7月18日にこの世を去った三浦春馬。15日には遺作となるドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系)が放送開始となり、改めてその死を悼む声が大きくなっている。
大手芸能プロのアミューズは14日、『当社所属アーティストや関係者への誹謗中傷、デマ情報、憶測記事、なりすまし等について』との見出しの声明を発表した。このなかでは、アミューズに所属するアーティストやその関係者について、度を越えた誹謗中傷、デマ情報の拡散などが行われている現状があると指摘。
「当社としては、アーティスト等を守るために、上記行為に対しては法的措置を含む対抗策をこれまで以上に毅然と講じる所存であり、特にネット上の誹謗中傷等に対しては、発信者情報開示請求(情報発信者の住所・氏名・登録された電話番号等の開示をプロバイダに求める手続)も活用して、加害者である発信者の責任を追及して参ります」
と、ネット上で繰り広げられる所属タレントへの誹謗中傷について、法的措置を含む対応を行うことを明言したのである。
こうした声明を出した背景には、SNSを中心に、三浦に対して根も葉もない噂が流されているという現状があるようだ。実際Twitterなどでは、三浦はCIAに殺されたという“他殺説”が拡散されているほか、三浦の自殺は芸能事務所に責任の一端があるというもの等々、さまざまなトンデモ情報がいまなお広げられているのである。
5月には、リアリティショー『テラスハウス』(フジテレビ系)に出演したプロレスラー・木村花が、自身に対するネット上での誹謗中傷を苦にして自死。繰り返されるこうした悲劇をきっかけとして、この種の卑劣な行為への批判が高まることとなっているわけだが、昨今では、芸能人個人や所属の芸能プロダクションが、こうした“悪意”に対して毅然とした対応を取る例も増え続けている。
“はるかぜちゃん”こと春名風花は、刑事民事両面から戦い、加害者側から示談の申し出刑事事件にいたった例としては、俳優・西田敏行への中傷事件が挙げられるだろう。2016年5月頃、複数のまとめブログが西田の薬物疑惑や暴行疑惑などについての記述がある記事を転載し拡散。西田が所属する事務所はこれらに対して同年8月、警視庁赤坂署に被害届を提出、2017年7月には、これらのまとめブログを運営していた男女3人が書類送検されることとなった。
また、元AKB48メンバーである川崎希も、2019年4月に子育て情報サイト上の掲示板で自身を中傷した女2人に対し、発信者情報開示請求を行った後に刑事告訴を行い、こちらも書類送検にいたっている。
刑事事件とはならなかったものの、民事訴訟にいたった例としては、元子役で現在も女優や声優、タレントとして活動する“はるかぜちゃん”こと春名風花の件が有名だろう。これは、Twitter上で「彼女の両親自体が失敗作」という投稿をした人物に対し、春名が発信者情報開示請求を行ったのちの今年1月、慰謝料などを求めて横浜地裁に提訴。同時並行で刑事告訴も行ったが、加害者側から示談の申し入れが行われ、刑事告訴の取り下げを条件として慰謝料315万4000円を受け取ったとされている。
また、横浜DeNAベイスターズに所属するプロ野球選手・井納翔一も2018年1月、同様の訴訟を起こしたことを、2018年1月に週刊誌「フライデー」(講談社)によって報じられている。ネット掲示板にて妻が酷評されたとして、書き込みを行った女に対して約191万円の損害賠償請求を行ったというのが記事の内容だが、井納の妻がその後記事の内容に関して異なる部分があると声明を発表。その後、続報は途絶えた状態となっている。
ネット上の匿名個人という、“見えない敵”との戦いメディア側が行った報道に対し、芸能人や所属の芸能プロダクションが「事実無根」「名誉毀損」だとして訴訟を起こす例は以前から珍しくはない。たいていは芸能プロ側が前面に立って訴えるケースが多いが、芸能人が個人で提訴に踏み切った例としては、中森明菜が2013年、「女性セブン」(小学館)に盗撮記事が掲載されたことを提訴、東京地裁の一審判決において勝訴した例などがある。
しかし、SNS全盛の現代において、芸能人や芸能プロダクションが戦わなければならないのは、「報道の自由」を旗印にするメディアという“見える敵”ではなく、どんなことでも言いっぱなしのネット上の匿名個人という、“見えない敵”へと重心が移りつつあるようだ。
木村花の事件を受け、ネット上の書き込みに対する発信者情報開示請求のハードルを下げていこうといった議論も、すでに国会議員の間で出てきている。冒頭のアミューズの声明も、そうした時代の流れのなかで、“言いっぱなし”のメディアや個人に対し、「毅然とした態度」を取っていくとの意思表示なのであろう。
(文=編集部)