オリックスは、小規模事業者向け会計ソフト大手、弥生を買収した。オリックスは弥生の親会社であるアジア系投資会社MBKパートナーズから弥生の株式99.9%を取得した。

買収金額は既存の借り入れ返済分を含めて総額800億円超だが、売る側、買う側のそれぞれに思惑がある。

 オリックスは弥生に対し3年越しでラブコールを送っていた。2011年にMBKへ弥生買収を申し入れたが、MBKと条件が折り合わず、物別れに終わった。ところが昨年夏、MBK側から「興味がまだありますか」とオリックスへアプローチがあり、その後はとんとん拍子で売買交渉がまとまった。

 オリックスが弥生の買収に執着したのは、弥生の擁する125万社の顧客基盤に関心があるからだ。弥生は会計ソフト「弥生会計」や確定申告ソフト「やよいの青色申告」などの業務ソフト開発会社である。主力商品の「弥生会計」は小規模事業者向け会計ソフトで7割を超すシェアを持つ。このソフトを使ったことのない中小企業の経理担当者はまずいないといわれるほど、中小企業に深く入り込んでいる。

 オリックスはリースをはじめとして銀行や保険など幅広い事業を手掛けているが、顧客は大企業や中堅企業が中心で、小規模事業者には食い込めていない。弥生を買収したのは、顧客基盤を小規模事業者に広げるのが狙いだ。オリックスは弥生の顧客向けにオフィス用品などの一括購入を働きかけ、小規模事業者は仕入れ費用を抑えることができる。双方、一両得の関係が期待できるのだ。


●激変する会計ソフト市場

 MBKが弥生売却に方針転換したのは、ここ数年で会計ソフト業界の環境が一変したからだ。弥生は会計ソフトをパソコンに組み込むためのDVDの販売を主力としてきた。しかし、近年はインターネット経由で高度なサービスが得られるクラウド化へと会計ソフトの主戦場は移った。

 ITベンチャー企業がネットを活用した会計ソフトに参入し、弥生のシェアを奪っていった。「弥生会計」の主力販売網は家電量販店だったが、量販店は製品の品揃えをネット対応商品に置き換えていった。そのためDVD販売コーナーは縮小され、弥生は従来のDVD中心のビジネスモデルからの変革を迫られていたが、これは投資会社であるMBKには手に余る事態だ。昨年4月の消費増税で企業の会計システムが変更されたことにより、会計ソフトの特需が発生。弥生の14年9月期の売上高は162億円と過去最高を記録。MBKは売り時と判断した。

 弥生のメリットは大きい。資金力のあるオリックスグループに入ることによって、懸案だったクラウド化を加速させ、個人・小規模事業者向け総合サービスベンダーに変身することができる。

●有為転変の歴史

 弥生の歴史は、株主が目まぐるしく変わる有為転変の歴史といえる。
前身は1978年設立の日本オールシステムズ(後の日本マイコン)。97年、経営統合で米会計ソフト、インテュイットの日本法人となる。そして03年2月には、企業買収ファンド、アドバンテッジパートナーズと組んで経営陣による企業買収(MBO)で独立、社名を弥生と変更。社長は平松庚三氏だった。

 そして04年11月、旧ライブドアが弥生を買収。弥生の筆頭株主(出資比率95%)のアドバンテッジパートナーズと他の株主から弥生の全株式を買い取った。買収金額は230億円だった。

 06年1月、そのライブドアの堀江貴文社長が逮捕され、窮地に陥ったライブドアは平松氏を社長に招聘した。平松氏の年の功を買ったのである。07年8月、ライブドアから商号変更したライブドアホールディングスは、100%子会社の弥生を投資ファンドのMBKに710億円で売却。ライブドアの弥生買収金額は230億円だったため、単純計算で480億円の利益を得た計算になる。そしてMBKは今回、弥生をオリックスに800億円超で売却した。


 かつて弥生の親会社だったインテュイット、アドバンテッジパートナーズ、ライブドア、MBKは、弥生の転売でリターンを得た。弥生は色褪せない企業価値を、ずっと持ち続けてきたということなのだろう。

 オリックスの傘下に入り、弥生の有為転変の歴史は、ようやく終止符を打つことになりそうだ。
(文=編集部)

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