北大路欣也と樋口可南子の知られざる“過去”?

 テレビCMは見る人を瞬時にして笑わせたり、泣かせたり、考えさせたりする映像エンターテインメントだ。しかも、その時どきの世相、流行、社会現象、そして人間の心理などをどこかに反映させている。いわば時代のアンテナのようなものであり、世の中を垣間見せてくれる窓であり、時には社会批評でもある。

 今回は、今年1~5月までに放送された面白CMの中から、注目作を選んでみた。そこにはどんな風景が映っているだろうか。

●TOTO・ネオレスト『菌の親子』篇

 インターネット社会を痛烈に批判した『ネット・バカ』(青土社)の著者ニコラス・G・カー。その近作が『オートメーション・バカ』(同)である。飛行機から医療まで、社会のあらゆる部分が「自動化」された現在、利便性に慣れるあまり、それなしでは生きられない事態に陥っているのではないかと警告する。カーの言い分もわかるが、こと温水洗浄トイレに関しては譲れない。悩める人々に福音をもたらした世紀の発明品だと思っている。

 1982年に登場した、戸川純の「おしりだって、洗ってほしい。」というTOTOのCMは衝撃的だった。コピーは巨匠・仲畑貴志だ。

 トイレはその後も進化を続け、新製品では見えない汚れや菌を分解・除菌し、その発生さえ抑制するという。これではトイレに生息する“菌の親子”、ビッグベンとリトルベンもたまったものではない。

 本CMでは除菌水の威力を見た息子菌(寺田心)がつぶやく、「悲しくなるほど清潔だね」のせりふが泣けてくる。ごめんね、リトルベン。

●ソフトバンクモバイル『白戸家 お父さん回想する』篇

 映画『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』を、東京・有楽町の日劇で見たのは全米公開翌年の78年のことだ。

 それから約20年後につくられたのが『エピソード1/ファントム・メナス』である。のちにダース・ベイダーとなるアナキン・スカイウォーカーの少年時代を描いた、後日談ならぬ衝撃の“前日談”だった。

 このソフトバンクのCMで驚いたのは、お父さん(声・北大路欣也)とお母さん(樋口可南子)が高校の同級生だったこと。また、当時の2人の“見た目”は、染谷将太と広瀬すずだったことだ。

 特に今年の目玉、超新星アイドルである広瀬の起用はお見事というしかない。間もなく公開される映画『海街diary』(是枝裕和監督)も期待大だ。

 また、染谷が上戸彩にそっくりな保健室の先生(上戸の二役)にトキメクのも、後年のお父さんを彷彿とさせて苦笑いしてしまう。

 今後、染谷と広瀬、二人の高校時代を舞台に、回想の枠を超えた前日談の物語が、延々と展開されてもおかしくない。いや、ぜひ見てみたいものだ。

●ワイモバイル『ふてネコ お風呂で鼻歌』篇

 猫は気まぐれだ。素直に人の言うことをきかない。時には人間より偉そうに見える。ちょっとコシャクな存在だ。

 このCMもそうだ。湯船につかりながらの鼻歌。小坂明子の名曲『あなた』の替え歌だが、「家を建てたニャら~、光とスマホを~」と宣伝も忘れない。
 
 またカフェ編ではカウンターに肘をつき、「ワイモバイルのスマホでにゃんにゃん言ってみませんか」などとハードボイルド風につぶやいたりする。

 約30年前、「なめんなよ」で大ヒットした“なめ猫”がいた。しかし、その暴走族風の学ランなどは、どこか「人間に着せられちゃいました」という印象が強い。

 その点、この“ふてネコ”は自然体だ。誰にも縛られず、また、媚びない態度が気持ちいい。自らの哲学と価値観に生きる一匹オオカミ、いや一匹ネコのようではないか。

 ちなみに、なめ猫の声はスタッフだという。声質もトーンも猫のふてくされぶりにぴったりで、まさに演技賞ものである。

●カルピス・カルピスウォーター『海の近くで 初夏』篇

 若手女優にとって、“登龍門”と呼ぶべきCMがある。

 宮沢りえや蒼井優などを輩出した「三井のリハウス」(三井不動産リアルティ)。橋本愛や二階堂ふみが起用された「東京ガス」。堀北真希、北乃きいが光った「シーブリーズ」(資生堂)。そして長澤まさみ、能年玲奈などが話題を呼んだ「カルピスウォーター」だ。

 今回、第12代目キャラクターとして登場したのは黒島結菜(ゆいな)。『アオイホノオ』(テレビ東京系)、『ごめんね青春!』(TBS系)といった連続テレビドラマで注目された短髪美少女である。

 特に『ごめんね青春!』で演じた生徒会長役が印象に残る。自分が転校することを仲間に隠しながら、文化祭の準備に没頭する姿がなんともいじらしかった。

 このCMの舞台は桟橋だ。カルピスウォーターを飲んだ後、黒島は隣に座った男の子に「何見てんの?」と、いたずらっぽい笑顔を向ける。

 そんなこと言われたって困る。こんな少女がいたら誰だって見ちゃうだろう。そして、この日の風景を一生忘れない。それが青春。
(文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授)

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