3月4日付しんぶん赤旗の記事によると、また日本アイ・ビー・エム(IBM)がパワープレーでリストラを展開したようです。

【IBMの退職強要の録音データはこちら】(http://biz-journal.jp/2015/04/post_9720.html)

 今回は、日本企業のリストラの方法と対策について考えてみます。



 従業員に辞めてもらう意味でのリストラには2種類あり、筆者はそれぞれ「見えるリストラ」「見えないリストラ」と呼んでいます。

 まず、見えるリストラとは、会社が辞めてほしい人を選んで「お前はクビだ」と宣告して解雇するもので、誰が見ても「リストラをやっているな」と、はっきりわかるタイプです。会社が対象者を好きに選べて単刀直入にクビにできるわけですから、とてもシンプルです。しかしシンプルな分、これを実施するにはとても厳しい条件が課せられます。

 見えるリストラが難しい場合、一般的に会社はどのように雇用調整するのでしょうか。見えるリストラができない以上、当然ながら水面下でひっそり行われることになります。「クビだ」と通告せず、対象者も絞らずに行われるリストラであり、それこそが「見えないリストラ」なるものです。

●「見えないリストラ」の手法

 以下に、一般的な「見えないリストラ」のプロセスを以下に記します。

1.必要なコストカット額から退職させる従業員の人数と割増退職金などの条件を詰め、早期退職の募集をかける

 ただし、これだけだと当然ながら「できる社員」が待っていましたとばかりに割増退職金を手にしてライバル社に転職するリスクがあります。一方で、辞めてほしい社員ほど、がんばってしがみつこうとするでしょう。従って、同時並行で以下の工程を進めているはずです。

2.早期退職対象者の選別を行い、辞めさせてはいけない社員、どちらでもいい社員、辞めさせるべき社員に分類する

 誰が決めるのかは会社により異なりますが、筆者の知る限り、事業部門側で決定しているケースが多いようです。
やはり誰がどれだけ貢献しているかは、現場で見ていなければわかりませんから、マネージャーなどの監督的立場にある人が選別することになるでしょう。とはいえ、管理部門も恐らく最終チェックというかたちで関与し、勤怠に問題のあるような社員はこの機に退職させようとするはずです。

3.意思確認のための面談をし、選別結果に基づいて誘導する

「今後の進路について意思確認をしたい」という名目で、対象者(これは全員の時もあれば、残したい人、辞めさせたい人に限定する場合もあります)に管理職が面談を行います。そこで、例えば会社としては絶対に残ってほしい人が早期退職への応募を検討しているとわかれば、全力で慰留します。

「うちとしては、君にはぜひ幹部候補として残ってほしいと考えている。異動や勤務地などで希望があるなら、この機会にぜひ教えてほしい」などと、至れり尽くせりの慰留が始まるわけです。

 一方、会社が「辞めてほしい」と思っている人の場合、こうはいきません。自分がどちらかは、面談が始まるとすぐにわかるはずです。「引き続き、会社でがんばりたい」などと発言した場合に、あの手この手で翻意させようと躍起になるに違いないでしょう。だいたい、以下のようなセリフが聞かれるものです。

「引き続きがんばるって言っても、今までがんばっていないではないか」
「正直言うと、これから待遇が厳しくなるよ」
「長い目で見たら、これだけ割増退職金がもらえるのだから、今が辞めるチャンスだ」

 ここで重要なのは、間違っても「辞めろ」「早期退職しないとクビだ」などとは言わないということです。そのようなことを言えば「見えるリストラ」となり、不当解雇などを理由に訴えられると負ける可能性が高くなります。
したがって、ストライクゾーンギリギリの変化球で空振りを誘うような球を延々と投げ続けるわけです。この意味で、はっきりと「解雇」と発言しているIBMの管理職は雑です。

 こういう微妙なさじ加減のいる面談は、事業部の管理職ではなかなか難しいので、たいてい人事部の管理職が同席します。面談の場に人事部の管理職がいたら、「相当きついことを言ってくる」と覚悟しなければならないでしょう。

●個人の防御法を考える

 先日、ある人事コンサルティング会社の「退職勧奨マニュアル」なるものがインターネット上に拡散されていました。パターンから察するに、辞めさせるべき従業員、あるいはどちらでもいい従業員をいかに退職へと誘導するか、という手引書だと思われます。

 この手引書には、誘導面談における攻め口の基本がわかりやすくまとめられており、「怒るにせよ泣くにせよ、感情を出してくる相手は誘導しやすいが、理詰めで話をする相手はとても誘導しにくい」と記されています。

 仮にこうした退職勧奨面談に呼ばれてしまった際には、とにかく理詰めで辞める意思がない旨を伝えつつ、自分が対象に選ばれた経緯を執拗に問うことで、とりあえずその場はしのげるでしょう。「早期退職させるかどうか、どちらでもいい社員」として面談に呼ばれていたとすれば、これだけでうまく切り抜けられるかもしれません。

 しかし、もし「辞めさせるべき社員」としてリストアップされているのだとすれば、こうした抵抗も一時しのぎにすぎないはずです。人事側は恐らく何度も面談に呼び出すでしょうし、それでも退職に同意しなければ「人材開発」などと称する転職訓練を施すための部署に異動させて飼い殺し状態にするでしょう。

 よく会社のリストラに対して「法的には無理やり解雇することはできないのだから、無理をしてでもしがみつけ」といった処方箋を述べる人がいます。
しかし、業績悪化でリストラせねばならなくなった会社にプライドも何も捨ててしがみつくことが、長い目で見て幸せかと考えると、大いに疑問があります。
(文=城繁幸/人事コンサルタント)

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