新型コロナウイルスの蔓延により、この2年は世の中が大幅な変化を余儀なくされた。中でもエンタメビジネスは大きなダメージを受けたが、例外となったのは公営ギャンブル市場。
顕著だったのが競輪だ。一時は各地で開催中止を余儀なくされ、ネット投票のやり方がわからない年配の競輪ファンなどは車券購入ができず、売り上げも大幅に落ち込んだが、レースのライブ映像配信とアプリ投票が同時に行える民間サービスの「WinTicket」や「TIPSTAR」の登場など、ステイホームを逆手に取ったことで、2020年度の競輪車券売上額は7499億円(前年度比13.6%増)と、最終的には11年ぶりに7000億円台にまで回復した。
さらに、2021年も千葉競輪場で1周250mのトラックを使用したエンタメ性の高いレース「PIST6(250ケイリン)」を導入するなど、新規ファン獲得に向けた努力も行っている。
そんな競輪をコロナ禍前から熱烈に応援していたのが、ミス東スポ2016グランプリ受賞などの経歴で知られるグラビアアイドルの桜井奈津である。
解説者顔負けの豊富な競輪の知識を武器に各イベント等で活躍していたが、2018年7月よりFMみしま・かんなみボイスキューで放送しているラジオ番組『桜井奈津とおにおにのロングライド』の100回記念で販売したフォトブックとマスクの収益を「福祉事業に役立てていただくため」と三島市役所福祉課へ全額寄付した。
およそ30万円にも及ぶ高額な寄付について「私が大好きな競輪に対し、何か恩返しがしたかった」という彼女だが、果たしてその真意とは?
運命を変えたミス東スポ2016グランプリ「今でこそ『競輪タレント』として活動させてもらっていますが、実はデビュー当時は競輪どころか、公営ギャンブルは何ひとつやったことがなかったんですよ」
競輪との出会いについて聞くと、意外な答えが返ってきた。グラビアアイドルとしては遅咲きとなる26歳でデビューした桜井。DVD作品も数本撮影されるなど順風満帆なスタートにも思われたが、一方で目標や肩書きのない自分に不安を覚えていたという。
そんな彼女を変えたのが、ミス東スポ2016のオーディション。グランプリ受賞後にサテライト大阪で行われた予想イベントが、飛躍の第一歩となった。
「とにかく、ベストを尽くそうと精一杯の勉強をしていきました。
「競馬や競艇と比べると少し複雑でとっつきづらい部分があるかもしれないけれど、覚えていくとパズルを解くような感覚で、難しければ難しいほど解けたときの気持ちよさがあり、ハマっていく」というように、それからの彼女は競輪の知識をひたすら詰め込んでいった。
もともと知的好奇心が強く、いわゆるオタク気質なところも相まって、全国にある43の競輪場を制覇。日頃のたゆまぬ努力の結果、気が付けば彼女はグラドル界随一の競輪マニアに成長した。各競輪場でのイベントMCはもちろん、玄人もうなる予想トークなどを披露し、競輪ファンの間で「桜井奈津」の存在が認知されるようになっていった。
競輪に特化したラジオ番組が人気を博す今や競輪界のアイドルとなった桜井だが、今回の寄付のきっかけとなったのは、2018年に静岡競輪場でグランプリが行われたことだ。地元のラジオ局であるFMみしま・かんなみボイスキューは、2018年7月から新番組『桜井奈津とおにおにのロングライド』の放送を開始した。
「今回の寄付のきっかけとなった出来事のひとつに、2018年に静岡競輪場で初めて『KEIRINグランプリ』が開催されることになり、そのアンバサダーに就任したことがあります。各地で競輪とKEIRINグランプリのPR活動を行っていくのですが、その中で、新しく自転車バラエティのラジオ番組をスタートするということで選ばれ、声をかけてもらって……」
競輪選手を育成する学校が県内にあるなど、静岡県は自転車競技と密接につながりを持つ。それだけに競輪選手たちの明るいキャラクターを伝える番組は好評を博し、気が付けば1年、また1年と放送は続き、2021年で3年目に突入。放送回数も節目の100回を数えるようになった。
「もともと、この番組は『スポーツとしての競輪の魅力』を伝えたいという思いから始まったもので、レースだけではなくて、選手や自転車に関わる人々それぞれのキャラクターなどパーソナルな部分を発信して、興味を持ってもらうことを考えてきましたが、何か社会に貢献できないかな、と考えた結果が今回のチャリティーだったんです」
グラビアアイドルとしての自身の活動の集大成ともいえる写真集と番組特製のオリジナルマスクの収益30万円以上を「福祉事業の発展のため」にと三島市役所福祉課へ全額寄付し、贈呈式では感謝の言葉とともに、自転車との関連が深い静岡で幅広い年齢層の方に健康にも役立ててもらえれば、とエールをもらったという。
「私にとって競輪は大好きなものでもありますが、それ以上に私の人生においてかけがえのない存在。だからこそ、これまでのグラビア活動の中で私を知ってくださり、今回もフォトブックを買っていただいたりと支えてくれるファンのみなさまと、私自身がそのひとりである競輪ファンとしてのつながり、そのご縁を生かして、今回の企画ができ、寄付することができたと思います。これからも恩返しのために、何かできることを探していきたい。これからもこうした活動を続け、競輪文化の発展に貢献していきたいです」
民間サービスの充実ぶりに加え、彼女のような現場の熱い支援が加われば、競輪にさらなる注目が集まることだろう。
(文=福嶌弘/フリーライター)