10月22日放送の『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)で、お笑いタレント・小籔千豊が一般人から無断で撮影されたことに怒りを表した。
小籔は海外から帰国時、空港で入国審査の列に並んでいる際に撮影音に気づき、その方向を見ると学生のグループがいたという。
このように、芸能人が一方的にスマートフォンやカメラを向けられる“被害”を申告する例は後を絶たない。さらに、最近は撮影された写真がフェイスブックやツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に掲載される例も多いようだ。
街中で見かけた芸能人を無断で撮影、さらにSNSに掲載することで法的責任に問われる可能性はあるのだろうか。弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP LPCの児玉政己弁護士は、次のように解説する。
「電車内など公共の場で芸能人を無断撮影する行為については、肖像権の侵害、SNSなどに投稿する場合はパブリシティ権の侵害として、不法行為責任が生じる可能性があります。
肖像権とは、判例上『自己の容貌等をみだりに撮影・公表されないという法律上保護されるべき人格的利益』と定義づけられています。簡単にいえば、『自分の姿を勝手に撮るな』と言える権利です。肖像権は、人間であれば誰もが有する『人格的利益』を根拠として認められるため、撮影対象者が一般人か芸能人かは関係ありません。
一方、肖像権と似て非なる権利として、パブリシティ権があります。これは、判例上『ある人物の氏名や肖像等(以下、肖像等)が有する<商業的価値(顧客吸引力)>を排他的に利用する権利』と定義づけられています。肖像権と同じく人の容貌等に生じる権利であり、人格権に由来する権利とはされているものの、その肖像等に『顧客吸引力』がなければ生じ得ない権利のため、撮影対象者が有名であればあるほど、認められやすくなる性質があります」
●無断撮影で損害賠償責任が生じる可能性も
芸能人の無断撮影には、肖像権とパブリシティ権という2つの権利が絡んでくるようだ。
「まず刑事責任ですが、刑法上、無断撮影を直接的に取り締まる規定はありません。駅や電車内など公共の場所で行われる場合は、各都道府県が定める条例(いわゆる『迷惑防止条例』など)によって処罰される可能性があります。
もっとも、多くの場合は罰則対象として『人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為』(東京都<公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例>第5条1項参照)であることが要求されています。この点、羞恥心を感じるであろう裸体などの撮影であれば別ですが、私服姿が撮影されることで著しい羞恥心や不安を覚えるとは、言い難いものです。そのため、単に無断で公共の場にいる芸能人を撮影したとしても、それだけで前述の条例違反に基づく罰則を科すのは難しいでしょう。
次に民事責任ですが、前述の肖像権を侵害する態様で撮影されれば、不法行為を根拠として損害賠償責任が生じる可能性があります。
もっとも、公共の場においては、一定の規制対象行為に該当しない範囲であれば、人が自由に活動できる権利も保障されています。このような相互の権利の衡量などの観点から、判例上、他人の容貌などの撮影行為が違法となるには、以下の事情を総合的に考慮する必要があります。
(1)撮影された人物の社会的地位や活動内容(撮影から保護されるべき要請があるかなど)
(2)撮影の場所(撮影対象者のプライベートが保護されるべき場所といえるかなど)
(3)撮影の目的(事件を伝える目的など、公共性があるかなど)
(4)撮影の態様(対象者の特定性の程度や、盗撮などの行為態様など)
(5)撮影の必要性(情報伝達をする上で撮影が不可欠といえるかなど)
これらを踏まえ、撮影によって生じる撮影対象者の人格的利益の侵害が社会生活上の受忍限度を超えるといえるかどうか、という観点から判断されます」(児玉弁護士)
●SNSへの掲載は?
また、SNSへの掲載については、肖像権の観点から以下のような問題があるという。
「興味本位でSNSなどの伝播性が強いツールに掲載する目的を持ち、撮影対象者を特定できる態様で撮影する場合には、前述の(3)や(5)の要素から、肖像権の侵害と判断される可能性が強まります。
もっとも、人々の耳目を集める芸能人の場合、有名であればあるほど、その行動が世間の興味を惹く上、職業上、“撮影慣れ”していると考えられることから、撮影からの保護要請は低くなると考えられます。
さらに、撮影された場所が一般的には行動の自由が保障されるべき公共の場所であり、撮影態様も、無許可とはいえ盗撮などの不当な態様ではなく、所持する携帯電話のカメラ機能などにより通常の方法で撮影される場合には、前述の(2)(4)の観点からしても、違法性を否定する方向に考えられます。
よって、公共の場で芸能人を通常の方法で撮影、さらにSNSなどに掲載しても、撮影対象者の『社会生活上の受忍限度』を超えたとはいえないとして、肖像権侵害に基づく不法行為責任を追及できない可能性があります」(児玉弁護士)
パブリシティ権の侵害についても、ほかの権利との衡量などの観点から、以下の利用に当てはまる場合のみ、不法行為にあたる可能性があるという。
(1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
(2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、
(3)肖像等を商品等の広告として使用する等、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合
「SNSなどに掲載する目的がなく、単に芸能人を撮影する行為は、たとえ無断であっても、パブリシティ権侵害としての不法行為責任を問うことはできないと考えられます。
しかし、撮影した芸能人の写真をSNSに掲載する場合、それによってアクセスを集める目的があることは間違いなく、最近ではアクセス数に応じて投稿者に利益が還元されるような仕組みもあります。そのような投稿においては、写真の芸能人の顧客吸引力を利用する目的がある、と認められる可能性があります」(同)
「芸能人の無断撮影」という行為には、異なる性質を持つ複数の権利が複雑に関係してくるようだ。法的責任だけでなく、撮影対象者の心情を考えても、軽はずみな撮影は慎んだほうがいいだろう。
(文=編集部、協力=児玉政己/弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP LPC弁護士)