12月12日、2017年4月の消費税率10%引き上げ時の軽減税率導入について、自民・公明両党が合意した。軽減税率の対象品目は「酒類および外食を除く食品全般」であり、「対象品目の線引き」や「財源確保」などの問題点が早くも指摘されている。



 本稿では、軽減税率が導入された場合に発生し得る想定事例や問題点、店舗側の対応などについて検証してみよう。

●メニューを全部変更しなければならない?

 消費税を含めた価格表示は原則、税込価格を表示(総額表示)しなければならない。現在よく使われている「本体価格+税」「税抜き価格+税」という価格表示は時限立法で18年9月30日に失効する。

 軽減税率がスタートしてから1年半後の18年10月からは、必ず消費税込みの価格も表示しなければならない。外食とテイクアウト両方を提供するファストフードやコンビニエンスストア、アウトレット、ショッピングセンター、サービスエリアはもちろん、出前をするそば屋や中華料理店などでも、店内用と出前用のメニューをつくることになるだろう。

 今のように税抜価格が認められていれば、消費税が8%でも10%でも「ハンバーガー1個280円+税」「ハンバーガー1個280円(本体価格)」という表示ができる。しかし、税込価格を表示しなければならなくなると、「ハンバーガー1個、外食の場合308円(税込価格)、テイクアウトの場合302円(同)」というように、1つのメニュー(商品)に2つの価格を表示しなければならなくなる。

 軽減税率スタートの1年半後にメニュー表示を全面的に変えなければならないのは、飲食店にとってはかなりの負担だが、消費者は1年半待てるだろうか。今でさえ店頭での8%は計算しづらい。ましてや1つの商品で2種類の価格ができるのだ。「ハンバーガー1個280円(本体価格)、外食の場合は消費税10%、テイクアウトの場合は8%」という表示をされても、消費者は戸惑うばかりだ。

 消費者は当然、税込価格表示を望む。
そうなれば、税込価格表示をしている店が有利になる。消費者サービスのために、軽減税率スタート時点から税込価格表示をしなければならないとなると、飲食店にとって軽減税率はまさに「泣きっ面にハチ」ではないだろうか。

●高速道路のサービスエリアのフードコート

・ケース1

 無料の給茶機があったので、フードコートの椅子に座ってお茶を飲んでいた。そこにトレイにうどんをのせた人が来て「ここは外食する人が座るための場所なので、席を空けてくれ」と言われたので、立ってお茶を飲んだ。

 サービスエリアや道の駅、市場、駅などの椅子やテーブルが置いてある場所は、単なる休憩場所ではないのだろうか。「外食の方が優先席」という掲示がなされるのだろうか。椅子やテーブルのある場所は、「外食優先席」なのか「皆が自由に使っていい席」なのかをはっきりさせなければならない。

 または、「テイクアウトの方はご遠慮ください」「外食の方がいらっしゃったときは、席をお譲りください」といった掲示がされるのだろうか。いくら法律に厳正に従った結果とはいえ、「金持ち特権席」が日本中に増えるようで、寂しい気がするのは筆者だけだろうか。

・ケース2

 サービスエリアの店外でフランクフルトを買って、フードコートの椅子に座って食べていた。

店員「フードコート以外の店舗で購入されたものを、ここで座って食べていただいては困ります」

客「でも、フランクフルト屋さんは全部テイクアウトだから、外食用の消費税10%を払うことはできないんです。では、2%分の4円をあなたに払いますから、ここで座って食べていいですか?」

店員「いや、そう言われても消費税だけいただくわけにいかないので、やっぱり席を立ってください」

客「じゃあ、どこで食べればいいんですか?」

店員「外のベンチならいいですよ」

客「外は寒いので、ここで座って食べさせてくださいよ」

 サービスエリアだけではないが、テイクアウトの商品をどこで食べていいのかを明確にしなければならない。
しかし、テイクアウト専用席をつくれば、外食の法的定義である「その場で飲食をさせるための設備(椅子やテーブル)を設置した場所」に該当する可能性がある。テイクアウト商品を買った場所からどのくらい離れていれば「その場」でなくなるのか、法律で明確にしないと混乱するだろう。

