岸田文雄首相が2月11日、内視鏡による慢性副鼻腔(びくう)炎の日帰り手術を受けたことが報じられた。全身麻酔をして3時間40分ほどの手術は成功に終わり、術後の経過も順調だという。

13日から通常通り首相官邸での執務に戻っている。

 副鼻腔炎の患者は日本に100万人から200万人いるといわれ、 そのうち慢性副鼻腔炎に悩む患者は20万人ほどとみられる。副鼻腔炎・慢性副鼻腔炎とはどのような疾患であるか、医療法人紫生会たま耳鼻咽喉科理事長の及川貴生医師に話を聞いた。

 一般に「副鼻腔」と聞いて、どの部分を指すかピンと来る人は少ないだろう。なかには、自分が副鼻腔炎でありながら、気づかずに過ごし、悪化するケースも少なくない。

「鼻は、鼻腔と副鼻腔という2つの空洞で構成されています。鼻腔は顔のほぼ正面、中央にあり、副鼻腔は上顎洞(じょうがくどう)・篩骨洞(しこつどう)・前頭洞(ぜんとうどう)・蝶形骨洞(ちょうけういこつどう)という4つの空洞のことで、鼻腔を取り囲むように位置しています。副鼻腔に炎症が起きると、鼻水や鼻づまり、後鼻漏と呼ばれる鼻水がのどに垂れる症状が起きます。炎症が長引くと、においがわかりにくくなったり、頭痛などの症状が出ることもあります」(及川医師)

 副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎ともに症状は同じだが、発症から4週間以内が急性副鼻腔炎、3カ月以上持続する場合が慢性副鼻腔炎と定義されている。慢性副鼻腔炎になると、鼻の症状から全身への影響もあるという。

「慢性的な症状が3カ月以上続くと、嗅覚低下による味覚異常や頭痛、倦怠感などが起き、仕事や勉強に集中できないなど、生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、重大な合併症を引き起こす場合があります。視力障害や脳まで炎症が及び髄膜炎などを引き起こし、重篤な症状を引き起こすことがあります」(同)

 慢性副鼻腔炎の治療は、どのように進められるのか。

「必要に応じてファイバースコープやレントゲン、CTなどの検査を行い、慢性副鼻腔炎と診断された場合、抗生物質による治療を行います。慢性副鼻腔炎の治療では、抗生物質を2~3カ月程度の長期内服しますが、思うような効果がない場合には手術を検討します。また、慢性副鼻腔炎の方のなかには、鼻茸(鼻ポリープ)がある場合や、鼻中隔湾曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)という鼻の穴を左右に隔てている壁を鼻中隔が強く曲がっている場合には、手術が適応となります」(同)

 鼻中隔湾曲症があると、鼻づまりやいびき、嗅覚障害といった症状が慢性的に現れ、慢性副鼻腔炎がより重症化する傾向にあるという。

「最近では、慢性副鼻腔炎の手術は、局所麻酔で内視鏡を用い行うのが一般的です。副鼻腔の近くには、眼球が収まる眼窩や頭蓋骨の中心で脳を支えている頭蓋底があるため、それらを傷つけないように慎重に手術を行います。鼻中隔湾曲症の手術が必要な場合は、鼻の入り口部分の外から見えないところを切開し、軟骨、骨の一部を除去します。慢性副鼻腔炎の手術と同時に行うことが可能です」(同)

 一般的に局所麻酔で行うことが多い手術だが、岸田首相は全身麻酔で受けている。その理由はいくつか考察できるという。

「首相が全身麻酔を選択した理由は、炎症の程度により4つの副鼻腔炎をいくつ、どこまで開放するのかによって手術時間が異なることから考えると、手術時間が3時間を超えていることから、おそらく汎副鼻腔炎開放術(4つの空洞を全部開放し、1つの空洞にして鼻と通じさせる形成手術)であり、全身麻酔が選択されたのだと思います。手術時間が2時間以内だと局所麻酔が選択させることも多いです。また、手術中の会話等が患者に聞こえてしまうので、専門医育成医療機関だと若手を育成するために統一して全身麻酔を施す施設もあります」(同)

 多くの場合、手術によって症状が改善するが、時間の経過とともに再発するケースもある。術後も定期的な検診などで経過を見ていくことが重要である。

「手術をして終わりではなく、術後の治療も大切ですので、信頼できる医師の下で手術を行い、術後も定期的な検診などで経過を見ていくことが重要だと思います。適切な治療を行えば改善し、QOLが向上することは間違いありませんので、鼻水や鼻詰まりが長期続くという人は、近くの耳鼻咽喉科を受診してみることをお勧めします」(同)

 慢性副鼻腔炎の手術を行ったことで岸田首相は、より一層、公務に集中できるだろう。山積みになった国内外の問題を解決してくれることを期待したい。

(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

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