本連載前回記事『「こんな夫と結婚しなければよかった…」 妻が夫に幻滅するダントツの原因はこれだ!』では、「結婚」と「恋愛」は別物で、むしろ「混ぜるなキケン」であると述べた。
結婚後、男性は育児や家事への参加を求められ、女性はできるだけ働くことを望まれる「共働き、イクメン」が標準化しつつある昨今。
また、旧態依然とした国の制度や概念に焦れて、すでに前のめりな女性たちは極端な方向へと向かい始めている。
「夫は要らない。子どもだけが欲しい」――こんな声を、もう何人から聞いただろう。
たとえば、フリーランスでデザイナーをしているキョウコ(37歳)のケース。2つ年下の後輩と5年以上も半同棲中。いつまで待っても彼のほうから「結婚」を言いだす気配はない。時々、わざとテーブルに結婚情報誌「ゼクシィ」(リクルート)を置いて“結婚プレッシャー”をかけてきたが、彼は見て見ぬフリをする。そこで半年前、キョウコは思い切ってこう言った。
「もうあなたに結婚は期待しない。子づくりだけ協力してくれればいいから」
そう、彼女は経済的にもある程度、安定していたがゆえに「子どもと2人で生きていく」と決意したのだ。初めは「え?」と戸惑った彼。
当初は、キョウコの女友達も「やめなよ」「もしこの先、働けなくなったらどうするの?」などと猛反対した。だが、キョウコは考えを曲げなかった。
そして今、妊娠5カ月になった。少しずつ大きくなるお腹をなでながら、彼女は言う。
「もともと、結婚に憧れはなかった。でも子どもだけは欲しかった。今はとっても幸せ。でもこれで、仕事からは一生逃げられないですね(笑)」
一方、実家の老舗和菓子店を継いだフタバ(28歳)は、小学生の息子を見ながら、こう振り返る。
「結果的に、パパ(夫)は精子バンクみたいな存在だったのかな」
フタバは大学3年生の時に妊娠した。相手は、当時付き合っていた1歳上の先輩で、今の夫だ。その時すでに中堅のメーカーに内定していた彼だが、フタバは長女のため、いつか実家の店を継がねばならないと知り、「だったら僕も、君を手伝って和菓子店で働く」と決意。
ところが、彼はフタバの親とそりが合わず、店の接客も満足にできなかった。出産の際には、破水したのを見てただ取り乱すばかりだった。挙句の果てに、彼女の両親や親戚一同は、こんなことまで言い始めた。
「跡取りができたんだし、もう婿はいらないね」
驚くのは、フタバ自身もそう思い始めていることだ。なぜ私は、尊敬できない男性と、何年も生活を共にしてきたのだろう。時々、こんなふうにも考えるという。
「どうせ精子バンクみたいな存在なら、もっと優秀な精子を探すべきだった!」
「精子バンク」――。欧米では未婚女性の利用がすでに合法化されている国もあり、医療機関だけでなく精子提供者個人も国に登録義務があるなど、一定の法整備が始まっている。そして、まだ合法化されていない日本でも、現実には、「海外だけの話」や「他人事」では済まされなくなってきたようだ。
その驚くべき実態を報道したのが、2014年2月27日の『クローズアップ現代』(NHK総合)だ。
番組によると、日本でもインターネット上で精子の提供を持ちかける個人サイトが、すでに40余り(当時)。
番組では、精子提供者とそれを受け取る側の女性に接触していた。もっとも衝撃的だったのは、精子を欲する未婚女性たちの生の声と、その行動だ。
ある女性は、仕事優先で30代の婚期を逸してしまった。結婚は必要ないが、子どもだけは欲しい。しかし海外の精子バンクは数百万の費用がかかるうえ、手術のために渡航する場合、仕事を長期間休まなければならない。
そこでたどりついたのが、国内の個人サイト。怪しいと思いつつも「私にはここしかない」と駆け込んだ。取材当時、彼女は妊娠9週目に達していたという。
もう1人の女性の行動は、さらに驚きだ。
インターネットで知り合った見知らぬ男性(自称30代/会社員)と、地下鉄出口で待ち合わせ。
これらはあくまでも極端な例ではあるが、番組では倫理上の問題や感染症のリスクについて、専門家が声を大にして警鐘を鳴らした。
なぜ一部の女性たちは、ここまでやってしまうのか?
