自動車業界において、世界の主流はSUV(スポーツユーティリティヴィークル/スポーツ用多目的車)に移行しつつある。SUV系のモデルをラインナップに持たないメーカーは、もはや企業としての存在が危ぶまれるほどだ。
それはスポーツカーメーカーとて同様で、それが証拠にスポーツカーメーカーのポルシェでさえ、早くからSUVを充実させたことで経営を安定させた。初のSUVである「カイエン」だけでなく「マカン」をリリースするという周到な戦略が成功に導いた。
その波は武闘派のスポーツカーメーカーにも伝播した。ジェームス・ボンドで有名なアストンマーチンは「DBX」を発表。イタリアのマセラティは「レヴァンテ」をリリース。ついには、あのフェラーリでさえ、2022年にはSUVを発売するというから、時代はSUVなのである。そんな時代を色濃く反映するのが、ランボルギーニ「ウルス」であろう。
ランボルギーニは、あの「カウンタック」を生み出したイタリアのメーカーである。「アヴェンタドール」や「ウラカン」といった過激な“猛獣”を次々にリリースしたことが証明するように、バイオレンス度は図抜けており、他の追随を許さない。そんなランボでさえ、SUVをラインナップに揃える必要があるのだ。
同時にそれは、このような非現実的なスポーツカーを所有する富裕層の生活パターンや趣味趣向にも符合する。ビジネスで成功し、華やかな生活を送る富裕層には、高額なスホーツカーが欠かせない。
だからというわけではないのかもしれないが、「ウルス」は特異なランボルギーニだと言わざるを得ない。そのスタイルは、まごうことなきランボルギーニであることを主張する。ルックスは「アヴェンタドール」と血筋を共にすることが明白。それはポルシェの「カイエン」や「マカン」、アストンマーチンの「DBX」、マセラティは「レヴァンテ」と同様に、背が高く5枚のドアを持つようになっても、ブランドイメージと血統を色濃く感じさせるものとなっている。
だが、走り始めてみると非現実性が薄れているのは、やはり「カイエン」「マカン」「DBX」「レヴァンテ」と同様なのである。
搭載するエンジンはV型8気筒ツインターボであり、ライバルを大きく凌ぐパワーが与えられている。最高出力は650psに達するというから、常軌を逸していると言わざるを得ない。
だが、日常で扱い切れない化け物かと言えば、答えは「否」となる。
鎮静剤を打たれた猛獣――。それが「ウルス」である。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)
●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

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