森友問題をめぐり、2017年に市民団体が元財務省理財局長で元国税庁長官の佐川宣寿氏らを刑事告発し、それを受理していた大阪地検特捜部は、18年5月、38名全員の不起訴を決定した。これに対して市民団体は検察審査会に異議申し立てを行い、検察審査会は19年3月、「不起訴不当」の判断を示し、立件して裁判で事実を明らかにすべきだと報告していた。

ところが、大阪地検は今回、この報告を無視して不起訴を決定。巨悪と闘うどころか巨悪を守る姿勢を明らかにした。

 森友事件の事実経過を考えたとき、今回の不起訴決定は司法機関を担う検察が自らその役割を放棄したに等しい由々しき事態である。小川敏夫元法務大臣は7月に電子書籍『日本崩壊―森友事件黒幕を追う』を出版し、「検察は事件に蓋をしただけ」と厳しく批判した。

 このまま森友事件に蓋をしてしまえば、立件されたのは森友学園元理事長の籠池泰典氏と妻で副園長の籠池諄子氏への別件逮捕だけとなり、国有財産の不当な払い下げや契約決裁文書の改ざんなど事件の本丸は、政権の意向に沿いまったく手が付けられないという恐ろしい事態となる。しかも籠池氏が逮捕された補助金詐欺は、籠池氏自身が知らないところで補助金の申請をキアラ建築研究機関が行っていたことが裁判でわかっており、詐欺罪での立件や300日もの勾留が不当な弾圧だったことが、改めて明らかになりつつある。

 巨悪=権力者に従えば、不法行為でも許され、逆らえば無実の弾圧を受ける。法治国家とはいえない、司法が独立性を放棄した独裁国家が、私たちの足元で生み出されつつあるといえる。巨悪を眠らせてはならない。

国有財産の格安払い下げ

 17年2月8日、大阪府豊中市の木村真市議が情報公開を求めて訴訟を行った森友事件は、その日にNHKや関西テレビで報道され、朝日新聞などによって翌日報じられ、国民が知るところとなった。安倍晋三首相夫人の昭恵氏が名誉校長を務める森友学園に、国の所有地が周辺の約10分の1の値段で払い下げられたというのである。国交省大阪航空局が所有していた鑑定価格9億5600万円の土地(約8770平方メートル)を1億3400万円で払い下げた事実を隠していたのである。

 国有財産を約9割も値引いて払い下げることなど、一般的に考えられないし、しかも首相がらみの案件である。国有財産の払い下げに権限をもつ官僚たちへの政治的な働きかけがあり、不法が行われたに違いない――。国民がこのような疑問を抱き、森友問題に注目が集まった。

 また、そのすぐ後の国会議論で、安倍首相が福島伸享衆院議員の質問に答え、「私や妻が関与していれば、議員もやめる」と発言したことで、より注目を集めることになった。

 国は約8億円の値引き理由は約2万トンの埋設ごみの撤去費用であると説明し、払い下げは適正に行われていると説明した。鑑定価格の10分の1での払い下げは不当ではなかったのか。安倍首相や昭恵氏の関与はなかったのか。2万トンの埋設ごみが値引きの理由とされたが、実際はどうだったのか。

 今回の検察特捜部の不起訴決定は、国民の誰もが持ったこうした疑問に一切答えず、捜査終結という発表であった。少なくとも検察は、検察審査会が指摘した再捜査要請に対し、どのように捜査したのかを説明し、そこでわかった事実や起訴に至らなかった理由を明らかにすべきであった。朝日新聞は1面と2面に加え、社会面を大きく使って『森友改ざん 残る謎―特捜部、市民感覚とずれ』と報じ、『森友「捜査尽くしたか」―告発者ら、「不起訴納得できない」』と報じたが、上記の疑問が残ったからであろう。

 検察特捜部が巨悪を前に尻尾を巻いて逃げ出したのなら、私たち国民が直接この森友事件と向かい合い、国会を通して真相究明することが求められている。


  

違法な改ざんと職員の死、沈黙する検察

 検察は、改ざんにかかわる不当な業務の押しつけを受け、精神的に追い込まれ、自死するに至った近畿財務局の職員Aさんの死の真相究明にも蓋をしてしまった。この問題は、売買契約書の決裁文書が改ざんされ、さらに森友学園などとの交渉や提出書類などが、廃棄されていた件である。森友への払い下げの契約決裁文書が、森友事件が公になった後の17年4月に約300カ所にわたり改ざんされていたのである。

 この件が18年3月に朝日新聞によってスクープされ、国が改ざんを認めた後、国の根幹にかかわる公文書の改ざんとして世間から批判を浴びた。読売新聞なども「政府の活動の根本部分に改ざんがあったというのは、民主主義の下での行政運営を揺るがす(略)由々しき問題」「決裁文書は組織内での調整のうえ、最終的な意思決定をしたことを記す(略)行政官が『忖度』で対応する水準を超えている」などと専門家の見解を示し、国家を揺るがせる犯罪行為だと批判した。

