コロナ禍による人々の活動自粛のため明るい話題の少ないアパレル業界だが、ファーストリテイリング傘下のユニクロが実験的な新コンセプトの大型3店舗を戦略店舗として相次ぎオープンさせた。4月13日に「ユニクロの店舗が公園になっている」ユニクロパーク横浜ベイサイド店が三井アウトレットパーク隣接地にオープンした。
そこで今回は、各店舗からみえるユニクロの可能性と課題を探ってみたい。
1.3世代を取り込む公園一体型「ユニクロパーク 横浜ベイサイド店」筆者が最も評価するユニクロの社会貢献は、日常に着る服を親子3世代で選べる楽しさを根付かせたことである。かつて服選びは、母親が買ってきたものを家族が着る、あるいは孫の服を祖母や祖父が選んでも子ども夫婦の趣味に合わなかったりした。家族で服をお互いに選び合いながら購入する楽しさは、ユニクロの売場面積の広さによって実現した。そこには、世代を超えた品揃え、気にする必要のない価格帯、接客のなさで大切な人の服選びをする楽しさがある。
これは、アパレルの実店舗が消費者に提供する最大のワクワク感のひとつである。実験的なコンセプトの横浜ベイサイド店は、まさにこの延長線上にある。1階はユニクロ、2階はGU、3階はユニクロとGUのベビー・キッズの融合売場。教育知育玩具のボーネルンドと連携して、公園には子どもが楽しく安心して遊べる遊具が多数設置されている。ファミリー層の来店用にナーシングルーム(授乳室)、オムツ替え台、調乳専用浄水給湯機なども設置されている。
「わざわざ行きたくなる店」を目指すユニクロの世界戦略のクリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和氏がグランドプロデューサーを務め、建築家の藤本壮介氏が基本構想とデザイン監修を行った。コト発信で消費者が参加しやすいコミュニティが形成されていくのが楽しみである。
2.リアルとバーチャルの融合体験を目指す「ユニクロ原宿店」1998年にユニクロ初の首都圏都心型店舗を出店しフリースの大ブームを生んだ原宿地区で、新店舗がオープンした。場所柄、若者を強く意識したコンセプトとなっている。全面ガラス張りで店内の様子が外からもよく見える演出となっている。店内奥の大型ディスプレイの映像、ティッカー(メッセージが表示される赤の電光掲示板)、メタル調のマネキン、ガラス張りの天井など、ハイテク感満載で未来型店舗の印象に溢れている。
シンボル的な存在として、現代美術家の村上隆氏がポップアイコン、ビリー・アイリッシュの3メートル級の像を製作。ユニクロ、村上、ビリーのトリプルコラボTシャツを着用している。ファンにとっては聖地となる。美術館のようなガラスケースのTシャツだけでなく、ステーショナリー、バンダナ、ステッカーなど、若者が気軽に買える記念グッズも揃う。
地下には、自分だけのTシャツがつくれる「UTme!」などのサービスも充実。
マロニエゲート銀座2のユニクロ トウキョウは、スイス発の建築家ユニットで北京五輪の鳥の巣競技場で知られるヘルツォーク・アンド・ド・ムーロンが内外装を手掛けた。躯体のコンクリートむき出しで中央を吹き抜けにして、各層に空間の広がりを与えている。ここ数年でユニクロ全店のVMDは非常にレベルが上がっている。ユニクロ トウキョウでは全フロアのVMDもさまざまなクリエイターと取り組んでいる。
ただ、3階のメンズ売場のVMDも素晴らしかったが、商品を売場で探すのに苦労した。
また、場所柄カジュアルだけでなくスーツ、シャツのイージーオーダーも充実させているが、ジャケット、スーツのお粗末さも課題である。過去にコラボした「+J」のスーツのシルエットは安価でも美しかった。しかし最近注力しているスーツの完成度は、残念ながら低い。グローバル旗艦店であるならば、シャツやジーンズに並ぶスーツ、ジャケットにも飛びぬけた価格訴求力を実現させてほしい。
まとめ国内アパレル市場の約2割を占めるファストリが、アパレル業界に明るい話題を提供した。業界では今、ファッションのカジュアル化、そしてコロナ禍が前倒しにした新生活様式の模索が続いている。新たな挑戦を続け、売上世界一を目指すファストリの動きから目が離せない。ベーシックな“LifeWear”の安定した需要を土台に、「服が人々に与える素晴らしさ」を永遠に提供していってほしい。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)