“トー横キッズ”という言葉がメデイアで報じられるようになったのは、新型コロナウイルスが顕在化した、ここ1年ほどのことだ。新宿歌舞伎町の「TOHOシネマズ横」辺りでたむろする若年層の男女たちの存在は、今では広く知られるようになった。

 その一方、トー横キッズに関連する事件が頻発している。今年に入ってからは、違法薬物の乱用や飛び降り自殺が起き、11月にはもともとトー横辺りを縄張りとしていた6名の男性グループがホームレス男性を殴り殺して逮捕され、その実態に関心が集まっている。

 だが、これらは氷山の一角で、事件化されていない問題も多発しているのだ。それに伴い、拠り所のない少年少女たちを喰い物にするような不逞な輩も出てきている。

「新宿署は、もともとトー横周辺を一歩引いて見ていました。何か背後につながっていくような存在はなく、捜査員の動員とかかる労力を考えると、割に合う案件ではなかったからです。ところが、10月に入りトー横界隈に出入りする男性が児童買春で逮捕され、11月には6名の男性グループによる殺害事件まで発生しました。

 トー横に対する事件が頻発したことを受け、新宿署も重い腰を上げて取締を強化し、年末にかけて100人以上の捜査官が投入されるという大捜査へと発展しています。さらに、売春や違法薬物に対する組織的な犯罪も顕在化しつつあり、捜査と並行して未成年者たちに対しての保護も同時に行っています」(全国紙社会部記者)

 かつての渋谷や池袋のように、いつの時代もトー横キッズのような未成年者はクローズアップされ、また大人たちの“ビジネス”に利用されてきた歴史がある。たとえば、未成年者を使って薬の売買をすることでアシがつくリスクを避け、未成年女性に対しては寝所と飲食を確保することを交渉材料に、管理売春を行うグループも界隈には生まれている。

 トー横周辺に出入りする10代女性は、次のように話す。

「みんながみんなそうじゃないけど、女の子たちのなかには、お金のために喜んで“割り切り”や“パパ活”をする子は少なくないです。

でも、自分たちでやると、誰に当たるかわからないしリスクもある。だから半グレみたいな人が客を引っ張ってきて、そこに任せている、という子もいる。どれくらい客がつくかですか? だいたい本番までして2~3万円。それを多い日だと2~3組くらいやる子もいますね。ただ、なかには管理者が客を脅して美人局をしてお金を巻き上げるような悪い人もいます。

 あとは、これだけメディアで報じられると、ウリ(売春)などの違法行為はしにくくなりました。だから、今は純粋なトー横キッズなんていませんし、みんな場所を移したり、ネット上で相手を見つけたりしています。結局、場所が変わったところで、やることは同じなんです」

未成年者に群がる大人たち

 未成年者を使い管理売春などをすることは、当然ながら裏社会との関係なしには不可能だろう。歌舞伎町に拠点を置くヤクザの構成員は、現在の新宿をどう見ているのか。

「未成年はシノギとしてもリスクが高すぎるし、どれだけ儲かるとしても本職は手を出しにくい。だから未成年を使うような輩は半グレか中途半端な奴らで、小物なわけ。ただ、それが最近は目に余るようになって、シマ荒らしのような輩も出てきた。

こうなるとヤクザも黙っているわけにはいかん。トー横周りの売春はケツ持ちがおるというふうな話も聞いたけど、今のご時世に組としてはそんなリスクがあるシノギに乗り出すのは、頭のネジが飛んだ、よっぽどヤバい奴らやから関わりたくないというのが本音や」

 トー横という言葉はメディアでも露出が増え、取材者も増えてきた。本質的な問題は貧困であるはずだが、トー横キッズと呼ばれた者の間には、どうも切実な部分というのは見えづらい。一時のニュースとして消費された後は、いずれ去っていくだろうという声もある。

 トー横周辺の若者と一緒にボランティア活動していた40代男性が語る。

「結局、大人がトー横の子たちに近づく理由は、金と性だけなんです。今ではボランティア団体や有志者が出てきましたが、突き詰めるとそこに行き着きます。少し親身に話を聞いてあげ、数百円の酒代にチェーン店のごはんを奢るくらいで、多くの子たちは感謝してくれます。男性側からしたら、こんなに“美味しい”場所はなかったわけです。

 だから、トー横周りには半グレやタチの悪い奴らが集まるようになったし、それが周囲の治安にも関わってきた。ある意味では彼女たちは被害者で、物事の判別がつかない子たちが狙われ、大人に利用されてきたわけです。そういった意味でも、トー横という場所と名前が生まれ、世間からついたイメージの功罪は甘い蜜を吸ってきた大人たちにある。

だから、この場所が消えゆきそうな現状に少しホッとしています」

 もはや、歌舞伎町の周辺では、トー横という言葉は死語となりつつある。そして、場所を変えて、また新たな“トー横”が生まれていくのだろう。

(文=編集部)

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