新築マンションが売れています。コロナ禍で住まいへの考え方が変化、新たな住まいを求める人が増えているなか、新築マンションを中心に感染症対策を徹底したマンションが続々と登場しています。
新型コロナウイルス感染症拡大が止まず、先行きを見通しにくい環境が続いています。収入はなかなか増えず、失業などのリスクも高まっています。それだけに、こんな時期に住まい探しをするのはどうかという気もしますが、実は、こんな時期だからこそ新たな住まいを求める人が少なくないのです。
図表1は、リクルートが住宅の購入や建築を検討している人を対象に実施した調査結果ですが、最初にコロナ禍が深刻化した2020年5月には、コロナ禍で住まい探しへの意欲が「抑制」されたという人が36%で、逆に「促進」されたという人は20%でした。「促進」から「抑制」差し引いた数値は16ポイント。コロナ禍当初は、多くの人が、いまはマイホームどころではないと考えていたわけです。
しかし、コロナ禍が長引くにつれて、「抑制」割合は徐々に低下、「促進」が増えてきました。2020年12月調査では、「抑制」は27%で、「促進」は21%、「抑制」から「促進」を引いたポイントの差は6ポイントに縮小、2020年5月調査に比べると10ポイントも減少しているのです。トレンドとしては「抑制」より「促進」という人が増えているといっていいでしょう。
コロナ禍ならではの住まいへのニーズがあるコロナ禍が続いているにもかかわらず、なぜこんな変化が起こっているのでしょうか。さまざまな要因が挙げられますが、集約すると、コロナ禍で在宅時間が長くなり、自分たちの将来や住まいのあり方について考える機会が多くなったことに加え、コロナ禍でも快適に住まうためには、現在の住まいでは不十分で、新たな住まいが必要なのではないかと考える人が増えてきたためではないでしょうか。
たとえば、在宅ワークが増えてきたが、現在の住まいには仕事に集中できるスペースがない、家族全員が在宅する時間が長いので、家族間の一定の距離をとれる住まいが必要になっている、また、子どもたちが住まいのなかで騒ぐことも多く、音の問題が気になる、マンションは建物内で人と接触する機会が多く、対策が十分でないマンションは不安といった事情もあるでしょう。
コロナ禍のニーズに対応したマンション登場コロナ禍が長引いているなか、そうした新たな住宅ニーズに対応した新築マンションが登場しています。それが、コロナ禍でも新築マンションが売れる一因になっているのではないでしょうか。コロナ禍で新たにマンションに期待される要素としては、次のような点が挙げられるでしょう。
・エントランスから住戸までの動線における非接触の徹底
・ワークスペースなどを確保しやすい広めの住まい
・共用スペースの非接触の徹底とワークブースの確保
こうしたニーズに対応した新築マンションが次々と登場し、人気を集めています。
7つのコロナ対策を採用したマンション東急不動産が滋賀県草津市で開発を進めている『ブランズシティ南草津』は、新型コロナウイルス感染症の流行に影響を受けた「ニューノーマルな生活」に対応した、都市近郊型の分譲マンションです。JR琵琶湖線「南草津」駅徒歩2分、鉄筋コンクリート造地上14階建て、総戸数217戸で、2021年7月から販売を開始します。
東急不動産では、「ニューノーマルな生活」への対応として、次の7点を挙げています。
(1)さまざまな用途に対応したコワーキングスペース
(2)ワークスペースを設けたセレクトプラン
(3)東急不動産監修によるパーティールームで親子参加型イベントの実施(予定)
(4)奥行き約2.3mのバルコニー(一部住居)
(5)デジタル技術を活用した清掃性の高いキッズスペース
(6)リビングを通らずに着替えられるクローク
(7)非接触操作のエレベーター
エントランスやエレベーターも非接触で共用スペースにコワーキングスペースを設けています。個室で集中して仕事に取り組める「集中エリア」、開放感のある「オープンエリア」、リラックスしながら読書などを楽しめる「リフレッシュエリア」があり、コピーやスキャンができる複合機やコーヒーメーカーを備えています。
セレクトプランとして居室内にもワークスペースを設置することができ、夫婦ともに在宅勤務でも仕事に集中できそうです。非接触という点では、キーをポケットに入れたままでリーダーに近づいたり、かざすだけで扉が開くエントランス、エレベーターもキーをかざすだけで呼ぶことができ、行先階が指定されます。
在宅時間が長くなっていますし、外食しにくい環境ですから、広いバルコニーでゆったりとした時間を過ごしたり、キャンプ気分を楽しむこともできそうです。
エントランスからゴミ置場まで非接触を徹底ポラスグループの中央住宅が千葉県船橋市で販売を進めている『ルピアコート津田沼』は、最寄り駅がJR総武線快速・中央線総武線各駅停車「津田沼」駅から徒歩12分の場所に建設されています。「『さわらない、もちこまない』新発想でかぞくを守る。」がコンセプトになっています。
(1)どこにも触れずに、ドアが開く!ノンタッチのエントランス
(2)おとなサイズ・子どもサイズの2台をご用意!共用部に手洗いコーナー
(3)宅配ロッカーもノンタッチ
(4)手をかざせば、迎えに来てくれるエレベーター
(5)最新のエレベーターは、ノンタッチで我が家のフロアに直行
(6)帰宅時の手洗いもノンタッチ
(7)自動ドア完備 ゴミ置場もノンタッチ!
在宅ワーク時には収納をワークスペースになかでも、エントランスにおける手洗い場の設置は、恐らく分譲マンションでは初めてのことではないでしょうか。しかも、自動タイプのハンドソープで、子ども用もあるので小さな子ども連れでも安心です。専有部にも非接触で手洗いできるタッチレス水栓が設けられています。さらにゴミ置場も住戸の鍵と連動する自動ドアなので、手を汚さずに処理できますし、重いゴミを持っているときも安心です。
総戸数53戸のさほど規模が大きくないマンションなので、共用施設にコワーキングスペースなどを設置するのは難しいので、居室に工夫を行っています。収納スペースを「変身クローク」として、ライフサイクルに合わせてフレキシブルに活用できるようにしているのです。子どもが小さいうちには、ハンガーパイプを移動、折り畳み式のカウンターを広げれば机になります。椅子を持ち込めば、スッキリとしたワークスペースになります。
さまざまな面でコロナ禍への対応を取り入れた新築マンションが増えていますが、コロナ禍がいつまで続き、その後の生活がどうなるのかをまで見越した選択が欠かせません。自宅内に大きなワークスペースをつくってしまい、購入後には在宅勤務が終了したら、無用の長物になる可能があります。共用部のコワーキングスペースについても同様です。その点、クローゼットを一時的にワークスペースにする形であれば、ポストコロナになったときには、クローゼットに戻すことができます。
ただ、非接触についてはポストコロナにおいても、いつ新たな感染症に襲われるかわかりませんから、「ニューノーマル」なライフスタイルには欠かせない要素になるかもしれません。ほんとうに何が必要なのか、ライフスタイル、ライフステージの変化を見通した上で間違いのない選択を行ってください。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)
●山下和之/住宅ジャーナリスト
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『よくわかる不動産業界』『家を買う。その前に知っておきたいこと』(以上日本実業出版社)、『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。
日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が5月11日に発売された。