日々の生活の上で欠かせないアイテムであるシャーペンやボールペンなどの文房具。ロフトや東急ハンズなどの文具品売り場では、学生やただ文具品を見ているのが好きな人、仕事で使う手帳に合うペンを探しに来た人など多くの人で賑わっている。
文房具売り場では、「おっ?」と客の目を引くキャッチコピーが大きく掲げられ、ユーザーの盲点をつき潜在ニーズをくすぐる商品が多く陳列されている。ほかにも、自分で色を選べる多色ボールペンが置かれていて、自分の使いやすいように文房具をカスタマイズしている人も多い。また、消せるボールペンとして有名なフリクションや、インクがピンクだけで数種類も存在する激戦市場だ。
今回は最近流行りの文房具を、特に筆記具に焦点を当て数点紹介した後、その商品のヒットの正体を探ってみる。
シャープペンシルは、鉛筆に比べて細く潰れずに綺麗に書ける特徴がある。それに鉛筆と違い芯を削る手間やその削ったごみを捨てる手間もない。しかし、そんなメリットに対し、鉛筆より格段に芯が折れやすいというデメリットがあった。特に筆圧が強い人はボキボキ芯が折れるだろう。細くきれいに書けるのだから折れやすくなるのは仕方ない、と諦めるのではなく、その不満を解決し、デメリットをなくした商品が現れた。それが以下の2つである。
(1)DelGuard(デルガード)
「もう、折れない。」のキャッチコピーで知られているデルガード。文字を書く際に先端に負荷がかかり折れている、ということに注目し、シャーペンの先端が飛び出て芯をガードするように改良。
(2)orenz(オレンズ)
「芯を出さないで書く」「不思議なほど芯が折れない」のキャッチコピーで知られるオレンズ。芯が折れるならば芯を出さなければいいのではないか、という発想が商品になった。芯を出さずにどうやって書くんだ?と疑問に思い少し戸惑ったが、そんな戸惑いを予想してか、商品の裏だけでなく本体部分にもシールで取扱方法が書いてあった。
本体の構造は簡単にいうと、シャープペンシルの先が芯の消耗に合わせて上へスライドするかたちとなっている。芯に合わせて先端が動くため、芯が出ることがなく、それによって折れることもない。今までの「シャープペンシルは芯を出して書く」という常識を打ち破り大人気商品となっている。折れない上に、今までは0.5ミリ、0.3ミリのシャープペンシルが主流だったので、その細さも驚きである。
(3)フリクション
もう社会人や学生にはお馴染みであろうフリクション。ボールペンは消せないという常識を打ち破り登場した。カラフルなペンを好む女性や、参考書などに書き込みをし、覚えたものから消していくなど工夫をして勉強している学生や社会人に大ヒット。少しインクの色が薄いという意見がしばしば聞こえるが、その声を抑えてでも爆発的に売れている。もしインクの濃さが通常のボールペンと同じくらいになったならば、よりユーザーの潜在ニーズをとらえた商品へと変わるかもしれない。
フリクションはボールペンだけではなく蛍光ペンや色鉛筆、ひいてはスタンプまで「消せる」を売りにして商品を開発している。消せる筆ペン、なんて時代もくるかもしれない。年賀状を出すときに役に立ちそうである。
「消せるシリーズ」はほぼフリクションの独壇場かと思われるが、ほかにも消せるマッキーなどがトレンドとして東急ハンズで挙げられていた。
(4)鉛筆の蛍光マーカー
蛍光ペンは教科書などに引くときに裏写りしてしまうという弱点があるが、それを克服。蛍光マーカーと色鉛筆という異色のコラボを見せた商品。蛍光マーカーを引くとどうしても裏写りしてしまったり、紙がインクでふにゃふにゃになってしまっていた。企画書、教科書やノートの裏のページに写ってしまい見えにくくなってしまうのだ。
その2つの大きな弱点を、色鉛筆を蛍光色にすることによって乗り越えたのである。見事な発想の転換だ。さらに色鉛筆にすることによって、インク切れの心配も解消されたのである。これも不満の解消を試みた商品だといえる。
●大ヒットの正体とは
これらの文房具の共通点は、常識を覆しているという点である。
最初の芯が折れないシャープペンシル、デルガードは、鉛筆より細いのだから折れやすいに決まっている、という常識を覆したのだ。結果筆圧が強くよく芯が折れてイライラしていたであろうユーザーの「芯が折れないシャープペンシルが欲しい」という潜在ニーズ=不満を見事につかみ大ヒットしているのだ。
また同じく芯が折れないオレンズは、芯が折れないことに加えて0.2ミリと今まで主流であった0.3ミリを超える細さである。『東大合格生のノートはどうして美しいのか?』(太田あや/文藝春秋)といった本が売れていたり、ロジカルノートというマス目にさらに線が書いてあり図の大きさをそろえて書きやすいノートが売れているように、最近の学生は自分できれいなノート、いわば「自分だけの、自分特製参考書」をつくる傾向にある。そのために細くきれいな字が求められ、細いシャーペンが売れているのではないだろうか。
そしてフリクションも同様に、自分だけの資料や参考書をつくるため、上司や先生の言葉をメモする際に色を使い分けたいのだ。筆者の気持ちは赤、重要な指示語は緑、先生が「テストに出るよ」といった言葉は黄色のように。その際、消えないペンを使ってしまうとメモをとるスピードも落ちてしまうし、間違えた際に修正テープなどが必要となってしまう。消えるカラフルなペンが欲しいというユーザーの潜在ニーズに応えたのである。
かつて学生の頃、暗記用ノートをつくる時に、ピンクや黄色の字が消える赤シートを使った経験のある人は多いのではないだろうか。こうした背景が、フリクションが社会人世代にも受け入れられた理由としてあるのではないか。
ヒット商品を生むためには、常識にとらわれずに考え、思いついたことを最初から無理だと思わず、「文句や不満を解消するにはどうしたら良いか」「そのためにその難題をどのように克服したら実現できるか」を考え抜く必要がある。猛烈に難しく面倒な作業だが、やり切ろうという思いを実現する推進力こそが重要である。
実際、難題をクリアし多くの壁を突破してこの作業をやり切った上記商品は、ユーザーの潜在ニーズをしっかりとつかんだ。
特に文房具市場はユーザーの文句・不満の宝庫である。「おお、それそれ。欲しかった!」「そうきたか!」という商品がひしめきあっている。上記に挙げた商品以外にも、クリップや付箋などたくさんの工夫を凝らした商品が多い。
しかし、ヒット商品を生むためには、ただ適当に常識外れなことをやればいいわけではない。ユーザーのことを常に考え、文句・不満・潜在ニーズを探り、何度も社内で「無理」と言われても妥協せず、あきらめず、色々な壁をぶち破る力を出し切ったときにヒットにつながるのだ。壁に向かっていけば、大ヒット商品への道が開けるかもしれない。
(文=山本康博/ビジネス・バリュー・クリエイションズ代表取締役)