最近、あちこちで「異業種交流会」が盛んに行われているという。運営会社が用意した会場で、普段は知り合う機会の少ない他業種の人たちと名刺を交換し、交流を図ることのできるイベントだ。



 しかし、純粋に他業種の人との交流を目的とする参加者がいる一方で、怪しいビジネスやセミナー、宗教などの勧誘を目的とした参加者も少なくないという話も聞く。

 そこで調べてみると、異業種交流会はさまざまな運営会社によって、毎週のように開催されていることがわかった。それも東京都内だけでなく、会によっては全国各地で開催しているところもある。

 また、その内容も、スーツ姿で名刺を交換するビジネス寄りの真面目なものから、ランチタイムに和気あいあいとお茶を飲む親睦会的なもの、さらには、男女半々の婚活パーティーに近いものまで、多岐にわたる。参加費は多少異なるが、1回につき1500~3000円程度が多いようだ。

 実際のところ、異業種交流会にはどんな人が参加し、運営会社はどうやってビジネスとして成立させているのか。実情を確かめるべく、とある異業種交流会に潜入した。

●参加者は20~50代と幅広く、男性が約7割

 今回参加したのは、インターネットで検索すると上位に表示される、比較的大きな運営会社による異業種交流会だ。会場は、都内のターミナル駅から徒歩10分ぐらいのところにある区民会館の会議室で、時間は平日の19~21時。これはおそらく、都心で働くビジネスパーソンが仕事帰りに参加できるようにするための配慮だろう。事前にネットで申し込みを済ませ、当日は開始5分前に会場に到着した。

 会場は定員50名ほどの広さで、壁際をグルッと椅子が取り囲んでいる。
中央のスペースでは、すでに十数人の男女が歓談しており、彼らの中心には白いテーブルクロスのかかった机がひとつだけ置かれ、ペットボトルのお茶と紙コップが申し訳程度に並んでいる。運営スタッフは、受付と荷物の預かり係の計3人しかおらず、必要最低限の人数で切り盛りしているようだ。

 受付で会費を払い、参加者名簿と番号の書かれた名札を受け取る。参加者を見渡すと、年齢は20~50代ぐらいでかなり幅広い。女性は3人だけで、ほぼ全員がスーツを着た男性だ。彼らは、交流会が始まる前から、ほぼ全員がペアを組んでにこやかに、気さくなノリで会話を交わしている。

 19時になると、受付担当がマイクを持ち、交流会の開始を宣言。とはいえ、「ご自由にどうぞ」といった雰囲気で、運営側による参加者のペアリングなどは一切ない。今さらオタオタしても始まらないので、とりあえず、近くにいた男性に声をかけてみた。

●お台場や東京スカイツリーで開催されるバブリーな交流会

 最初に会話したのは、健康カウンセラーを名乗る男性・A氏だ。お互いの名刺を交換し、簡単な経歴を紹介し合う。A氏は健康管理士という資格を持ち、市民に向けてセミナーを開いたり、大手企業で社員の健康面をサポートしているという。


「ダイエットのためには、運動や食事制限でなく代謝機能を上げること」という持論や、さまざまなメソッドを説明された。正直、そのどれもが斬新な考えで、思わず聞き惚れてしまった。

 また、A氏はほかの異業種交流会にも参加しており、そのあたりの事情についても教えてくれた。それによれば、今回はほかのイベントに比べて、かなりシンプルな部類だという。

「東京スカイツリー内で開催される某異業種交流会の場合、豪華な会場で酒と食事を楽しみながら、くだけた雰囲気で歓談するスタイルです。お台場に数百人が集まってバーベキューをして盛り上がる会もありますね」

 こんなバブリーな異業種交流会が、現在もさまざまなかたちで行われているようだ。こうした会は、ネット上での募集はせず、過去の参加者の紹介などによって参加者が集められるという。

●女性目当てで参加していた、30歳前後の男性

 次は、中央のテーブルでお茶を飲んでいた、30歳前後の男性・B氏に声をかける。B氏は食品会社で衛生管理を担当しているというが、胸の名札を見ると、名簿には載っていない番号だった。事情を聞くと、事前に申し込みはせず、当日になって急遽参加したという。運営側としては、「来る者は拒まず」といったスタンスなのだろう。