背後にあるのは、女性の未(非)婚化と技術の進歩。今は「結婚しない」と決めても、精子があれば「子ども(出産)」が望める。だからこそ「いい夫が見つからないなら、せめて子どもだけ」と考えやすいのだろう。
そもそも今の若い女性にとって、子どもこそが結婚に向かう最大のモチベーション。逆にそこをあきらめれば、50歳や60歳を過ぎてからでも結婚は遅くない。とはいえ、ギリギリまで出産はあきらめたくないのが本音だ。
それは、女性として「子どもを産みたい」との本能もあるだろうが、もうひとつ理由がある。一生ひとりでいれば、老後の面倒を見てくれる人はおらず、昨今よくいわれる「孤独死」のリスクも上がるばかり。
だからこそ、どんなかたちでも自分の味方になってくれる子どもが欲しいのだ。
実は今回、拙著『恋愛しない若者たち』を上梓するうえで行った定量調査でも、「産むだけ婚」を肯定的に見る女性が予想外に多いことがわかった。具体的には、「男性に子づくりだけ協力してもらう、または精子バンクを利用する『産むだけ婚』をどう思うか」と聞いた。
これに対し、「アリ。実践してみたい」とまで言い切った独身女性はわずか5%だが、「自分は実践しないが、アリだと思う」なども含む肯定派は、なんと約5割に上ったのだ。
肯定派の中には、「旧態依然とした日本の制度や概念」に疑問を抱く女性たちも大勢いる。
冒頭で紹介したキョウコもそのひとりだ。彼氏に「子づくりだけ協力して」と持ちかけた彼女だが、本音は「結婚して相手の籍に入るのがイヤだったから」だと言う。自分の母親が、ずっと嫁姑問題で苦労したのを見て育ったからだ。
もし夫婦別姓が堂々と認められるなら、彼と子どもを育てながら、友達のような関係を続けたかもしれない。しかし日本では、まだ夫婦別姓は法的に認められていない。注目の夫婦別姓を求める訴訟も、結局は今月16日の判決で退けられた。今後も苗字が異なるカップルは、法的には「夫婦」と認められない。
また、老舗和菓子店を継いだフタバは、夫をバカにしているようにも見えるが、「もし『家系』とか『跡取り』という概念がなければ、店を継がずに彼と2人で自由に暮らしたかもしれない」と時々考えるそうだ。
今回の調査や取材で見えてきたのは、今の若い女性たちが、せっかく「子どもが欲しい」と願っても、なかなか「この人」と思う男性や、望むような結婚スタイルに出逢えない現状だ。
その結果、「もう子どもだけいればいい」と歪んだ割り切りをしてしまう女性たちも、決してゼロではないということだ。
彼女たちを、頭ごなしに批判するのはたやすい。しかし、もし本気で少子化対策や「出生率を1.8に」と言うなら、まず国は「子を持つ夫婦は入籍、同姓が当たり前」といった古い制度などを、少しずつでも改めるべきだろう。
同時に、上の世代も、そろそろ「介護は嫁の役目」や「長男・長女」といった概念を見直す時期だ。すでに時代に合わないこうした概念が、いかに若い女性たちを結婚から遠ざけ、場合によっては歪んだ妊娠・出産へと向かわせてしまうかを認識しなければならない。
本来、恋愛や結婚、出産は「ハッピー」なことのはず。でも、今の若者たちは、能天気に「恋愛しちゃおう」とか「結婚、出産すれば、万事オッケー」とは考えない。それだけ、古い結婚観が抱える矛盾や、その先のリスクに気づいているからだ。だが、制度や概念を改めることぐらいは、大人たちにもできるはずだ。
さて、本特集も終盤に入ってきた。次回は、いよいよ「恋愛しない若者たち」が恋愛リスクの筆頭に挙げる、「彼氏・彼女が、もし『SNS探偵』になったら?」の不安と疑問に答えよう。
(文=牛窪恵/マーケティングライター、世代・トレンド評論家、有限会社インフィニティ代表取締役 編集=平澤トラサク/インフィニティ)