テレビのCMで、マイナーチェンジした日産スカイラインやBMWなどが、高速道路でのハンズオフ(手放し)運転が可能になったとアピールしている。これを見て、「自動運転」にまた一歩近づいた――そんな印象を受ける人も多いだろう。

しかし、実はまだスカイラインもBMWも、ドライバーが運転席に座り、システム側が手に負えなくなった場合にはすぐに人間が対処できる体勢をとっていなければならない――そんな「レベル2」段階というのが実際のところだ。多くの人が考える自動運転は、「レベル4」くらいのところにあるので、まだまだハード面やソフト面、そして法整備などその道のりは長く困難であるといえよう。

 さて、現在採用されている運転支援機能のなかで、最も未来的な「自動運転」の感覚を体験できるのが、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)と呼ばれる機能だ。これは、高速道路などでドライバーが設定した一定速度で走行する機能で、先行車を追従する、さらには渋滞時にアクセルやブレーキを踏まなくても停止・発進までしてくれるという機能である(車種によって機能に幅はアリ)。最近では搭載車種も増え、高級車だけでなく、日産のデイズや三菱ekワゴン/eKクロス、ホンダのN-BOX、N-WGN、ダイハツのタントといった軽自動車でも装備する車種が増え、ユーザーの選択肢が広がっているのだ。

 筆者は仕事柄、長距離ドライブをすることが多く、移動による疲労を軽減するため、こうしたACC機能は積極的に使用している。そのメリットとしては、まさにそうしたドライバーの疲労軽減のほか、燃費性能の向上が挙げられるわけだが、もうひとつ、見逃せない大きなメリットがある。一定速度で一定の車間距離を開けて先行車を追従走行するため、渋滞の発生を防止できるのだ。渋滞の発生原因としては、登り坂なのにドライバーが加速をしないこと、車間が詰まりブレーキを踏んでしまうことによって減速してしまうことなどがしばしば挙げられる。これらは要は人間による“判断ミス”であり、これが機械によって自動化されれば、100%とまでもいわないまでも、渋滞の発生頻度はかなり抑えられることとなるわけである。

半数近くがたまにしかACCを使用せず

 そんな便利なACCだが、JAF(日本自動車連盟)が2014年(ちょっと古くて恐縮)に行ったACCに関するアンケート結果が興味深い。「どれくらいの頻度で使用していますか」という問いに、「ほとんど使っている」と答えた人が33.6%、「半分くらい使う」と答えた人が21.3%、そして、「たまに使っている」という人がなんと45.1%も占めているのである。

逆にいえば、ACC装着車に乗っているにもかかわらず、約半数の人がたまにしか使っていないということ。これは、筆者にいわせれば「宝の持ち腐れ」状態であり、本当にもったいない話である。同アンケートではACCを使用するメリットとして、61.3%の人が「運転が楽になり、疲労軽減に役立った」と回答しており、31.5%の人が「追突などの事故防止に役立った」と答えているにもかかわらず……。

 一方、ACCを使用したデメリットとして最も多かった回答が、45.1%の「特にデメリットは感じていない」。次いで多いのが、21.7%の「車間距離が開いているのでよく割り込みをされるようになった」という答えだ。このアンケートは2014年に実施されたものであり、確かにメーカーによっては当時のACCは、車間距離を最も狭く設定しても、車線変更されてしまいそうなぐらい車間距離が開いてしまうものもあった。しかし現在の最新ACCは、システムの作動自体も簡略化されているだけでなく、追従走行時の車間距離も以前に比べると狭くなり、車線変更されにくい距離感で走行できるよう進化している。そこで今回は、そうした最新のACCを搭載したクルマで、約1000kmのドライブを敢行。最新のACCの実力をチェックしてみた。

ゴルフトゥーランで東京―近江八幡間をテスト走行

 今回テスト車として選んだのは、フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーランTDIハイライン。7人乗りのミニバンながら、最高出力150ps、最大トルク340Nmを発生する2L直列4気筒ディーゼルターボエンジンを搭載。JC08モード燃費で19.3km/Lを実現し、タンク容量は60Lのため、カタログスペック上では、満タンで約1158L走行可能という長距離ランナーとなっている。

