩本蓮加さん、ラストアイドル・Love Cocchiの西村歩乃果さんです。<Twitter:@gulliverdj>