●アウトレットのフードコート

・ケース1

 うどん1杯を分け合って、座って食べていたカップルがいた。すると、トレイにラーメンをのせた人が来た。

ラーメンの客「それ1人分でしょ。ということは、1人分の席料しか払ってないんだから、席を1つ空けてくれませんか」

カップル「えっ? 2%の軽減税率って、席料だったの?」

ラーメンの客「決まっているじゃないか。フードコートは外食優先席ですよ。新幹線の指定席と同じです。1人分の指定席券しか買っていない人が2つの席に座ることはできません」

カップル「うどん1杯が指定席券?」

ラーメンの客「映画館でいうと、外食が指定席、テイクアウトは席が空いていても座ってはいけない立見席。外食もテイクアウトも頼んでない人は、フードコートの中に入ってはいけない」

・ケース2

 税務署に電話が入った。

客「○○のアウトレットに今いるんだけど、テイクアウトの客が大勢席に座っているんだ。外食分の消費税を払った人たちが座れないから、すぐに来てどかしてくれないか」

税務署「今すぐと言われても困ります。
行くまでに時間もかかるので、しばらく待っていただけないですか」

客「だけど、8%しか払っていないのにフードコートに座るのは脱税じゃないんですか? 脱税を見つけたから通報しているのに、税務署は見逃すのですか」

 フードコートを持つ商業施設やファストフード店は、外食客の席を確保するよう対応しなければならなくなるだろう。また、客同士のトラブルが起きないように、席に座っているテイクアウト客を店内やフードコートから締め出さなければいけなくなる。それ以前に、テイクアウト客が座らないように監視しなければならなくなるだろう。

 さらに、外食を注文するということは「座る権利を買うようなことになる」ので、席が空いてない状況で外食客の注文を受けることはクレームの元になる。席料を払った客に、席を探させるわけにはいかない。ましてや、トレイを持ったまま立って待たせるわけにもいかない。「席がいっぱいなので少々お待ちください」と席が空くまで販売を中止せざるを得ないだろう。

 コーヒーショップのように椅子席と立ち席が混在する店舗や立ち食いソバ屋は、屋台ではないから外食に該当するだろう。つまり、消費税2%の差額は、コンビニを除いて「席料というより店内使用料」という性格になるのかもしれない。

 軽減税率では、屋台は立って食べると非外食、座って食べると外食になる。ファストフードやフードコートでは、店内で食べることができるのは外食だけになる。まるで「金がない奴は、外で立って食べろ」と言わんばかりである。


 飲食店からすれば、「わざわざ店まで足を運んでいただいた客」から税金を多くとらなければいけない。電話一本で注文を受けて人手を使って運ぶ出前は、税金が少なくて済む。時間も人件費も出前のほうがかかるからといって、出前料金を別途請求できる高級店ならいいが、「どちらも大切なお客様だから、とても出前料金を請求できない」という中小飲食店も多いはずだ。

 ホテルでも、レストランで飲食すれば外食だが、ルームサービスを頼むと非外食になる。「国会で決まった法律を守るのは国民の義務」と言われても、釈然としない人もいるのではないだろうか。

●世の中に逆行している線引き案

 テイクアウトの条件は持ち帰り容器に入れることだが、テイクアウトのお客が増えて使い捨て容器の利用が増える可能性もある。

 ショッピングセンターやアウトレット、百貨店、大手スーパー、サービスエリアなどでは、外食客が座れるコーナーとテイクアウト客が座れる場所を、掲示板や標識、のぼりなどでお客に明示しなければならなくなる。テイクアウト客は使い捨て容器を持っているので、テイクアウト客コーナーにはゴミ箱を置かなければならないだろう。それも分別ができるゴミ箱を。

 政府は「地球温暖化抑制のためにゴミを減らそう」とうたう一方で、「使い捨て容器でなければ税金を余分に取る」「税金を払いたくなかったらゴミを増やせ」と平気で言う。

 いったい、なんのため、誰のための軽減税率なのか。この制度にはあまりにも“心”がなさすぎる。
政治家も役人も「心がない法律は悪法である」であることを肝に銘じてほしい。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)

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