9月5日発売の「週刊文春」(文藝春秋)が、吉本興業に所属するEXIT・兼近大樹の前科について報じた。未成年時代の逮捕歴を晒されたかたちとなり、吉本興業が文藝春秋社に対して法的措置を検討すると抗議する事態へと発展している。

「文春」によると、2011年11月に兼近が売春防止法違反の疑いで北海道警察厚別署に逮捕されていたという。兼近の地元・北海道札幌市の地元記者は「売春の斡旋をしていた」と明かし、「札幌市の高校3年の女子生徒(当時19)に、携帯電話の出会い系サイトを通じて知り合った男性と市内のホテルでいかがわしい行為をさせ、現金1万5000円を受け取らせた」と証言している。

 直撃取材を受けた兼近は事実関係を認め、「正直いつか絶対バレることなんで、吉本にはずっと話していて。絶対に誰か気付くんで、それが今、文春さんが知ってくれたということで正直嬉しかったです」とコメント。逮捕されて法律の大切さを知り、過去の関係を断ち切って上京したという。

 報道を受けて吉本興業は公式サイトに、「当社所属タレント兼近大樹に関する一部報道について」と題した文面を掲載。文藝春秋社に対して事前に「兼近の人権を著しく侵害する」と伝えていたことを明かしており、民事・刑事上の法的措置を検討していく旨を表明した。また、兼近については、自らの行為を反省・悔悟し、更生を経て新たな人生として芸能活動を続けていると説明。「未成年時代の前科という高度のプライバシー情報」であることも鑑みて、特段の公表はしなかったと記している。

 これに対し文藝春秋社は公式サイトで、「兼近さんという芸人を語る上で、逮捕の過去は、切り離せない事実です。また、テレビ番組に出演し、人気を集める芸人は、社会的に影響力が大きい存在です」として、記事を掲載した経緯を釈明した。

 また、兼近が店長を務めていたバーを舞台にして発生した窃盗事件でも、兼近は警察から“事情聴取”を受けているが、「文春」の記事では“逮捕”されたのではないかと示唆している。

これに関して吉本興業は「何らの刑事処分を受けていない事実についても、あたかも兼近が犯罪行為を行ったかのように伝えて」いるとして抗議している。

 兼近は5日にツイッターを更新し、関係者やファンに向けた謝罪文を画像で投稿。過去を受け止めて前向きな姿勢を見せ、「今いる場所に違和感を感じている人も居ると思う。そこから抜け出しても受け入れてくれる場所はまだあるぞと、失敗しても抜け出して楽しんで生きてる俺を見せることが人を励ます事になれればと本気で思っています」と綴った。

 兼近は謝罪文のなかで「未成年時の罪を報道されてしまった事に関しては自分のした事なので、ルールはどうあれ受け入れます。むしろ世に事実を伝えられたので多少の感謝もあります」と明言し、「文春」の記事をとがめる姿勢はないようだ。

 だが、世間の受け止め方はさまざまだ。“未成年時代の前科”についての報道に、ネット上では「文春はまっとうに生きようとしている人の人生を潰して楽しいのかな」「EXIT人気が高まってきた今になって未成年時代の前科をほじくり返すなんて、やり方が汚い」などと、記事に対する批判が多く上がっている。

 一方で「未成年時代の犯罪なら何をしても社会から守られるべき、という考え方には賛同できない」「犯罪に巻き込まれた人たちがいるわけだし、テレビに出る仕事を選ばなくても更生はできると思う」との声も寄せられている。

 未成年犯罪といえば、実名報道の是非などをめぐって活発に議論されているテーマだ。「文春」は今回報道した理由として「逮捕時に兼近が成人だったこと」「その事実は実名で報道されていること」を挙げているが、芸能人の過去の犯罪歴を報道することは許容されるべきなのだろうか。弁護士法人ALG&Associates執行役員の山岸純弁護士は次のように解説する。

プライバシー侵害にはならない?

 一般的に、「過去に犯罪を犯したこと」も、「住所」「趣味」「顔写真」「親の名前」などと同じく「自分の情報(個人情報とはまた別です)」のひとつとして、「開示するかどうか、誰に教えるかなどをコントロールしたい自分の情報」として、法的に保護されることになります。これを「プライバシー権」といいます。

 したがって、このような「過去に犯罪を犯したこと、身体の特徴、過去の恥ずかしい出来事、癖」など、「他人には知られたくないこと」が開示されること、それを公開することが社会にとって役に立ったりするものではないこと、実名であること、などの要素があると「プライバシー侵害」になる可能性が高まります。

 もっとも、一定程度、その人となりや生活ぶりなどが“おもて”に出ることが想定されている政治家や芸能人であったり、注目を浴びた犯罪歴だったり、それを公開することで社会に警鐘を鳴らす目的などがあったりする場合には、「プライバシー侵害」にはなりにくいとも考えられています。

 今回の場合、「未成年時代」の「犯罪」ということなので、プライバシー侵害(違法)が成立するとも考えられますが、兼近の犯した罪が、傷害罪や窃盗罪のような個人的な法益が侵害される犯罪ではなく、「売春あっせん」といった社会的な法益が侵害される犯罪であり、また、テレビで放映されたり人の前に出ることを職業としている方であるため、やはり、社会に警鐘を鳴らす目的において、プライバシー侵害は成立しないものと考えるべきでしょう。

 また、記事によると、窃盗事件に関して兼近が「10日間勾留されたのちに釈放された」と報じています。本人は「逮捕はされてない」と否定しているとのことですが、逮捕されずに10日間勾留されることは刑事訴訟制度上、絶対にあり得ません。

(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士)

●山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士
 時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。弁護士法人ALG&Associates執行役員として法律事務所を経営し、また同法人によせられる離婚相談、相続問題、刑事問題を取り扱う民事・刑事事業部長として後輩の指導・育成も行っている。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。

弁護士としては、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験を様々な方面で活かしている。

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