 その後の18年6月、その改ざん文書とは別に、森友問題にかかわる約4000ページに上る公文書、これまで廃棄されたとしていた公文書が、財務省から公表された。担当者個人が持っていた情報を集めて報告したという。財務省は、会計検査院にすらこの改ざん前の文書や廃棄したという文書は隠していた。

 もちろん公文書の改ざんや廃棄は違法行為であり、罰則規定もある。契約決裁文書の改ざんは、有印公文書変造・同行使罪にあたる。廃棄は公用文書等毀棄罪に問われる。このように森友事件では、これら改ざんや廃棄を行った責任者や実行者が刑事責任を問われる一方、この違法な改ざんの実務を担わされた職員が死亡しているという問題がある。

その職員を長期療養に追い込み、死に至らしめた加害者による傷害罪、場合によっては殺人罪の容疑については、どのように捜査したのか。Aさんに改ざんの仕事を押し付ける業務命令は、誰が行ったのかを、検察は調べたのだろうか。

 17年に改ざんに主にかかわった、近畿財務局のAさんは、17年に精神を病み、体調を崩し、そのまま長期休暇に入った。そして朝日新聞が、翌年の18年3月に改ざん問題をスクープした直後、近畿財務局に出勤し、自宅に帰った後に自死しているのである。法に基づき業務を行うことが定められている公務員が、不法な業務を強いられた時には、当然正義感を持つ職員は、その業務の遂行に抵抗を示すであろう。今回のような改ざんを業務として押し付けられれば、どれだけの精神的負担になるか想像に難くない。その責任は、業務を強いた者に責任がある。

 今年8月8日、Aさんの自殺が労災として認定されていたことがわかった。自死する原因となった公文書の改ざんは、少なくとも上から指示を受けた業務であったというのである。もちろん当該職場の管理者が責任を問われるべきである。

 司法での審判への入り口が不起訴によって閉ざされたのならば、国会での国政調査権によって、森友事件を調査することが求められている。まず臨時国会で、改ざん問題以降も今日まで財務大臣の席に座っている麻生太郎氏に、Aさんが労災死した責任を問いたい。


検察審査会の指摘に答えたのか

 市民団体が告発し、検察も一度は受理した刑法上の罪は、以下の(1)から(3)である。

(1)国有財産を根拠なく値引き、国の財産に損害を与えた背任の疑い
(2)決裁文書を改ざんした有印公文書変造・同行使の疑い
(3)関連の公文書を廃棄したという公用文書等毀棄罪の疑い

 これをみても、財務省や国交省など省庁の一部門のみならず、大臣を含む政治家まで総がかりで動いていることがわかる。まず、(1)の内容は、森友事件の本丸ともいう内容であり、国有財産を鑑定価格の10分の1に値引き、しかも分割で払い下げるなど、前例のない特別措置が行われている。国家の財産管理を担う財務省を超法規的に動かすことができる財務大臣や首相でなければできない違法行為である。

 また、(2)の契約決裁文書の改ざんや(3)の公文書廃棄ももちろん違法行為であり、このような内容を、たとえ財務省であれ一部門で決められるものではない。つまり(2)と(3)は、(1)の内容が超法規的であったことからそれを隠すために、不当な手続きを行ったのである。

 その意味では、検察はこの案件に取り組むならば、本腰を据えて取り組む必要があった。ところが(1)の内容に関連して、検察審査会は「売却価格ありきで、値引きしていたのではないか」と指摘し、「ごみと撤去費用の精査」も求めていた。つまり、8億円の値引きの根拠を明確にすることが求められていたのであるが、検察は検察審査会が求める資料さえ出さず、誠実に答えることはなかった。前出の小川議員の著作で詳しく触れられているが、値引く根拠として示した埋設ごみは国が偽装したものであり、学園用地の地下深部に2万トンものごみがあったというのは、国がつくった仮想のストーリーであった。

 また、(2)の改ざんについては、検察審査会は「文書を改ざんする行為は一般市民感覚からするといかなる理由があっても許されない」と再捜査を求めていたが、それにも答えることはなかった。改ざん前の文書には、安倍昭恵氏の「いい土地ですから前に進めてください」等の記載があり、明らかに昭恵氏の関与を示す記述もあり、森友問題を首相案件として特例的に扱うことが書かれていたのである。

そして改ざんは、安倍首相の「私や妻が関与していれば辞める」という発言を受けて、関与を隠すために行われていたことは明らかであろう。実際、改ざん前の文書には、埋設ごみを理由にして鑑定価格を8億円値引いたという肝心な点が記載されておらず、あいまいにされ、それを補うように首相案件であることを示す記載になっていたと考えられる。そして今また、検察をも黙らせてしまった。

