首都圏を直撃した台風15号。千葉県内の停電は最長で今月27日まで長引く可能性も示された。

17日午後1時現在、同県内ではなおも6万7100軒が停電している。停電の長期化は住民の熱中症の危険性を高め、日本の屋台骨の一角をなす京浜工業地帯の稼働状態にも影を落とす。被災住民の政府や自治体、東京電力の対応への疑念も高まり続けている。政府や千葉県の初動対応が遅かったのはなぜか。そして、東電が停電の復旧時期の見通しを後倒し続けたのはなぜか。関係者の話を聞き、真相を探った。

政府は組閣を優先したのか

 当初、報道で盛んに指摘されていたのは、「安倍晋三首相が11日に第4次改造内閣を発足するのにあたって、台風対応より組閣作業を優先したのではないのか」という疑念だ。少なくとも10日の時点で千葉県内の被害は明らかになりつつあったのだが、今回は西日本豪雨や熊本地震時に設置された「非常災害対策本部」が設置されなかった。制度上、本部は「首相が特別に設置の必要を認める時」に設置することになっている。

 つまり裏を返せば、安倍首相は今回の事態を「特別に対策が必要な災害」ととらえていなかったということになる。こうした政府の動きに対して、政治ジャーナリストの朝霞唯夫氏は次のように解説する。

「まず気象庁が7日に記録的な暴風になることを暴風警報などで発表しました。

それを踏まえて政府は、東京電力や首都圏各自治体に厳重注意を呼び掛けています。8日夜には首都圏のJR私鉄各線が計画運休に踏み切るなど、その予防措置の展開は非常にスムーズで完璧に見えました。これが政府にある種の油断をもたらした可能性があります。これだけやっておけば、組閣に専念しても大丈夫だ、となったのではないでしょうか」

 組閣の手続きは、首相個人のスケジュールだけではなく多くの関係者の動きを縛る。

「皇居で天皇陛下による国務大臣の認証式もしなければなりません。陛下のスケジュールを押さえてしまい、容易に変更できなかったのかもしれませんね。陛下は非常に多忙です。往年の田中角栄首相だったら、陛下に対して『今はそれどころじゃないから延期にしたい』と言うことができたかもしれませんが、今、国会にいる議員らにそれができる器があるとは思えません」(同)

 今回の災害対応では、自治体間の連携に関しても動きが鈍いように見える。

「人員も豊富で、東京電力の大株主でもある東京都は何をやっているのかという疑問を持ちます。毎日、東京に多くの人が千葉から通勤している。隣県でこれほどの惨状が伝えられているのに、東京都が動く気配がありません。災害時の自治体間連携はどうなっているのか不安です。

政府、自治体ともにしっかり検証する必要があると思います」(同)

千葉・森田知事はなぜ決断しなかったのか

「そもそも森田健作千葉県知事の健康不安は昨年4月からささやかれていました。以前は、多くの人が思う通りの元気キャラだったのですが、どうも最近は精細を欠くというか、老いを感じるというか、そういうイメージがぬぐえません。今回の台風でも、大ナタを振るう姿は見られませんでした」

 そう語るのは、千葉県の関係者だ。森田知事は昨年4月、右目の「眼瞼痙攣(がんけんけいれん)」の手術を受けた。眼瞼痙攣は10年前からの持病で、近年は朝起きると目が開かないなど症状が悪化。長文が読めないなどの状況だった。術後の経過は良好だったようだが、半年から1年は経過観察が必要とされていたという。

 停電による通信機器のマヒで、被災市町村が情報過疎の状況に置かれ実態が把握できなかったとはいえ、もっと県がリーダーシップを発揮できなかったのか。激甚災害指定の申請を政府に行うのも、停電復旧を阻んでいる各地の市道・県道の倒木除去や、断水地域の給水支援のために自衛隊に救援活動を要請するのも、すべて県知事の判断にかかっている。災害時にリーダーの迅速な意思決定が必要なことはいうまでもない。果たして、森田知事は果敢な行動がとれていたのだろうか。

東電の復旧予測が変転したのはなぜか

 東京電力パワーグリッドは17日現在、ほかの電力会社からの応援約2400人を含め、総勢1万1000人態勢で復旧作業を急いでいる。

同社の技術系幹部は次のように話す。

「テレビや新聞でクローズアップされた倒壊した2基の送電鉄塔ですが、ケーブルを迂回させる形で遅くとも10日の晩には通電可能になっていました。現場は山腹で、台風の影響で作業道も荒れていて、現場にたどりつくのも命がけだったようです。

 同じころ、倒壊した鉄塔2本以外に房総半島の山間部の小型の送電線に倒木が絡まったり、断線したりしていることが明らかになってきました。直接、現場で確認しなければいけない場所が数百カ所あるのでないかと。しかも、その現場に至る山道は倒木や土砂崩れでふさがれているようでした。

 10日夜に現場に降った雷雨は、山間部の現場では稜線にそって稲妻が走るような状態で、作業をすれば死者が出ていたかもしれません。現場には復旧は1週間では無理ではないか、という空気が漂い始めていました。ところがまさにそのころ、本店は報道各社に『11日朝までに停電戸数を約54 万戸から12 万戸にまで減らし、11日中にはすべて復旧させる』と流していたのです」

 そして、翌11日朝には、東京電力パワーグリッドの金子禎則社長が次のように会見したのだ。

「11日中の復旧の見通しがたっていない。大変ご迷惑をおかけして、まことに申し訳ない。10日夜の雷雨や新たに見つかった不具合の影響などで、想定より復旧作業が進まなかったことが遅れの原因だ」

 その後、同社が会見を開くたび、「復旧の見通し」は後退を続けた。

12日には「13日以降になる」、13日夜には「2週間以内の復旧を目指す」とずれ込み、被災地の住民の希望をたびたび打ち砕くことになった。

 別の東電幹部OBはこうした東電の対応に次のように漏らした。

「災害時は最小の工数で済む日程と、最も保守的(深刻)な状況の2つを想定して復旧作業を進めるのが常識です。技術屋の観点から言えば、保守的な見立てこそ大事なのですが、伝言ゲームで複数の社内関係者を経る中で、楽観的な予想だけが上層部に伝わっているのではないかと思います。どんなに過酷な状況であっても、目の前の状況をもとに着実に作業するのが完全復旧の近道です。福島第1原発事故以降、影を潜めていましたが、会社の悪い癖が出たのかなと暗たんたる気持ちです」

 今は一刻も早い被災者の救援が必要だ。だが今回の事態を深刻化させた政府、東電、千葉県は猛省する必要があるだろう。

(文=編集部)

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