現在、勢いのあるYouTuberとして、朝倉未来を挙げる人も多いだろう。格闘技イベント・RIZINを主戦場とする総合格闘家の彼は、昨年の5月に自身の公式YouTubeチャンネルを開設。
その格闘家YouTuberの名は、朝倉と同じくRIZINを主戦場にしている矢地祐介。朝倉との対戦経験もあり(結果は判定負け)、“神の子”として2000年代に爆発的な人気を博した総合格闘家、故・山本”KID”徳郁の弟子としても知られている。2016年にRIZINに参戦すると、北岡悟や五味隆典など、大物ファイターたちに次々と勝利。ビッグマッチで輝く“お祭り男”として、本業の格闘技でもかなりの人気を獲得している選手である。私生活では、女優の川口春奈と交際していることが報じられたこともあり、世間的にも名が知られた存在といえるだろう。
YouTuberとしての矢地は、朝倉よりも早い2019年1月にYouTube上で公式チャンネルを開設したものの、最初のうちはどの動画も再生数が伸び悩むことに。しかし、“ある動画”が人気を集めたことで、格闘技系YouTuberとして名を馳せることになった。
『バキ検証』で『無寸勁』(ノーインチパンチ)に挑戦するも、『効かんな』『やめとこ』ある格闘技ライターが、そのきっかけについてこう語る。
「もともと矢地は、『バキ検証』というシリーズ動画をYouTube上で公開していました。これは、矢地の動画にサポートメンバーとして何度も出演しているお笑いコンビ・デニスの植野行雄と共に、あの人気格闘マンガ『グラップラー刃牙』(秋田書店)の登場人物が使う必殺技を本当にできるか検証するというもの。
そんな彼が今年3月、『格闘家が中国拳法ノーインチパンチを放つ!漫画バキに出てくる技を格闘家は実際にできるのかシリーズ、第10弾!』という動画を投稿したんです。この動画で矢地は、『刃牙』の登場人物で中国拳法の達人である烈海王が使用する技『無寸勁』(ノーインチパンチ)に挑戦。これは、ほぼ密着した状態からパンチを放つというものです。しかしトライしたその技を受けた植野は『効かんな』『やめとこ』とコメント、いつも通り、まったく実践的ではないという結論に至りました。
ところが、その後の動画で“事件”が起きます。ブルース・リーが創始したという武術・ジークンドーの達人の石井東吾という人物が、無寸勁の動画を見て矢地に連絡してきたと。無寸勁ではないものの、ワンインチパンチという、ほぼ密着した状態から繰り出せる打撃技を伝授することとなったのです」
最初は苦笑した“ワンインチパンチ”の本当の威力に驚愕、動画は300万超再生の人気コンテンツにこの様子は、同じく3月に投稿された『総合格闘技 VS ジークンドー!ブルース・リー直伝のワンインチパンチ、衝撃の被弾・・!』に収められている。動画の序盤では、石井が弟子に対してワンインチパンチを繰り出し、弟子が派手に吹っ飛ぶという衝撃映像が流される。それを見た矢地は、「オーバーリアクションやめてください」と笑いながらコメントしたのだが……。
実際に矢地が石井氏のワンインチパンチを受けてみると、先の弟子と同様に吹っ飛び「うそ!? 全然オーバーじゃない」と驚愕。素直に技を教えてもらうことを決意した矢地は、原理を石井から習ってすぐさま練習し、遅れて収録に参加してきた植野に対して覚えたてのワンインチパンチを炸裂させると、以前の動画とはケタ違いの威力に植野が驚愕する……という内容なのである。
「この動画は、9月25日時点でチャンネル内トップの336万回以上の再生数を獲得、大きな注目を集めることとなりました。この件をきっかけとして矢地は、この石井から技を習うなどのコラボ動画をたびたび投稿するように。現在では、ジークンドーの技術を自身の本職である総合格闘技に生かそうと、本格的に石井に師事しているようです。
こうした一連の経緯についてネットでは、『本当に達人の技ってヤバいんだね』と石井の武術の腕前について驚愕する声や、『最初は石井さんの技を馬鹿にしていたのに、本物だとわかって弟子入りするの、マジでマンガの展開みたい』と、2人の関係性について称賛する声が相次いでいます。これがきっかけとなり、5月に発売された格闘技雑誌『ゴング格闘技』(7月号、イースト・プレス)では、2人の対談記事まで掲載されていましたね」(前出・格闘ライター)
沖縄武術が源流の躰道、“零距離戦闘術”などに教えを請う「達人シリーズ」が一躍人気に矢地は石井との交流のあと、沖縄武術の手(ティー)を母体とした武術・躰道で世界大会を4連覇した達人の中野哲爾や、アクション俳優としても知られる“零距離戦闘術”の達人・坂口拓から技を教わる――などの「達人シリーズ」を動画で展開。その多くが100万回以上の再生数を獲得して矢地のチャンネルのキラーコンテンツとなり、人気を集めている。その結果、チャンネル登録者数も9月25日時点で20万人を突破しており、朝倉ほどとはいかないまでも、“人気YouTuber格闘家”の仲間入りを果たしているのである。
そんな矢地は、9月27日にさいたまスーパーアリーナで開催される格闘技イベント「RIZIN.24」への出場が決定している。8月に行われたRIZIN.22では、ブラジルの強豪選手であるホベルト・サトシ・ソウザに2分足らずで敗北を喫する残念な結果となったが、再起戦となる今回は、その雪辱を果たせるのかが注目されている。
空前の格闘技ブームだった2000年代に比べると、下火になりつつある格闘技界。朝倉未来や矢地祐介のように、格闘技そのものとは少々違う角度から人気を集めるファイターたちが、格闘技旋風を再び巻き起こすきっかけとなる日も近いかもしれない。
(文=編集部)