「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で、特定の者またはその者と親密な関係を有する者に対して行われる一定の類型の行為を規制対象とする法律――これは、なんという法律だろうか?
正解は「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(以下、ストーカー規制法)。同法は2000年11月に施行され、13年6月に改正が行われたが、まだまだストーカー行為の規制に対する不備などもあり、警察庁は法改正に向けた検討を進めている。
ストーカー行為は年々増加している。13年までの統計では、警察がストーカー事案と認知した件数は13年に2万1089件とついに2万件を突破し、ストーカー規制法施行後最多となった。また、同年のストーカー規制法違反による検挙件数は、前年より51件(14.5%)増加して402件、ストーカー規制法の適用は警告が168件(7.4%)増加して2452件、禁止命令等が34件(49.3%)増加して103件と、いずれも法施行後最多となっている。
被害者の性別で見た場合、男性の2036件(9.7%)に対して、女性は1万9053件(90.3%)と圧倒的に多い。しかし、意外なことに行為者を見ると、男性の1万8316人(86.9%)に対して女性も2145人(10.2%)と行為者の1割超が女性となっている。
被害者の年齢では、20代が7180件(34.8%)、30代5674件(27.5%)の順となっているが、次は意外にも40代の3755件(18.2%)で10代の1941件(9.4%)を大きく上回っている。一方、行為者は30代5377件(25.5%)、40代4467件(21.2%)、20代4057件(19.2%)の順となっている。大雑把に言えば20代女性の被害が多く、30代男性の行為者が多いという構図になる。
ストーカー被害者と行為者の関係性では、交際相手(元を含む)が1万933件(51.8%)と飛び抜けて多く、次いで知人友人2432件(11.5%)、勤務先同僚・職場関係者2091件(9.9%)、配偶者(元・内縁を含む)1923件(9.1%)の順となっている。
では、実際にどのようなストーカー行為が行われたのかを見ると、ストーカー規制法に定義されている1号「つきまとい・待ち伏せ等」1万854件(51.5%)と3号「面会・交際の要求」1万1034件(52.3%)が圧倒的に多い(複数に該当する事案はそれぞれに計上)。それに続くのは、5号「無言電話・連続電話」6554件(31.1%)、4号「乱暴な言動」4556件(21.6%)となっている。
●抜け穴だらけの法改正
ストーカー事案が増加の一途をたどっていることから、13年6月に連続して電子メールを送信する行為が規制対象に追加されるなどの改正が行われたが、同年10月には東京都三鷹市で女子高生がインターネットで知り合った男性に殺されるといった事件も起きた。
連続して電子メールを送信する行為は1号の「つきまとい等」に追加されたものの、この規定は電子メールのみを対象としており、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などによるメッセージ送信は規制の対象外となっている。また、現行法では相手の住居付近を「見張り」、または住居へ「押しかける」ことは規制されているが、相手の住居付近を「徘徊」するような行為は規制対象となっていない。
さらに、マンションの住人間や隣家同士のトラブル、職場でのトラブルなどによる押しかけや無言電話といったストーカー行為は、ストーカー規制法が「恋愛感情などの充足を目的として行われる一定の行為」を対象としているため、規制対象外となっている。
また、ストーカー規制法の刑罰は6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金と、他の刑法犯(例えば、住居侵入罪は3年以下の懲役または10万円以下の罰金、脅迫罪は2年以下の懲役または30万円以下の罰金など)と比べて懲役期間が短いため、有罪となっても再犯の恐れがある。
警察庁ではストーカー行為の範囲の拡大や罰則の強化などについて検討を進めているが、目まぐるしく変化するネット社会や犯罪態様に適応し、ストーカー行為を有効に規制する手立てはみつかるのだろうか。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)