街を歩いていると、そこかしこに黄色い背景に「Times24h」という黒字の看板があることに気づく。パーク24が運営している時間貸し駐車場だ。
1991年にスタートした同事業は、「失われた10年」といわれた時代や2008年のリーマン・ショックさえも乗り越え、右肩上がりの成長を続けている。今や、全国におよそ1万4800カ所もの直営駐車場を展開している(15年5月末時点)。もちろん業界トップだ。新たな駐車場開拓は、340人の営業マンたちが日々足を使って土地を探し、地主と交渉して行っている。
その一見地味なビジネスの裏に、TONICと呼ぶパーク24独自の情報収集・分析システムが活躍している。全国の駐車場をネットワークで結んでリアルタイムでデータを収集して経営指標を把握、その指標を経営に生かしている。
●稼働率をどう定義するか?
パーク24の駐車場事業は04年1月、創業者の西川清氏から39歳の若さで二代目社長に就任した西川光一氏に引き継がれた。TONICを提案し、開発の陣頭指揮をとったのが光一氏だ。社長に就任した当時およそ4500カ所あった駐車場を、就任後11年間で新たに1万カ所以上も増やしたことになる。TONICによって収集したデータを上手に活用したことが成長の原動力だ。
時間貸し駐車場事業で鍵となるのが、各駐車場の稼働率データである。
さて、ここで問題となるのが、稼働率の定義をどうするかだ。すぐに思いつくのは、自動車が一日のうち何時間駐車されていたか、駐車場の占有率を計算するものだろう。分母を24時間とし、実際に駐車されている時間を分子に取る。その数字をパーキングロットごとに把握し、次に全パーキングロットの平均値を駐車場全体の稼働率として定義するというものだ。
しかし、パーク24が用いている稼働率は少し違っている。単位が時間ではなく、金額なのだ。つまり、稼働率を次のように定義している。
・稼働率=実際の売上高÷すべて埋まった場合の売上高
稼働率の定義に料金が組み込まれているところがミソである。これは、次の目標値とも関係してくる。
●稼働率の目標値は?
もうひとつの鍵は、そうして定義した稼働率の最適値を明らかにすることだ。素人考えでは、稼働率は高ければ高いほど望ましく100%を達成することが理想的に思える。
ところが、パーク24が最適としている稼働率は47~48%という。目標値としては意外なほど低いように思える。また、その範囲はわずか1%と狭い。これより高すぎても低すぎてもいけないという。
稼働率の目標を低めに抑えるのには理由がある。駐車場を満車にせず、必ず1~2台空くようにしているのだ。駐車場が満車なのは短期的にはよいかもしれないが、いつ来ても満車だと、やがて客離れを起こしてしまう。「タイムズの駐車場はいつ行っても停められる」とすることが、長期的に成功する秘訣だ。
稼働率が目標とする範囲から外れた場合、最適範囲内に収まるよう工夫する。たとえば最適値よりも低い場合、パーキングロット数を減らし駐車しやすいようにレイアウトを変更することで、狭くて駐車しにくそうだと敬遠していた初心者でも停めやすくする。逆に稼働率が高ければ、そこに需要があることを意味するため、営業マンたちが新たな駐車場を開拓する。ニーズのあるところに駐車場をつくれば外れがない。
●データを活用するためには
データ活用の秘訣は、目的を持ってデータを収集し、経営指標として日々のオペレーションに生かすことだ。とにかくあらゆるデータを収集しようとすると、とんでもないことになる。何も考えずにビッグデータを活用しようとしても振り回されるだけだ。
パーク24の経営でも、稼働率という経営指標の定義とその生かし方が鍵であった。闇雲にデータを集めるのではなく、どういう目的でどのようなデータを収集し、それをどうビジネスに生かすか、そこを明確にすることだ。情報システムの開発も人任せではいけない。自分たちで苦労して開発してこそデータを生かせるし、他社との差別化も可能となるのだ。
パーク24は、TONICによって収集したデータで稼働率を把握し、その指標を基に駐車場の開拓や料金設定を行っている。近くにある駐車場でも微妙に料金が違っているのは、こうした指標に基づいているからだ。
利用者にとっても企業にとっても、収集したデータがまさに機能している。パーク24は、スモールデータを経営に生かしている先進的企業といえよう。
(文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営専攻>教授)
※参考資料 『タイムズパーキング革命2』(鶴蒔靖夫/IN通信社)