焼き鳥チェーンの鳥貴族の株価が急伸した。9月30日に2498円まで買われ、年初来高値を更新した。

3月11日の年初来安値の1478円から1.7倍の急騰ぶりだ。

 9月13日に発表した2019年7月期の決算発表を材料に、その後、買われた。売上高は358億円(前期比5%増)、営業利益は11億9000万円(同29%減)、最終損益は2億8600万円の赤字(前期は6億6200万円の黒字)に転落した。

 20年7月期は売上高346億円(19年7月期比3%減)、営業利益は13億900万円(同10%増)、最終損益は4億5400万円の黒字に転換する予想だ。消費増税などで消費者心理が冷え込むとみて減収を見込むが、不採算店の整理が一段落するほか、コスト削減を進め採算の改善を目指す。業績の回復を好感して買いが入った。

 鳥貴族は税別280円均一の安さを売りにデフレの勝ち組として成長してきた。だが、17年10月に同280円に値上げした反動で、客数が減った。売り上げ計画が未達となる店舗が多く発生するとともに、自社の店舗同士の競合もあって既存店売上高は前年割れが続いてきた。

 19年7月期の累計の既存店売上高は前期比5.2%減、客数は4.2%減、客単価は1.1%減。既存店売上高は20カ月連続でマイナスだ。8月の既存店売上高は4.1%減、9月は0.1%の微減で22カ月連続でマイナスとなったが、底打ちがはっきりしてきた。

9月の客数は2.1%増。

 19年6月の全店売上高は前年同月比0.3%減。全店売上高が前年同月を下回るのは14年7月の上場以来、初めて。新規出店を抑制したことが響いた。全店売上高は7月2.3%減、8月4.5%減、9月0.5%減である。こちらも底打ち感が出てきた。

「アメーバ経営」で再生に取り組む

 鳥貴族は、京セラ創業者の稲盛和夫氏が考案した経営管理手法「アメーバ経営」を導入して、店舗の再生に取り組んでいる。新規出店よりも既存店の売り上げアップを最重要課題とし、店舗別の採算管理を徹底する。

 稲盛氏は組織を細分化し、現場に経営を任せるアメーバ経営という独特の経営手法を確立した。社員の経営に参画する意識を高め、全員参加型の体制をつくる。稲盛氏は経営が破綻した日本航空JAL)をアメーバ経営で蘇生させたことで、広く知られている。アメーバ経営の根幹は部門ごとの収入を最大にして、その一方で経費は最小に抑え、利益を追求する。

部門長に大幅な権限を委譲し、責任を明確にする。

 鳥貴族は今年2月からエリアマネージャー以上を対象に、部門別採算制度の運用を始めた。20年7月期以降、直営全店で展開を図る。20年7月期はアメーバ経営の浸透をさらに図り、採算性の向上に取り組む。営業利益10%増という強気の予想を立てているのはこうした背景がある。

 9月末時点で直営店(413店)とフランチャイズ店(246店)合わせて659店を運営している。従来は年70~80店を出店していたが、19年7月期は直営店の出店を初めて凍結した。客数が前年並みに戻ってきており、客単価が回復するなどの条件が整い次第、出店を再開する。これまでは関東、関西、東海地区の大都市圏に出店してきたが、大倉忠司社長は「地方に出店する」と述べた。

 9月18日、2024年7月期を最終年度とする5カ年の中期経営計画を発表した。22年7月期には米国に初出店する。24年7月期で売上高450億円、売上高営業利益率8%(19年7月期は3.3%)を目指すとしている。

 アメーバ経営の導入はまだしも、地方出店、米国進出は鳥貴族の企業体力や知名度(ブランド力)からみて、かなりハードルが高い。再び低空飛行の経営にならないようにするには、体力に見合った経営しかないはずだ。

 消費税率10%後、小売り・飲食チェーンは値下げによる究極の体力勝負に突入するといわれている。鳥貴族の米国進出には黄色信号が点る。

(文=編集部)

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