“黒船”到来から30年が過ぎて、東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)は大きく変わろうとしている。第65回大会(1989年)でジョセフ・オツオリ(山梨学院大)が“花の2区”で衝撃の7人抜きを披露すると、留学生旋風が巻き起こった。

強い留学生がいるから日本人選手も成長するという相乗効果で、山梨学大は急浮上。第68回大会(92年)で初優勝を果たすと、第70回(94年)大会・第71回(95年)大会では連覇を成し遂げた。

 その後、多くの大学がケニア人を中心とする留学生を採用。気づけば大学だけでなく、実業団、高校でも外国人ランナーの姿が当たり前になった。しかし昨今、箱根駅伝では留学生のいるチームが苦戦している。

 山梨学大は3度目の優勝後、徐々にペースダウンした。近年の箱根は17位、18位、21位と、途中棄権を除いてワースト順位を更新。今回は予選会で17位に沈み、連続出場が33年で途切れた。

 前回出場した23校中、留学生が出走したのは拓殖大、日本大、東京国際大、国士館大の4校。うちシード権を獲得したのは拓大だけだった。拓大は2区のワークナー・デレセが6人抜きを見せるも、2区終了時で12位。日本人選手の実力でシード圏内に入り、総合9位を確保した。

日大と国士大は2区を走った留学生の区間順位(区間1位と同3位)だけが突出しており、日本人選手は日大が区間8位、国士大は区間9位が最高だった。両校とも区間一桁順位は留学生を含めて2区間しかなかった。

 一方、東京国際大は12位とシード権には届かなかったものの、日本人選手の健闘が目立った。7区・芳賀宏太郎と8区・山瀬大成が区間6位と好走して、2区・伊藤達彦も区間11位という結果を残している。留学生はというと、1区で区間8位だった。

 今回の第96回大会(2020年)には、拓大、東京国際大、創価大、日大、国士大の4校で留学生が区間エントリーされている。前回までと違うのは、拓大、東京国際大、創価大の3校は日本人でも学生トップクラスの選手がいることだ。

 拓大と創価大は2区にケニア人留学生を配置。拓大は1万メートル28分27秒90(今季日本人学生6位)の赤崎暁、創価大は同28分30秒59(今季日本人学生7位)の満怜がいる。両校は2区の一発だけでなく、日本人エースの入る区間でも攻撃できる。3年ぶり3回目の出場となる創価大は選手層も厚い。序盤で流れをつかむことができれば、シード権を獲得するチャンスは十分にあるだろう。

東京国際大、大躍進の予感

 そして、東京国際大は今回、大躍進の予感が漂っている。創部9年目の今季は6月の全日本大学駅伝予選会と10月の箱根駅伝予選会をトップで通過。初出場となった全日本大学駅伝でいきなり4位に食い込み、伝統校の関係者を驚かせた。

 全日本大学駅伝は最終8区のルカ・ムセンビが順位を2つ上げているが、7区までは日本人選手だけで6位につけた。留学生に頼らなくても上位校と戦える戦力を誇っている。

 絶好調のチームを引っ張るのは、日本人エースの伊藤達彦だ。7月のユニバーシアード・ハーフマラソンで銅メダルを獲得。箱根予選会は日本人トップ(個人5位)に食い込み、4人のケニア人ランナーに先着した。そして全日本大学駅伝の2区が圧巻だった。14位でスタートを切ると、次々とエース級ランナーをとらえていく。トップでタスキを渡して、区間記録を51秒も塗り替えた。

 3年連続の2区が濃厚な伊藤は「区間賞」をターゲットにしている。

チームにはふたりのケニア人ルーキーがいるが、9月の日本インカレ5000メートルで優勝を飾るなどスピードのあるイェゴン・ヴィンセント・キベットの起用が有力。1区もしくは3区に起用する方針で、ロケットスタートが期待できる。往路ではトップを駆け抜けるシーンが見られるかもしれない。

 変わりゆく箱根駅伝。単にケニア人留学生を“獲得”すれば戦える、という時代は終わった。留学生に頼るのではなく、どのように留学生を生かすチームにしていくのか。留学生を抱える大学が増加するなかで、彼らの役割も変化している。

(文=酒井政人/スポーツライター)

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