クルマを借り出した時の残走行距離が約910kmだったため、片道約450km、往復約900kmというコース設定とした。

 往路はほぼ高速道路を使用し、約450km先の折り返し点を、近江牛で有名な滋賀県の近江八幡に設定。復路は、近江八幡から新東名高速道路・新静岡ICまでの約300kmはバイパスを含む一般道を走行し、再び高速で東京へ戻るというルートとした。猛暑のなかのテストだったのでエアコンは22度に設定。エンジンやシフトプログラムなどさまざまな機能を最適化するドライビングプロファイル機能は「エコ」とした。

 まず往路は、東名高速と新東名高速が分岐する御殿場JCTからACCをONにし、クルーズ走行を開始。ハンドルに装着されたスイッチ3種類を操作するだけで、車間距離も設定した上で追従走行が可能となる。テスト日は平日だということもあり、走行車両は少なめだがしっかりと先行車を認識し、インパネ内に表示すると同時に減速を開始する。その減速開始のタイミングは、乗車している人が怖いと感じないぐらいのマージンがある(個人的には、もう少し詰まってからでもいいかなとは感じたが)。

 ブレーキの掛け方も絶妙で、乗員の体が前後に振られることはまったくない。しかもレーンキープアシストシステムとよばれる車線逸脱防止機能もあるため、クルマが車線を逸脱しそうになるとシステムがステアリング制御を行ってくれるため、常に車線のセンターを維持してくれる。

 やや不満に感じたのは、先行車がいなくなった後の再加速。

大きなトルクを発生するディーゼルエンジンだけに、個人的にはもう少し鋭く加速してもらいたいところだが、急加速時の不安軽減のためマイルドに設定されていると思われる。こうして渋滞もなく疲労感もほとんどなく、約430km走行し、折り返しの近江八幡に到着。その時点で走行可能距離は700kmを示しており、まさにカタログ燃費通りの数値を叩き出していた。

達成率95.8%という優れた燃費性能を発揮

 復路は、いよいよ一般道の走行だ。滋賀県の近江八幡から三重県の桑名市までは、ワインディングの走行、そして浜名湖までは都市部の走行となるため、ACCはおあずけだ。背の高いミニバンながら、さすがは欧州車。カーブが続くワインディングでもドライバーのハンドル動作に対して機敏に反応してくれるため、運転していて非常に楽しい。カーブを曲がる際のクルマの傾きも小さいため、子どもでも車内を快適に移動できる。

 ワインディングを抜けて、都市部の名古屋から豊橋まで国道1号線を通過し、再びACCを使用するエリアに突入する。静岡県は国道1号線バイパスが広範囲に設置されており、一車線ながら信号がほとんどなく、追従走行のテストにはベストの環境なのだ。実際テスト日もほとんど渋滞はなく、MAX時速60kmで追従走行を行うと、非常に運転がラクなだけでなく、車間距離の取り方も絶妙で、ACCの利便性と進化を満喫。あっという間に新東名高速・静岡ICまで到着した。

 その後、新東名、東名高速を経由して自宅のある東京まで戻ると総走行距離は889.7kmで、まだ走行可能距離は220km、今回の設定コースでの平均燃費は18.5km/Lと、JC08モード燃費19.3km/Lの達成率95.8%という優れた燃費性能を発揮した。

 やはり、人間がアクセルやブレーキを操作すると無駄が多くなるのだが、自動システムがそれを行えば、その無駄もほとんどなくなるのだろう。今回は約1000km走行したが、ACCを多用したことで疲労感も少なく、何より急ブレーキを踏むことがほとんどなかった。クルマに付随する機能のなかで、現在最も進化しているといえる運転支援技術。この技術がより進歩し、またより一般化すれば、交通事故などは非常に起こりにくい世の中が到来するのではと確信することができたテストドライブとなったのである。

(文=萩原文博/自動車ライター)

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