「今回の決算はボロボロだ。真っ赤っかの大赤字で、まさに台風というか大嵐という状況だ」

 ソフトバンクグループ(ソフトバンクG)の孫正義社長は6日、決算会見で自社の状況をこう評した。

「まだまだ余裕だ」という心理的な表れが噴出したジョークなのか、もはや皮肉の一つでも言いたくなる経営状況なのか。市場関係者の間では今回の「真っ赤っか決算」についてさまざまな憶測が流れている。

 同社が発表した2019年9月期中間決算(国際会計基準)は、本業のもうけを示す営業損益が155億円の赤字(前年同期は1兆4200億円の黒字)に転落した。9月期中間決算の赤字は04年9月以来15年ぶり。

 特に7月から9月の落ち込みは著しく、19年7~9月期決算短信によると、最終損益が7001億円の赤字(前年同期は5264億円の黒字)となった。グループが運営するファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」が投資する米国シェアオフィス大手「ウィーワーク」を運営するザ・ウィー・カンパニーと関連会社3社の経営が悪化したことなどを受けて計25銘柄の公正価値が下落。このため、同期決算ではSVF関連で損失9702億円(前年同期は3942億円の利益)を計上した。

2年間で10兆円を投資

 今回、懸案となっているSVFは10兆円を運用する巨大投資ファンドだ。人工知能(AI)分野を中心に世界88社に投資している。ソフトバンクGと、サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)などの出資によって2017年5月20日、発足した。投資先の選別など運用面をソフトバンクGが担っていて、このファンドの設立を機に同社は投資会社としての性格を強めていた。

 同社は赤字決算の最大要因となったウィーワークに対して、子会社やファンドを通じて日本円で1兆1000億円あまりを投資した。

ウィーワークはシェアオフィスを米国や日本などで手掛けているが、かなり強引な事業拡大で赤字体質化していた。さらに、放漫経営の指摘もあり、今秋、ニューヨーク証券取引所への上場を断念。大幅な企業価値の見直しが行われた。

 孫社長は6日の会見で、「同社への今後の救済投資はしない」と明言。一方で「ウィーワークへの投資について反省はしているが、反省をしすぎて萎縮をしているわけではない。これからも思い描いた信念とビジョンは微動だにせずしっかりと進めていく」と話し、なおも積極的な投資スタイルを崩さない方針を示した。

リスク分散ができていない

 経済ジャーナリストの森岡英樹氏は今回の決算を次のように解説する。

「一言でいうと、SVFの見通しが甘かったということです。SVFはウィーワークに対して、計9回に及ぶ追加出資をしました。同社の共同創業者アダム・ニューマン氏が個人的に孫氏に対して無心を続けた結果、1兆円を引き出したといいます。

 これはファンドの投資額の全体の10%にあたります。通常のファンドであれば、ここまで1社のウェートが高くなることはありません。

まったくリスク分散がなされていなかったことが、今回の赤字の最大の要因です。米国の友人に聞いたところ、『SVFが手あたり次第にシリコンバレーのAI・IT関連ベンチャー企業を持って行っている』と困っていました。中身をあまり精査せずに、拙速な出資を行ったのではないかと推測されます」

 同様に国内の有力ファンドマネジャーもSVFの投資の仕方に疑問を呈する。

「SVFのような比較的テーマ色の強いファンドは、特定の業種が崩れた時に大きく崩れます。もう少し、安定的な業種を入れたほうがよかったのかもしれません。米中貿易摩擦やブレクジット(英国の欧州離脱)など、世界経済の不安定要因が増しており、ファンドの対応力が問われています。

 高リスク、高リターンのファンドでは、ある程度攻撃的な組成にしないといけないのかもしれませんが、リーマンショック級のアクシデントが生じた際、ウィーワークに経済的な負の影響に対する対応力があるかどうかは疑問です。自己資本比率や財務力、経営者や役員への聞き取りはもちろん、社員の就業環境や士気なども含めて綿密な調査が必要でしょう。

 そう考えると、2年間で88社は異様な増加スピードです。いったいどんな調査をしていたのか疑問です。しかも、ウィーワークなど特定の企業に肩入れしすぎているのはかなり危険です。新しい投資先にシフトしつつ、全体投資額におけるウィーワークなどの組成割合を調整できるかが正念場でしょうね」

 真っ赤っかな赤字がさらに深紅に染まるのか。

それとも、V字回復に転じるのか。今後の孫正義社長の巧みなかじ取りが見ものだ。

(文=編集部)

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