 朝日新聞は今回の捜査終結宣言を3面を使って報じ、検察審査会の指摘に検察は答えていない点を示し、羽根和人大阪社会部長名で「政府と国会 徹底検証を」という一文を掲載している。「決してうやむやにせず、徹底して検証する必要がある」として、財務省は第三者委員会を設置し調査を進め、国会は改めて佐川氏を呼び説明を求めるべきであると提起している。信濃毎日新聞は、昭恵氏も証人喚問に呼び出すことを求めているが、安倍首相を国会で証人喚問に呼び出し、森友への100万円寄付の件や、15年当時の迫田理財局長に改ざん問題で具体的にどのような指示を出したのかを追及すべきだろう。立憲国家としての矜持が試されている。

検察の捜査終結でも止められない事件の解明

 検察が安倍政権に迎合して捜査終結を宣言することにより、逆に描出されたのは、森友事件は安倍首相を中心にした権力による犯罪だということであり、もう犯罪行為の事実は隠すことができないところまできている。例えば、市民団体「森友学園問題を考える会」は、国会議員や専門家との連携の下に、昨年末から試掘写真資料の偽装を追及し、ついに今年の3~5月に事実解明が大きく進展した。

 また、森友事件の解明の先頭に立ってきた小川議員の前出書籍では、8億円の値引き根拠とされた埋設ごみの存在を示した国の証拠資料が、ことごとく嘘であったことが、約480ページ、カラー写真約60ページを使って説明されている。元検事で元法務大臣の小川氏の「検察は事件に蓋をしただけ」という批判に、検察はどうこたえるか。

 新たな写真資料偽装問題への追及は、国会の野党合同ヒアリングで始まり、森友ゲート事件の最終扉を開くところに来ている。

事件の核心は、値引きの根拠となった埋設ごみの存在を示す試掘写真には、逆にごみがなかったという点である。

 国交省が提出した「21枚写真資料」の写真No.1。試掘穴は暗くて見えないが、掲示板の説明書きにはゴミの層が1~3.8mとして記載されている。この掲示版の記載内容に基づき、国は敷地面積にごみの深さとして3.8メートルをかけて計算し、新たなごみが2万トン見つかったと8億円の値引き額を計算していた。(図表1)しかし国が提出していた写真3に写った試掘穴の内部は暗く、掲示板に書かれている事実、3.8メートルの深さまでごみがあるという点は確かめようがなかった。

図表1:埋設ゴミ2万トンの算出根拠(国交省回答)

以下計算式(2)と(3)の計算にあたって深さを3.8メートルとしているのは、写真3の掲示板の記載が根拠)

表面面積×深さ×ごみの割合×補正係数=ごみの容積=重量(トン:t)

(1)303平方m×9.9m×0.471×1.2=約1700立方m=約2720t

(2) 2377平方m×3.8m×0.471×1.2=約5100立方m=約
8160t

(3) 2510平方m×3.8m×0.471×1.2=約5400立方m=約
8640t 

計:1万9520t=約2万トン

 ところが、その写真の元データを入手し、筆者らが濃淡調整したところ、穴の中が鮮明に見えた(写真4)。驚いたことに、ごみの層は3メートルの深さにも届いていないことがわかり、値引きの根拠となった掲示版の3.8メートルは、写真から見える客観的事実ではなく、まったく虚偽の事実であることがわかった。

 朝日がスクープした契約決済文書の改ざんに加えて、値引きごみの存在を示すはずの試掘写真資料が偽装されていたことがわかったのである。すでにこの写真資料は、国会での野党合同ヒアリングの場に提出され、国交・財務両省の担当者は答弁に窮し、鮮明画像で示された試掘穴の深部に埋設ごみがあるかどうかという質問に答えず逃げている。いよいよ秋の臨時国会が始まれば、安倍首相、麻生財務相、石井啓一国交相に答弁を求めることになりそうである。

 石井国交相は17年5月、写真資料で埋設ごみを確認したと言い、今年3月にはその写真資料No.1が偽装されていることがわかった。財務省が提出していた「17枚写真資料」でもすでに偽装が見つかっており、今回は国交省の公文書の偽装である。財務・国交両省にわたる偽装であり、両大臣ともにその責任を免れない。韓国問題での閣議決定を報じる写真には、安倍首相、石井氏、麻生氏の3人がそろって写っていた。もし次の内閣改造で両大臣を再任すれば、森友事件の犯罪の主要役者が揃い踏みとなり、悪夢のような内閣改造になる。

 森友問題は、国家財政の不当な支出、さらには首相による国家の私物化を公にした。忖度政治・偽装政治の実態がようやく明らかになってきた。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)

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