内閣総理大臣主催の「桜を見る会」に安倍晋三首相の地元支持者が多数招待されていた問題について、野党が「私物化だ」と追及している。同会の開催費用は年々膨らみ、2019年は5518万円にものぼったという。

 政治家やコメンテーターらのさまざまな意見が飛び交うなか、もっとも納得させられたのは、「消費税も増税し、まだまだ予算の無駄を削る必要がある中、こんな会の予算は真っ先に切るべきだ」「こんな予算も削れずに、予算改革などできるわけがない。ただし野党が安倍政権を追及するのも茶番。旧民主党も桜を見る会を開いていたのだから」という元大阪市長・橋下徹氏のツイートだ。

 庶民が吸い取られた高い税金が、こんなムダ金に化けている。それについて「長期政権の緩み」などと批判されているが、見方を変えれば「人を集めれば金になる」というのは物事の道理である。

「安倍さんの目的はたったひとつ。支持基盤を盤石にするためですよ」――投資業界で長年セミナーを開いてきたA氏は、開口一番こう語った。

「投資業界では、セミナーと称して人を集める目的は『金』だけです。私が毎月5回、平均10人の顧客にさまざまな説明をしてきたのも、金ヅルにニンジンをぶら下げたいからです」(A氏)

 A氏が開いていたセミナーは1回3万円。少ない月でも50人ほど集めていたため、それだけで毎月150万円以上を売り上げていた。

「東京だけでなく大阪でもやっていましたから、月商約300万円でした。場所代を差し引いても、250万円以上が手元に残りましたね」(同)

 A氏のビジネスのキモは「人集め」だ。

参加者が増えれば増えるほど、自身の実入りも増える。投資の初心者を相手に「○○が××ビジネスに着手するとの情報が入ってきている。だから、投資するなら今。メディアで報じられてからでは遅い」などと語って、その気にさせるわけだ。

「たとえば、会社の方針の決定権を持つ立場の人間から『太陽光ビジネスはどうだ?』などと聞かれれば、すぐにそれについての情報を会員に教えるわけです。もちろん、その顧客は下調べの段階で実際には手を出さないケースも多々ありますが、聞かれたら間髪をいれずに情報を流すのがキモでした」(同)

 A氏いわく、セミナー参加者で実際に利益を得た人は10人中2人ぐらいだったという。しかし、「セミナーの冒頭で『買い方次第で確実に儲かる』と私の成功体験を話してきたため、長い人では1年以上も通っていましたよ」とのことだ。世の中にはさまざまな業界や業種があるが、「人を集める」ことが成功への大切な要素となるのは、どんなビジネスでも変わらないだろう。

桜を見る会と投資セミナーは同じ構図?

 A氏が実践してきたように、人が集まれば金が集まる。それは政治においても同じだろう。前述したように、A氏は安倍首相の狙いについて「支持基盤の強化」を挙げる。それは、投資セミナーと同じ構図が透けて見えるからだという。

「多くの人を集め、大勢できれいな服を着て桜を見る。その楽しそうな写真がマスメディアで流れる……その効力を安倍首相は知っているわけです。安倍首相は過去に『笑っていいとも!』(フジテレビ系)に登場するなど、歴代の首相と比べても地上波への出演が多いタイプですが、それもメディアを通じたパブリックイメージの向上を狙っているからでしょう」(同)

 そして、A氏は「桜を見る会も投資セミナーも、発想の源は同じ」と語る。

「投資セミナーの目的は『人=金』ですが、政治の場合は『人=票』でしょう。人が多く集まるほど票固めにつながり、権力を維持できる。だからこそ、政治家は何度もパーティーを開くわけです。ある政治家のパーティーでは私のような人間にも声がかかりましたし、そこで撮った首相や党三役の人たちとのツーショット写真をセミナーの会員に見せるだけで、信用されましたよ。いわば、主催者と参加者は共存共栄の関係ですよね」(同)

 桜を見る会を主催する安倍首相も投資セミナーの主催者も、目的や考えの根源は、さほど変わらないのかもしれない。

(文=井山良介/経済ライター)

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