キヤノンが業績低迷から抜け出せない。2019年12月期の連結純利益(米国会計基準)が前期比37%減の1600億円になる見通しだと発表した。
主力のデジタルカメラやレーザープリンターなどの需要が、会社側の想定を上回るペースで減り、4月に続き今期2度目となる下方修正となった。デジカメはスマートフォンの普及で世界的に市場が縮小している。カメラなどイメージングシステム部門の19年12月期の売上高は前期比11%減の8650億円、営業利益は50%減の630億円に激減する見通しだ。事務機器などオフィス部門もペーパーレス化の流れで欧州を中心にプリンターの販売が伸びず、トナーなど消耗品も落ち込んだ。売上高は3%減の1兆7460億円、営業利益は13%減の1924億円になる見込み。
ここにきて鮮明になっているのが、レーザープリンターや半導体向け露光装置の減速だ。半導体市況の悪化で顧客が導入を先延ばししている。
最大の課題は、次世代のキヤノンを担う新たな稼ぎ手が育っていないことだ。16年、6655億円で旧東芝メディカルシステムズを買収。「将来の主力にする」と御手洗冨士夫会長兼CEO(最高経営責任者)が意気込んでいた。メディカルシステム部門の19年12月期の通期売り上げの見通しは7%増の4690億円、営業利益は21%増の348億円と増収増益になるが、グループ全体の営業利益の16%を占めるにすぎない。戦略的買収の効果は出ていない。
今後、成長を続けるには、医療機器分野でのM&A(合併・買収)は欠かせない。御手洗会長は「いい案件があれば、いつでも買う」としている。
売上高5兆円という“願望”「2020年に売上高5兆円に再挑戦する」
御手洗会長はこうぶち上げた。5カ年(16~20年)の長期経営計画では売上高5兆円以上、営業利益率15%以上、純利益率10%以上を目標に据えた。19年の最新見通しによれば売上高は目標の4分の3の水準。
世の中は10年単位で大きく変わるというのが御手洗会長の基本認識だ。成功体験が次の時代に通用するとは思ってなかったはずだが、権力の座に長く座り続けたことでその認識を忘れてしまったかのようだ。
御手洗会長は1961年に中央大学法学部を卒業、叔父である御手洗毅氏が創業したキヤノンに入社。23年間米国に駐在し、後半の10年間はキヤノンUSAの社長を務めた。95年、毅の長男の肇氏が急逝したため、キヤノン社長に就任。2006年までの11年間、社長として経営を主導した。
御手洗氏の社長時代の実績は申し分なかった。事業の「選択と集中」を実践。パソコンなど赤字事業から撤退し、プリンター向けのインク、カートリッジなどのオフィス機器とデジタルカメラに経営資源を集中した。その結果、デジカメでは世界ナンバーワンになった。
06年5月、IT業界から初の経団連会長になったのを機に、キヤノンでは社長から会長に退いた。経団連会長を2期4年務めた後、キヤノン会長兼CEOとして第一線に復帰し、12年3月には社長を兼務した。16年3月、社長を真栄田雅也氏に譲った後も会長兼CEOとして最高権力者であり続けた。
復帰後の御手洗氏には、往年の社長時代の輝きは戻ってこなかった。経団連会長を退くと同時に完全引退していたら、名経営者として後世に名を残しただろう。9月に84歳になる。時代の急変についていけなくなっているのではないのか。
エクセレント・カンパニーだったキヤノンの低迷の根本的原因は、御手洗長期体制にあるというのが、市場での大方の見方だ。
事務機器メーカーは冬の時代にかつて我が世の春を謳歌してきた事務機器メーカーは、IT化に伴う時代の急激な変化に直面し、冬の時代を迎えた。
複写機大手のコニカミノルタの19年4~6月期決算(国際会計基準)の売上高は前年同期比5%減の2417億円、営業利益は96%減の5億5400万円に激減。最終損益は12億円の赤字(前年同期は111億円の黒字)に転落した。スマホ画面の色合いや光度を測る計測機器の販売が減少した。20年3月期の業績見通しを下方修正した。売上高は前期比2%増の1兆850億円と350億円引き下げ、純利益も10%減の375億円と80億円引き下げた。
プリンター大手のセイコーエプソンの19年4~6月期連結決算(国際会計基準)の売上収益は前年同期比4%減の2496億円、営業利益は75%減の34億円、純利益も98%減の2億4900万円となった。中国で大型インクタンクを搭載したプリンターの販売が減った。20年3月期の通期見通しは、売上収益は4%増の1兆1300億円、純利益は16%減の450億円を据え置いた。かなり楽観的な業績見通しである。
(文=編集部)