電子部品商社の経営統合や買収など再編が続く。黒田電気やエクセルのように業績が急激に改善の後、急降下する企業がある一方で、経営統合により規模が一気に拡大するケースが続いている(黒田電気やエクセルの急落は、かつて本連載でも書いたので、興味がある方はバックナンバーを見ていただきたい)。
ここ数年で電子部品商社の上位企業は入れ替わり、大きく業界の地図が塗り変わっている。今回はそのいくつかの事例を見てみよう。その前に、なぜ電子部品商社は統合など再編が多いのか、その理由を考えてみる。
商社が商材を取り扱う電子部品のメーカーや、販売先にあたる機器メーカーでも再編はある。しかし部品メーカーや機器メーカーは、独自に蓄積した技術やノウハウ、そして工場などを抱えるため、再編にはそれがハードルとなる。商社も今は技術系商社が主流だが、商社の持っている技術的ノウハウは、メーカーの技術よりは汎用性がある。メーカーに比べて経営統合の障壁は低い。
もうひとつは、某大手上場商社の社員から直接聞いた話だが、上場商社の場合はやはりファンドなどによる買収が脅威となっている。ファンドから経営の自主性を確保して身を守るため、商社同士が統合してスケールメリットの拡大を図る。商社はメーカーに比べて資産などが比較的少ないため、買収の標的になりやすい。これを防ぐには規模が大きくなることが一番早道なのである。
専業の上場電子部品商社という見方をすれば、業界トップの存在はマクニカ・富士エレ ホールディングス(HD)である。同社は5,242億3,500万円の連結売上高(2019年3月期)があり、上場の電子部品専業商社のなかでは首位の座を占める。
同社は15年4月1日付でマクニカと富士エレクトロニクスが経営統合して現在のかたちとなり、その持株会社が上場を維持している。統合前のマクニカの14年3月期売上高は2,559億円、富士エレクトロニクスは2月決算で14年2月期売上高は473億円だった。この時点で統合会社の売上高は3,000億円だったが、19年3月期までの4年間でさらに2,000億円以上の増収を果たしたことになる。
ちなみに今期(20年3月期)は5,400億円の売上高を計画しており、引き続き専業上場商社では最大手の存在を維持する。
レスターホールディングス19年4月1日付で、UKCホールディングスとバイテックホールディングスが経営統合した。もともとUKCは、2009年にともにソニー系の上場電子部品商社だったユーエスシーと、共信テクノソニックが経営統合するかたちで発足した。つまり源流をたどれば、ユーエスシー、共信テクノソニック、バイテックという3社が今では合体していることになる。
UKCの19年3月期売上高は2,057億7,100万円、バイテックは今年2月時点での19年3月期売上高見込みは2,100億円だった。両社が経営統合したレスターとしての初年度となる20年3月期は売上高4,100億円を予想している。
さらに5月には、菱洋エレクトロの筆頭株主だった投資会社のシンプレクス・アセット・マネジメントが保有していた菱洋エレクトロの株式を、レスターが取得している。
加賀電子は、富士通系列の電子部品商社、富士通エレクトロニクスを買収することで18年9月に合意した。
買収は3段階に分けて行われる。加賀電子は、まず19年1月1日に富士通エレクトロニクス発行済み株式の70%を取得、さらに20年12月に15%を買い増し、最終的には21年12月に完全子会社化するという計画。
直近の19年3月期では、加賀電子は2,927億7,900万円、富士通エレクトロニクスは同1876億2700万円だった。買収の寄与により加賀電子の20年3月期売上高予想は4,300億円となった。
丸文丸文の19年3月期売上高は3,266億9,400万円だから、加賀電子やレスターとなった旧UKCを上回る。しかし合併により規模が拡大する両社に対して、丸文は逆に昨年10月に日本サムスンの販売特約店業務をトーメンデバイスに譲渡したことに伴い、サムスン電子製品の販売がなくなり、今20年3月期は売上高2,915億円にとどまる見通し。加賀電子やレスターに逆転を許す。
さらに丸文は、テキサス・インスツルメンツ(TI)との販売特約店契約についても20年9月末で打ち切りになることが決まっている。19年3月期実績では、TI製品の販売は532億6,700万円あり、丸文全体売上高の16.3%を占めていた。20年10月からはこの部分がさらに丸文から落ちる。打開策を模索していくが、このままでは上位との差はさらに開く。
(文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役)