5日午前11時40分ごろ、横浜市神奈川区の京浜急行線、神奈川新町-仲木戸間の踏切で、8両編成の電車がトラックと衝突し、脱線した事故。トラックが踏切周辺の細い道路に入り込み、切り返ししようと踏切に入って立ち往生したところに、電車が激突した。
「もしかしたら、さらに大惨事になっていたかもしれない。そうならなかったのは偶然、あの場所だったからです」
神奈川県内の鉄道関係者はそう話す。
「現場にあった防音壁が、衝突したトラックが跳ね飛ばされるのを防いだ可能性があります。もしなければトラックが宙を飛んで線路脇の民家に突き刺さっていたかもしれません。2次災害の可能性もあったわけです。京急の快特列車は時速120キロ。しかも先頭車両は動力車なので重く頑丈です。亡くなったトラックの運転手の方には申し訳ない表現ですが、過密ダイヤの京急の快特にはそれぐらいのパワーがあります」
川崎-横浜間を走行するJR東海道線の最高時速は110キロ。京浜東北線の同区間における最高時速は90キロで、京急の快特列車は業界内でも特に高速であることで知られていた。現場は線路脇まで民家が迫る人口過密地帯だった。
前述の鉄道関係者は、次のようにも語った。
「京急とJRは京浜地区でずっとスピードや輸送力、運行本数を競いあってきました。住宅街を走る列車がどんどん高速化していった背景には、この企業間競争があるのは間違いありません」
「開かずの踏切」だった現場の「神奈川新町第1踏切」は、京急沿線の中でも「優秀な踏切」だった。国土交通省が全国各地にある踏切に関する安全性を調査し、その結果を公開している「踏切安全通行カルテ」によると、過去5年間の事故発生件数はゼロ。国の定める踏切保安設備の設置の必要の無い踏切にも関わらず、最新のレーザー式障害物感知装置も設置されていた。
前述のカルテによると、踏切は4本の線路と横浜市道が交差し、長さは19.4メートル。踏切に至るまでの市道は幅10メートル以下と狭い。そして時間にもよるが、「開かずの踏切」になるのだ。カルテによると、ピーク時の遮断時間は1時間のうち断続的に48分間。事故を起こしたトラックのドライバーは過去3回しか現場付近を通ったことがなかったそうだが、果たしてそれを知っていたのだろうか。
2019年度の京急の安全報告書によると同社の踏切は全線86カ所。
京急広報部は件の踏切に関して、次のように語る。
「3Dレーザー式の障害物検知装置が作動していることは確認が取れています。この検知器から点滅信号が運行している列車に発信され、それを見た運転士が急ブレーキをかけたことまで確認できていますが、(いつブレーキをかけたのかなど)その詳細なタイミングなどはわかっていません」
時速120キロであれば秒速約33メートル。仮に運転手が素早く対応しても制動距離は長くなる。運転士の反応にも限度があるだろう。そうしたことを踏まえ、JR東日本では一部の線路で障害物を検知すると、進行している車両に自動的にブレーキがかかるシステムを採用しているが、東京都内の私鉄での採用は進んでいないという。
鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は、次のように語る。
「たとえば踏切で障害物を検知したら、速度の速い列車に絞って確実に自動ブレーキをかけるシステムを導入する必要があるのかもしれません。今回の件は、制動距離の観点から間に合ったかはわからないけれど、少なくとも運転士の見落としを防ぐことはできると思います」
踏切周辺の道路対策一方、運行システムというより踏切周辺の都市計画の在り方に関して指摘する声もある。
元運輸安全委員会鉄道部会長で日本大学生産工学部鉄道工学リサーチセンター上席研究員の松本陽教授は、次のように指摘した。
「なぜ大型トラックが踏切内で立ち往生するような事態になったかが重要であり、大型車両の通行が困難(難しい)な踏切には、大型車両が立ち入らないようにする対策が必要です。踏切構造の改造ができる場合は改良し、できない場合は周辺道路も含め交通規制により大型車両が通らないようにすることが重要かつ効果的です」
「これまでも踏切で大型車両との衝突という重大事故が発生しているが、ほとんどが道路側の対策により回避できるものです。交通規制を担当する警察や道路管理者の自治体との連携が必要だと思います」
鉄道会社の過当競争に伴う鉄道の高速化。線路脇まで立ち並ぶ住宅街。そんな都会の負の要素を凝縮した結果、起こった今回の事故。列車やトラックの運転手を悪者に仕立て上げて終わらず、鉄道会社や国、地元自治体なども含めた抜本的な対策こそ求められている。
(文=編集部)