 しかし、B氏との会話は、なぜか弾まない。
せっかくなので趣味の方面にもいろいろと話を振ってみたが、どうにも乗ってきてくれない。己のトークスキルの未熟さを呪っていたところで、もう1人、女性の参加者が会話に加わってきた。

 話に入ってきたのは、20代中盤の女性・Cさんだ。現在は派遣社員だが、音楽系の学校を出ており、ゆくゆくはそちらの道で商売をしてみたいと語る。そこで、ベンチャー系の人間も集まると聞き、この交流会に参加したという。Cさんも、飛び入り参加組だ。

 すると突然、無口だったB氏のテンションが上がった。先ほどとは打って変わって、自分の仕事や趣味について、Cさんにベラベラと語り始めたのだ。それを見て、「あぁ、そういうことか」と膝を打った。B氏は、女性との「出会い」を求めて参加しているのだ。おそらく、婚活パーティー寄りの交流会には、この手の人たちが来るのだろう。

●「長く付き合う」を目的にした、保険の営業マン

 4人目に話をしたのは、保険会社の男性・D氏だ。
年齢は40代で、パリッとしたスーツを着こなし、とても愛想が良い。名刺を交換した段階で「保険に勧誘されるのでは?」と身構えてしまったが、それは勘違いだとすぐに判明した。D 氏いわく、「こんなところで保険を買ってくださいと言っても、誰も買わないですよねぇ(笑)」。

 会話を進めてわかったのだが、D氏はこういった交流会で、起業を目指す人たちに向けて創業支援を行っているのだという。起業家に向けて、それぞれの業種にマッチした社会保険労務士、税理士、弁護士などを紹介し、登記や定款、財務などをトータルでコーディネートしてあげるようだ。

 しかも、手数料はまったく受け取らないというから驚く。なぜ、そんな慈善事業のような真似をするのか聞いてみると、「私はいろいろと優秀な人材を紹介できるので、知り合った人と長く付き合い、その中で少しでも興味が湧いた時だけ、保険の話をさせていただきたい。それだけです」。

 D氏によると、こうした交流会でガツガツ勧誘しても意味がないという。やり手の営業マンがたどり着いた、ひとつの境地なのかもしれない。D氏は最後に「自分にとって役に立つ人を見極めることが、何よりも肝心です」と、異業種交流会における心得も教えてくれた。丁寧にあいさつをして、その場を離れる。


●営業トークが止まらない5人目

 時計を見ると、時刻はもう20時半を回っていた。会場には8人ぐらいしか残っておらず、スタッフも荷物の預かり係がいるだけだ。運営は徹底して人件費を削り、参加者も「タイム・イズ・マネー」を徹底している人が多いようだ。自分も帰ろうかどうか迷っていると、目をキラキラさせた20代前半とおぼしき若者が、元気に声をかけてきた。

 彼は、経営コンサルタント会社の営業・E氏だ。彼の会社は、さまざまな広告代理店とつながりがあり、都内で毎日、異業種交流会を開催しているとのことだ。そこでは「人脈のシェア」をテーマに、「うちはこういったスキルを提供できるから、代わりにこういうスキルがほしい」と、積極的にビジネスライクな交流を図っているという。

 会場は秋葉原、五反田、神田、神楽坂、中目黒などが多く、1日で3カ所も開催することもあるという。はたして、ビジネスとして成り立っているのか。そのあたりをE氏に突っ込んでみると「できます!」と自信たっぷりの答えが返ってきた。

 この日の交流会も、最終的に二十数人が参加しており、参加費が1人1500円としても、単純計算で売り上げは3万円強となる。運営スタッフは、時給で雇われたバイトと思われるので、3人合わせても人件費は1万円程度で済み、自治体の施設なので場所代もほとんどかからない。
もう少し大規模にすれば、異業種交流会がある程度のビジネスになるのは確かだろう。

 E氏の営業トークには少し辟易したが、交流会ビジネスが流行する理由の一端に触れることができた気がした。お礼を言ったところで時間になったため、会場を後にする。

 結局、異業種交流会を肌で感じてわかったのは、「必ずしも有益なコネを構築できる場ではない」ということだ。しかし、普段の生活では会う機会の少ない種類の人と話すことができた上、多様な価値観に触れることもできたのは事実である。

 また、今回話した人に限っていえば、参加者にはマルチ商法や宗教の勧誘をしてくる人もいなかった。動機や理由はどうであれ、一度参加してみると、思いのほか楽しい体験ができるのではないだろうか。
(文=敷島守)

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