韓国の公共放送KBSが16日に報じた「独島(日本の島根県竹島)が『韓国の領土』と表記された硬貨がタンザニアで今年7月に発行された。韓国国内や外国で販売されている」というニュースが波紋を呼んでいる。

報道で紹介されている硬貨には『DOKDO』『THE LAND OF KOREA』『TANZANIA(タンザニア)3000 SHILINGS(シリング)』と刻印されているのだが、翌日、日本の菅義偉官房長官は「外務省の在外公館を通じて、タンザニア政府と同国中央銀行に確認をとったが発行した事実はない」と全否定。

 さらに18日には同国の中央銀行であるタンザニア銀行が、「ソーシャルメディアで、2019年7月にタンザニア銀行が表側に独島を、裏側にタンザニアの紋章を描いた記念硬貨を発行したという噂が流れていますが、これは悪意のある噂で、根拠のないものであるということをはっきりさせて頂きたく存じます。また、そのような硬貨を造る会社とも一切契約していません」とプレスリリースするという異例の展開を迎えた。

 問題の記念硬貨は「独島コイン」としてインターネット上で話題が沸騰した。この件に関してはフジテレビが19日に詳報した。報道によると、18年の米朝首脳会談、南北首脳会談開催記念の一環として、韓国国内の記念コイン販売店が、ヨーロッパのリヒテンシュタインの企業から企画を持ち掛けられ販売したという。

偽造貨幣ではないのか

 タンザニア銀行のプレスリリースが事実だとすれば何者かが、他国の中央銀行の許可を得ずにその国の貨幣を鋳造したことになる。通貨の価値はその国の信用が基盤になっているはず。記念硬貨は一般に流通するものではないが、誰かが勝手につくったのであれば偽造貨幣ではないのか。そもそも記念硬貨を鋳造する仕組みはどうなっているのか。

 財務省理財局通貨企画調整室の担当者は次のように話す。

「我が国においてはいわゆる紙幣、日本銀行券の発行に関しては中央銀行の認可が必要になりますが、記念硬貨は基本的に政府閣議の確認などを経て発行します。

天皇陛下の即位や在位記念など国家的記念を祝う硬貨の企画立案は、基本的に造幣局や財務省などが中心になって行っています。

 記念硬貨の流通は可能ですが、それが主だった目途ではなく愛蔵が主となるので全体の流通量に大きな影響を与えないということもあり、鋳造の可否の判断は日銀ではなく政府となっています」

 では、他国の企業や政府に記念硬貨の鋳造の委託を行うことは国際的にどういう位置づけになっているのか。一般的に流通している貨幣を他国で無断鋳造することは偽造貨幣になるが、記念硬貨はどうなのか。

「日本には『通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律』があり、日本円の記念硬貨を他国で製造することは禁止されています。一方で今回のタンザニアのように、記念硬貨の製造を他国の民間会社に委託することが可能な国もあります。国際的に国による製造を義務付けるルールはありません。記念硬貨の発行の仕組みは各国の国内法によって委ねられているというのが実情です」(前述の理財局担当者)

独島グッズ需要を狙った隙間産業

 インターネット通販上ではマグカップ、キャップ、Tシャツ、トートバック、スマホケース、アクセサリーなど多種多様な「独島グッズ」が販売されている。日本も「竹島グッズ」を販売している業者は複数あるが、品揃えは「独島」が圧倒しているようだ。

 東京都新宿区で韓国料理店に勤務する韓国人女性は次のように話す。

「あまり日本国内では表立って竹島グッズを売っているお店は見かけませんが、独島のマスコットキャラクターになっているアシカをモチーフにしたグッズは、韓国内の一部のお土産屋さんで見ることがありますね。見た目がかわいいのであんまり深く考えずに買っている人も多いのではないでしょうか。当然、熱狂的な独島グッズファンもいます。

今回の独島コイン騒ぎはそういう人たちの需要を狙ったのではないですか」

 誰が企画したのかわからないが、国際的に法律のグレーゾーンになっている部分を巧みに突いたものだったようだ。

(文=編集部)

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