リクルート住まいカンパニーが発表した「SUUMO住みたい街(駅)ランキング2019関東版」で、埼玉県の「大宮」が昨年の9位から大きく順位を上げて4位となり、初のベスト5入りを果たした。
このランキングは関東圏(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城)に住む20~40代の男女7000人を対象にしたアンケート調査で、1位・横浜、2位・恵比寿、3位・吉祥寺と、トップ3は昨年同様の並びをキープするなか、大宮が新宿、品川、目黒を抜いて大躍進を果たしたのだ。
「ダサイタマ」と呼ばれ続け、話題となった映画『翔んで埼玉』でもイジられるなど、埼玉=ダサいというイメージが定着しているにもかかわらず、その埼玉を代表する街である大宮が、なぜ人気なのか。
「大宮ならいつでも住めそう」の裏返し?大宮は、確かに利便性が高い街だ。駅にはルミネがあり、周辺には各種商業施設、レストランからカフェ、居酒屋がずらりと揃い、買い物や飲食には困らない。在来線は8路線が利用でき、東京や新宿、渋谷、品川など主要駅までは乗り換えなしと、アクセスは抜群。新幹線も停まるので、出張や旅行にも使いやすい。駅から少し離れれば自然も多く、大宮公園や氷川神社、鉄道博物館など、埼玉らしいほのぼのとした空気も纏っている。
とはいえ、大宮が横浜、恵比寿、吉祥寺と肩を並べるほどの憧れの街になったとは思えないのだが……。
「みなさんが『あの大宮が?』と感じるということは、親しみがあるということ。吉祥寺や恵比寿に感じるような憧れではなく、『大宮なら自分でも住めそうな場所』と思っているという部分があるといえそうです。今回のランキングは、そんな埼玉県民の“手の届きそうな範囲への羨望”が影響していると思います」
そう語るのは、まち探訪家として数々の街を練り歩き、ライターとしても活躍する鳴海行人さん。鳴海さんによると、そもそも「住みたい街(駅)ランキング」は現実的に「住む」ことを検討する場所というよりも、「憧れ」的要素の強いランキングなのだという。
「スーモの住みたい街ランキングは、まず都道府県を選択し、次に沿線、駅の順番で絞り込んでいくかたちになっています。
ランキングは、あくまでキーワードやイメージの集合体。住みやすさやコストパフォーマンスを考えると、現実的な納得感と乖離するのは仕方ないのかもしれない。横浜、恵比寿、吉祥寺、新宿、品川など、コスパ度外視でどこか現実感のない駅名がランクインしているのも、イメージ先行の「憧れ」ランキングだからこそだ。
また、わかりやすい「利便性」の象徴として絶大な効果を発揮するのが「駅ビル」の存在だという。
「住みたい街ランキングの傾向を見ると、表参道や広尾がもっと上位に食い込んでもいいはずですが、表参道は20位、広尾はトップ50圏外です。どちらも駅ビルがないため、利便性に関してはいまいちという印象があり、票が伸びなかったのではないでしょうか。ここ数年、JRが積極的に取り組んでいる駅ビル施策が駅のイメージアップに大きく貢献していることがわかります。
また、吉祥寺に憧れて上京した学生が『吉祥寺』で検索しつつも徐々に条件をゆるめて、実際はバスで10~20分くらい離れた場所や西武新宿線沿いに住むのはよくあること。実際に『住む』確率は低いけれども、どのエリアを核にして生活していきたいかという指標になるのが、『住みたい街ランキング』なんです。そういった点では、ライフルホームズが発表している『借りて住みたい街ランキング』のほうが、実際の検索データを利用しているため、より『住む』に寄せたリアルなニーズを反映しているのではないかと思います」(同)
ライフルホームズが発表した「(データでみた)借りて住みたい街ランキング2019」を見ると、池袋、川崎、中野、高円寺、葛西、荻窪……と、確かに現実味のある駅名が並んでいる。比べてみると、スーモ版のほうが憧れ要素が強く出るのかもしれない。
埼玉県民の「地元愛」が強まっている?とはいえ、“憧れ妄想ランキング”であったとしても、大宮はランクインしているほかの街と比べて浮いている印象だ。
「『大宮』を選んだ人のほとんどは埼玉県民です。埼玉の人は、自虐的に語りつつも埼玉愛が強い。県内でもヒエラルキートップの大宮、そして浦和は、埼玉県民にとっては手が届く範囲での憧れの街なんです」(同)
実際、プレスリリースに掲載されている県民別投票数において、大宮に投票した70%以上が埼玉県民だ。都民からの支持率は1割にも満たない。また、同じく埼玉県内で8位にランクインした浦和も、80%以上が埼玉県民からの支持だった。県内ヒエラルキーにおいて大宮・浦和がトップであることには異論がないが、では浦和よりも大宮に軍配が上がったのはなぜだろうか。
「大宮は新幹線の停車駅ですし、商業施設が充実しているので、埼玉県民なら一度は遊びにいく場所です。だから、街そのものがイメージしやすい。一方、浦和は県庁所在地ではありますが、それ以外に訪れる目的や機会が少なく、パッと思いつくものが乏しいことがその理由です」(同)
さらに、今回の調査結果は、埼玉県民の「東京志向」が薄くなっている証だと鳴海さんは語る。
「東京に出るより地元から離れたくないという意識が高まっていることが、大宮・浦和人気の理由だと思います。もともと埼玉県民は地元愛が強いことに加え、メディアの“埼玉いじり”もあって、逆に埼玉への愛着が強まっているのではないでしょうか。
埼玉県民の身の丈をわきまえた憧れが集約した結果、今回のランキング上昇につながったというわけだ。しかし、埼玉県内といえども家賃が高騰気味の大宮は、都内よりも賃料が高くつくことも多いという。鳴海さんは「大宮に住むといっても、実際は旧与野市内や北浦和や宮原といった大宮周辺の駅から徒歩10分の場所や、大宮から東武バスに20分乗っていくといった、大宮駅からけっこう離れた場所に住むことになると思います」と指摘する。
地元愛と東京への羨望で揺れる県民の心境を体現したかのようなバランスを持つ大宮は、埼玉県民からのみ絶大な支持を受け、憧れの街になっているようだ。
(文=ジョージ山田/清談社)