日本マクドナルド(東京都新宿区)のハッピーセットが再び騒動になっている。「ポケモンカード」の景品を求める客が殺到、転売サイトへの出品が絶えない。
東北大学特任教授で、人事・経営コンサルタントの増沢隆太さんは「マクドナルドは今回の騒動について謝罪と運営改善について発表したが、根本的な構造を見直さない限り騒動は繰り返されることになる」という――。
■不安の声が上がっていた「ハッピーセット」
店頭で飛び交う怒号、殺伐とした店内、さらには打ち捨てられたバーガー類のショッキングな画像や映像が、SNSやネットニュースにあふれました。
日本マクドナルドも公式に事態へのお詫びと対策を追加で発表するなど、社会的にも大きな注目を浴びたマクドナルドの「ハッピーセット『ポケモン』ポケモンカードキャンペーン」。その炎上トラブルになった原因と、その責任はどこにあるのかを考えます。
マクドナルドの「ハッピーセット」プロモーションは毎回有名キャラクターとのコラボなどで人気を呼んでいて、今回はポケモンのおもちゃが当たるということで、販売前から注目は大きかったようです。しかし、それは単にキャンペーンに対する期待だけでなく、「不安」の声も上がっていたのでした。
これまでもハッピーセットは毎回人気キャラクターとのコラボによって、本来の子供やファミリーだけでなく、投機的価値から転売ヤーによる買い占めが行われているという批判がありました。実際にフリマサイトではキャンぺーンが行われるたびにズラリと景品の転売出品が行われていたのです。
■「キャンペーン期間はバイトを休みたい」
フリマサイトなどでのリセールは、ゲーム機や限定仕様の特別製品販売などのたびに転売ヤーによる買い占めと、純粋に購入を希望するファンとの間でトラブルになる映像がニュースでも報道されます。「マクドナルド+ポケモン」という強烈なパワーブランドのコラボともなれば、リセールバリューが期待できるのは明らかで、今回も争奪戦になることは当然だったといえます。
争奪戦が起こったことで、本来欲しがっている子供やファミリーが景品を手に入れにくくなるだけでなく、店舗での混乱を懸念する店舗スタッフからの声も聞こえていました。
マクドナルドはアルバイトを中心とする店舗スタッフの戦力が強みで、会社が決めたキャンペーンを実際に運営するのは店舗であり、バイト中心のスタッフです。
これまでのハッピーセットなどのキャンペーンで混乱が起きたことで、中には「キャンペーン期間はバイトを休みたい」などという、マクドナルドのアルバイトを自称する書き込みもありました。このように、今回の混乱は事前から不安が指摘されており、実際その通りのトラブルになったことで、主催したマクドナルドが大きな批判を浴び炎上する結果となったといえます。
■店舗スタッフは損でしかない
大前提として、マクドナルド各店において発生した買い占めとそれにまつわる店頭でのトラブルは、怒声を上げたり店舗スタッフにしつこく絡んだりした悪質な行為を行った者に責任があります。第一義的な責任の所在はルール違反者であることは間違いありません。
ですが構造的問題の原因を探るためには、被害者が誰なのかを考えるべきでしょう。ここまで述べたように、ポケモンのおもちゃが欲しかった子供と、それを与えたかった親は間違いなく、被害を受けたといえます。
さらには店舗で働くスタッフは、混乱の場に居合わせなければならず、つらく不快な思いをしたことでしょう。極論すれば、バイトには何のメリットもない、単に通常業務が激しく忙しく、騒然となっただけで、損しかなかったのではないでしょうか。
またマクドナルドでは、その強力な集客力によって店舗周辺で混乱が生じます。郊外店などドライブスルーが渋滞を招くなど、さらなる集客キャンペーンは、マクドナルドに行かない周辺住民が迷惑な思いをした可能性もあります。
■転売ヤーにとって商品は必要ない
さらにはキャンペーンに関心のない、マクドナルドに立ち寄った利用者はどうでしょうか。
たまたま食事をしに寄っただけで、ポケモンに興味のない利用者は、あふれかえる店頭で食事をあきらめるしかなかった人もいるのではないでしょうか。
都市部であればいくらでも食事ができる店もあるでしょうが、地方では他の飲食店が遠いなど、選択の幅がない場合もあり得ます。
今回の騒動を報じるニュースで、特にいたましい光景に感じたのは、商品の廃棄です。結局リセールを狙った買い占めにおいて、ハンバーガーなどの商品は不要であり、それを食べることなく投棄した映像がSNSなどで拡散され、テレビニュースでも流れました。
食品ロスなどサステナビリティ対策を理念に挙げているマクドナルドにおいて、食べ残しどころか、食べることもせず投棄する行為が見られたことは、人類への害ともいえるかもしれません。繰り返しますが、第一義的に非難されるべきは、このような不道徳な行為をした者です。ここは当然としつつ、そもそもこうした事態を招いた責任が、主催者であるマクドナルドにもあると考えられていることが、今回の炎上の図式だと思います。
■アップデートできていなかったマクドナルド
事前から多くの不安や懸念があったにもかかわらず、なぜマクドナルドはハッピーセット・プロモーションを進めたのでしょう。当然ですが、企業ですから社内手続きにのっとって、計画から実行まですべて順を踏んだと考えられます。
マクドナルドといえば、「ザ・外資系企業」の象徴のような存在。私も長く外資の世界にいますが、本社(特に米国)の強いコントロールは、時としてローカル(日本など現地法人)の意向をすっ飛ばしてでも優先される、なんていう「外資系あるある」を経験したことがあります。マクドナルド社はどうだったのでしょう。
転売ヤー対策を無視したキャンペーンは、キャンペーン主催者にもその批判が向けられることが多くあります。
事前予約や本人確認などによって、重複販売をいかに避けるか。行列を作って店舗環境を荒らす行為は、周辺住民から反発を招きますし、お金を払って行列に並ぶことなく購入できるようにするなど、いくらでも対策はあります。
従来は成功だったキャンペーンが、インターネットやフリマサイトの普及により、ネガティブな要素にもなっています。さらには今回のように批判が起きた時には、SNSを中心に炎上もします。このような状況変化、環境が変わったという認識を、主催側はしっかり洞察する義務があると考えます。状況把握のアップデートが不十分だったという批判は避けられないと思います。
■運営改善をする上での懸念点
完売したプロモーション品という結果から、今回は収益上でいえば成功といえるのでしょうが、一方で世界有数のパワーブランドである「マクドナルド」のコーポレートイメージはどうでしょう。
ローカルでの懸念や不安に耳を貸さず、「収益のためには突っ走る会社」というようなネガティブなイメージが生まれなかったと言い切れるでしょうか。特にサステナビリティ推進というポリシーにすら影響した可能性のある騒動まで起きました。
結果として、マクドナルドへの強い批判が起き、キャンペーン商品終了とともに、8月14日、マクドナルドはキャンペーン騒動への謝罪や、この先の運営改善を発表しました。
キャンペーンへの懸念はこれまでもあったのですから、特に販売現場の声を取り上げなかったことは大きな失態だと思います。
マクドナルドに限らず、本社が次々新たなセールスマーケティング手法を考案して実施すること自体は良いですが、現場が全くついていくことができないような施策は珍しくありません。
特に販売現場のように、一番たいへんな負荷を負うのはラストワンマイルともいえる店舗です。
現場を無視するかのような姿勢と意思決定の過程は、大いに改善が望まれるでしょう。

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増沢 隆太(ますざわ・りゅうた)

東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家

東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」として数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。

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(東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家 増沢 隆太)
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