そのコンセプトは、「『死の運命』が視える救急救命士が、“変えられない運命”に立ち向かう!」「余命1年の義姉と禁断のラブストーリー」「菜々緒がナチュラル系ヒロイン初挑戦!」。
話題性と言うべきか、ツッコミどころと言うべきか、思わずツイートしたくなる要素満載のドラマ『4分間のマリーゴールド』(TBS系)。
1話10.3%、2話7.8%の世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)はさておき、ネット上には称賛より批判的な声が目立つなど、好スタートを切ったとは言い難い。
批判的な声の原因はどこにあり、今後巻き返していくためには、どんな展開が望まれているのか。
福士蒼汰への風当たりが強くなる理由当作の成否を左右する最初にして最大のポイントは、ストーリーではなく、主演・福士蒼汰とヒロイン・菜々緒のコンビ。2人のファンではない人にとっては、「2人の役作りを受け入れられるか?」がハードルとなり、「1話を見たけど微妙だった」という声が少なくない。
とりわけ目立つのは、菜々緒のイメチェンと、福士蒼汰のモノローグへの疑問。まず菜々緒は、清楚なヘアメイク、穏やかな笑顔、上品な話し方、子どもたちに優しく絵を教えるなど、どこまでもピュアな女性・花巻沙羅を演じているが、これが「今どきいない」「嘘くさい」「似合わない」と手厳しいツッコミの対象となっている。
これまで菜々緒はさんざん強い女性を演じてきただけに、「余命1年」のはかなげなイメージを抱かせることは難しく、それどころか、清純派の役であるにもかかわらず、腕や足を大胆に見せる演出で存在感を示しているのがなんとも皮肉だ。
一方の福士は、「手を重ねた人の“最期の瞬間”が視える」という特殊能力を持つ救急救命士・花巻みことを演じているが、表情も声も行動も「とにかく暗い」と指摘されている。義姉への想いに悩み、余命を知ってさらに悩み、日々の救命活動でも悩み……どの悩みも人に言えないため、ドラマとしては必然的にモノローグ過多となっていく。
それでも“陰のある男性”というイメージならいいのだが、「ボソボソしゃべっていて聞きにくい」「こちらまで暗い気持ちになる」などと言われてしまうのは苦しい。特殊能力というファンタジーを採り入れた作品では、視聴者を引き込むために主演の演技力が求められるだけに、福士に対する風当たりが強くなってしまうのは仕方ないのだ。
その意味で福士と菜々緒のファン以外は、「多少の疑問は受け流してストーリーを楽しむ」「とりあえず見続けることで慣れる」という“スルー力”が試される作品なのかもしれない。
次のポイントは、当作の要となるラブストーリーについて。
みことと沙羅は義理の姉弟だが、血のつながりがない上に年齢も2歳差と近く、恋愛することに支障は少なく、“禁断の恋”というほどではない。作り手が“禁断の恋”というムードを盛り上げようとするほど、視聴者の心は離れてしまうのではないか。
それよりもネット上で気になるのは、「2人の関係性が気持ち悪い」という声。みことが「幼い頃からずっと義姉のことを思い続けてきた」ことに疑問の声が上がっているのだ。
「ずっと一緒に暮らしてきた義弟から、そういう目で見続けられたらしんどい」
「家であんなに意識されたら絶対に気付くし、落ち着けなくて居心地が悪そう」
「25歳までほかに誰も好きになったことがないって異常では?」
なかには「なぜそんなに好きなのか、まったく理解できない」という、そもそも論もあった。実際、スタート時から、みことは沙羅のことが好きだったため、どうやってそんなに好きになったのかわからず、感情移入しづらいのだろう。
感情移入のしづらさに輪をかけているのが、みことが沙羅の描く絵のモデルをしたり、海岸で体が触れるほど密着して座って話したり、夜に2人きりで犬の散歩をしたり、沙羅がみことを抱きしめたり、「一緒に旅行しようよ」と誘ったりなどのイチャイチャシーンを散りばめていること。これは『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)でもそうだったように、命をめぐるシリアスなムードを緩和させる効果がある半面、テーマへの集中力をそぐものでもあり、好き嫌いがはっきり分かれてしまう。
さらに、シリアスなムードを緩和させるために、もうひとつ用意されているのが、家族ドラマの要素。元ヤンキーの兄・廉(桐谷健太)と、一家の料理をつくる高校生・藍(横浜流星)に、柴犬のシロを交えた家族団らんのシーンを多用しているが、ここにもプロデュースへの疑問点が浮かぶ。
福士蒼汰、菜々緒、桐谷健太、横浜流星……と、あまりに知名度の高い人気者を集めすぎたことで、家族というより、友人関係、もっと言えば俳優仲間のグループにしか見えないのだ。
ちなみに、家族ドラマの代名詞とも言われるNHKの朝ドラは、視聴者に家族のイメージを持ってもらうために、主人公の幼少期からじっくり描いている。当作は、そこまで丁寧に描けないとしても、「本当の家族」と思わせるために脚本・演出の工夫が必要だろう。
救命救急の現場を混乱させる主人公同作のツッコミどころで、恋愛パートに次いで多いのが救急救命パート。
1秒でも早い判断や処置が必要であるにもかかわらず、みことは患者の“最期の姿”を見て作業を止め、1人で葛藤を始める。さらに、隊長・江上良平(三浦誠己)の指示に従わず、医師に忠告するなどの越権行為も行い、現場を混乱させてしまう。
タイトルの「4分間」というフレーズには、「救命における生死を分けるタイムリミット」という意味があるのに、みことが大事な時間を使ってしまうことに「なぜ?」「それこそ命取りでは?」などの声が上がっているのだ。
また、救命士たちが肉体美を見せるシーンもツッコミどころとなっている。たとえば2話では、男たちが綱登りで競い合う訓練シーンなど、『海猿』(フジテレビ系)を彷彿させる“筋肉アピール”があった。これは横浜流星のエプロン姿と同様の女性視聴者サービスにほかならないが、多用するほど男性視聴者たちは醒めていく。
今後の成否を占うのは、やはり「『1年後に迫る沙羅の死を救う』という展開をどうドラマチックに描けるか?」に尽きる。2話で「みことが沙羅に人間ドックを受けさせて、考えられる死因を消していく」というシーンがあったが、これを最終回まで続けたら飽きられるのではないか。
ともあれ、禁断の恋(血はつながっていないだろ!)、家族の団らん(とても家族には見えないよ!)、緊迫した救命救急(現場を混乱させるな!)のように、ツッコミを入れながら楽しめる人には、おすすめできる作品だ。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)
●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。