教員の程度の低さに唖然茫然である。そして学校現場での隠蔽は明らかだ。
神戸市立東須磨小学校で20代の男性教員Aさんが、40代の女性教員と3人の30代の男性教員の4人によって、激辛カレーを無理やり口に入れる、目にカレーを塗る、焼き肉のたれや辛いスープを大量に飲ませる、ロール紙の芯でミミズ腫れになるまで尻を殴る、車の屋根を土足で踏む、若い女性教員にセクハラのメールを送信させる、などさまざまな嫌がらせをしていた(神戸市教育委員会が未確認のものも含む)。Aさんの代理人弁護士は10月11日になって、兵庫県警に「暴行容疑」で被害届を出した。
Aさんは精神的苦痛などで今年春から呼吸困難や嘔吐の症状が現れて、9月の初めから休職し、家族が市教委に通報した。嫌がらせは教育実習を終えたAさんが2017年春に初任地として同小学校に赴任した頃から始まっており、昨年になって激しくなった。Aさんは今年7月に教頭に被害を訴えたが、被害を知った仁王美貴校長(55)は4人に口頭で注意しただけで市教委には問題行為を報告せず、現場で握りつぶした。
A さんは同校長に手紙を送り、加害教員が撮影した嫌がらせの写真、嫌がる被害者を男性教員が羽交い絞めにして女性教諭が口に激辛カレーを運んで喜ぶ様子が映る映像も渡していたのだ。10月9日に会見した仁王校長は「許せない行為、校務から外した」とし、一方で対応の甘さを謝罪し涙を見せたが、隠蔽は明白だ。仁王校長は今春まで東須磨小で教頭だった。
4人は「そこまで嫌がっているとは思わなかった。悪ふざけが過ぎた」と弁明しているという。女性教員らは生徒に「カレーを吐いたりするのが面白かった」と嬉々として話していたというから驚くしかない。罪の意識はゼロだったのだろう。
10月9日に仁王校長らが開いた会見は午後5時から4時間に及んだ。ごまかそうとするから長くなる。こうした事案は多くの場合、教育委員会の隠蔽指示が見受けられるが、今回は仁王校長、前校長ら現場サイドが隠蔽したのだろう。仁王校長は会見中、加害教員の一人の男性教員が受け持っていた学年を口にした。すぐに「言ってはいけないことを言ってしまいました。個人が特定されるかもしれないので」などと盛んに繰り返した。あたかも被害教員よりも加害教員を守ることのほうが大事なような姿だった。
「現場重視」の負の側面とはいえ、一体、なぜAさんに矛先が向いたのだろうか。筆者も会見で盛んに同校長に尋ねたが、要領を得なかった。
市教委によると、被害教員は3人の男性教員とも仲が良く、自宅にまで招かれたり遊びにいったりしていた。どこからその関係が崩れたのだろうか。代理人は「Aさんは、なぜ自分だけがそんなに攻撃されるのかがわからず大変悩んでいます」と打ち明ける。仮にAさんに(対して)はなんの恨みもなかったとすれば、そこまでやれる感覚こそ余計に恐ろしい。
Aさんは、代理人を通して地元紙などに宛てた書面で、生徒へのメッセージを明かした。「先生はよく『いじめられたら誰かに相談しなさい』と言ってましたね。しかし、その先生が助けを求められず最後に体調まで崩してしましました」と悔い、元気な姿を生徒に見せることを望んでいる。
「主犯格」とみられる女性教員は、2代前の男性校長が招聘していた。教育に詳しいある神戸市議は今回の事案の背景として、人事異動における「神戸方式」があると強調する。「女帝とされる女の先生は校長が引っ張ってきた人物なので、他の教員も声を上げにくい」と見る。
筆者は2人の子供を神戸の小中学校に通わせたが、「神戸方式」など聞いたことがないため、市教委に確認すると「通常は市教委が人事を決めますが、校長同士が相談して、『うちの先生をそちらに』などと教員の異動を決め、お互い了承したら教育委員会に承認を求めるというものです」という。ただ、市教委は「女帝と言われていたようなことは確認していない」とする。すべて市教委が仕切るのではない「現場重視」は良い面もあろうが、こんなかたちで負の側面が出たのなら意味がない。
異常な事案に久元喜蔵市長は激怒し、今後は教育委員会から市の部局に移管した調査チームを立ち上げる。とはいえ、市は「第三者」を強調するが、メンバーを決めるのは市である。悪質行為は「いじめ」や「ハラスメント」のレベルを超え、暴行、強要、器物損壊などの立派な刑事事案だ。有罪判決にならなければ教員資格は失わない。被害者の代理人は被害届を兵庫県警に出した。代理人は「捜査に着手してくれなければ刑事告訴も辞さない」としている。
(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)