劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』が大ヒットを記録しているアニメ業界。帝国データバンクの調査によると、2019年(1~12月期決算)におけるアニメ制作業界の市場規模は2427億4900万円だった。
一方で、前年からの伸び率では0.5%の増加にとどまった。「増加率としては11年以降で過去最低を記録しており、19年は成長に急ブレーキがかかりました。20年は、10年ぶりに規模縮小の可能性もあります」と語る、帝国データバンクデータソリューション企画部情報統括課副主任の飯島大介氏に話を聞いた。
京都アニメーションの新作映画がヒット――アニメ制作業界は市場規模が拡大し続けていますね。
飯島大介氏(以下、飯島) 19年はテレビアニメ『鬼滅の刃』が大人気となり、現在公開中の映画も、すでに興行収入が歴代5位に入っています。また、新海誠監督の『天気の子』も興収140億円を突破するなど、明るい話題が相次ぎました。
一方で、19年7月には京都アニメーションで放火事件が発生し、36名のスタッフが亡くなる大惨事が起きてしまいました。これは、日本のアニメ文化にとって大きな痛手です。しかし、同社は制作活動を再開しており、20年9月に公開された映画『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が好調な滑り出しを見せています。
――ヒット作が出れば、アニメ制作会社も潤うのでしょうか。
飯島 そう簡単にはいかない事情もあります。
ただ、アニメ制作には多額の費用がかかるということが一般にも認知され、過去の実績から単価を引き上げるケースが出てきたことは、明るい材料です。さらに、中国のアニメ制作会社など海外の動画配信大手からの大型案件受注などで業績を向上させるケースも出てきています。
19年の制作1社あたりにおける平均売上高は8億9900万円で、アニメバブル崩壊直前でピークだった07年(約10億円)の約9割にまで回復しています。前年比では4.2%増加し、16年以降4年連続で拡大しました。
――アニメ制作業界の課題は何でしょうか。
飯島 ずっと言われていることですが、人手不足による人件費高騰や設備投資の負担が重く、利益を押し下げる要因になっています。また、各社とも「働き方改革」の対応に追われており、アニメーターの採用・育成やコンピュータグラフィックスなど先端技術の活用、自社の消化能力を超えた受注による外注依存などで、コスト上昇が顕在化しています。中には採算割れで減益となったケースもあり、収益構造の不安定さは続いています。
10年ぶりに市場規模縮小の可能性も――業界全体の最近のトピックスは、どんなものがありますか。
飯島 アニメ制作会社によるM&Aや、共同出資によるアニメ制作会社の設立が目立っています。
――今後の見通しについて教えてください。
飯島 アニメ制作会社は収益の多角化を進めており、そのひとつがライセンス収入の拡大です。米国の動画配信大手や中国のアニメ制作会社が、クオリティ向上のために多額の費用で日本の制作会社への発注を増加させる動きもあり、こうした外需の獲得効果も追い風となっています。
20年代も日本のアニメは国内外を問わず動画配信分野におけるキラーコンテンツとして君臨するとみられており、アニメ制作業界は持続的な発展が見込まれています。ただし、短期的には新型コロナウイルスによる影響、長期的には人材育成や収益構造の問題を抱えており、20年のアニメ制作市場は9年間続いた拡大傾向から一転して、10年ぶりに規模縮小の可能性もあります。引き続き、動向を注視したいと思います。
(構成=長井雄一朗/ライター)

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