都市部で電動キックボードの利用が広まっている。その一方で増えているのが飲酒事故だ。
自転車評論家の疋田智さんは「自動車でも自転車でも飲酒運転が違法であることはだれでも知っているのに、電動キックだけはこの常識が浸透していない。その理由は大きく分けて2つある」という――。
■警察庁「約5人に1人が飲酒事故」と発表
警察庁交通局から「令和7年上半期における交通死亡事故の発生状況」というリリースが出た。
ふーん、自転車の死亡事故も減少傾向か、出合い頭が多いのは相変わらずだな、と、つらつら読み進めていたら……ちょっと待て。
ラストに「特定小型原動機付自転車」の章があった。特定小型原付とは、もちろん2023年の道交法改正で定められた「電動キックボード(以後電動キック)」および「電動スクーター(以後電スク)」のカテゴリーだが、驚くべきは次の指摘だ。
(特定小型原付の事故のうち)飲酒ありの構成率は約2割で、一般原付の約30倍、自転車の約22倍
なんなのだ、これは。
私にはにわかに信じがたかった。死亡事故か重傷事故を起こした電動キックのうち、約5人に1人は飲酒運転だったというのだ。
車両に乗る以上、飲酒運転は厳禁。非常に重い罪に問われる。
そんなことはもはや常識で、各種の報道で知らしめられ、私は「飲酒運転はほぼ撲滅された」と思っていた。
ところが特定小型原付において、現実はこうだったのだ。
■街中でしょっちゅう見かけるLUUP
特定小型原付のほとんどは電動キックとみていい。まちなかでよく見る印象の通りだ。電スクはまだまだ非常に少ない。
そして、多くの場合、これも印象通り「シェア・ユース」がほとんどを占めている。首都圏、近畿圏で言うなら、圧倒的多数を占めるのが、LUUPだ。
さらに言うと、LUUPユーザーのほとんどが学生から若いサラリーマン世代である。事実、警察庁の集計でも、事故を起こしたユーザーの7割以上を20~30代の若い年齢層が占めている。その彼らはどのようにして飲酒事故を起こすのか。これはもう容易に想像がつく。
■「飲酒自爆事故」で命を落とした男性も
LUUPのポートは都内各所、あらゆるところに存在するが、特に多いのが繁華街だろう。私の勤め先がある赤坂にもあちこちに存在し、その営業努力はもう感心するほどだ。

仕事が終わった後に居酒屋に寄って、ほろ酔い気分で仲間と盛り上がり、上司の悪口でも言って、終電がそろそろ出る、そのときにどうするか。
自宅まで? いや、そこまで言わずともとりあえず近くのターミナル駅、たとえば渋谷、新宿まで行くか……電動キックで。
借りるの簡単だし、ポートはどこにでもあるし、お手軽だし、飲酒つってもクルマじゃないんだから、危なくない……。
電動キックによる「自爆事故」は頻繁に起きている。
特に危ないのは段差だ。ホイール径が小さいので、素面だって段差乗り上げは苦手で、その結果転倒する。電動キックのナンバープレートが常にベコベコなのはそのあたりが理由だろう。
実際に、飲酒と段差が理由で死亡事故も起きている。たとえば50代の会社役員が知人らと飲酒後、電動キックボードに乗って帰路についたという。東京都中央区勝どきのマンション1階の駐車場で、車止めに衝突して転倒した。このとき頭を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認された。
本人には申し訳ないが、自損事故だったのが不幸中の幸いだったろう。
これで他者を巻き込んでということだと目もあてられない。警視庁は約8カ月後、道路交通法違反(酒気帯び運転)容疑で、この男性を容疑者死亡のまま書類送検した。
しかし、その予備軍が2割もいる。そのパーセンテージは一般原付の30倍、自転車の22倍だ。今後も飲酒事故が起き続けるのは必定だろう。
■なぜ酔った状態で電動キックに乗るのか
飲酒運転がダメなことは誰でも知っている。自転車だってダメだ、ということすらみんな知っている。
ところが電動キックだけはこの体たらく。その理由はいったいなんだろう。私が思うに大きく分けて2つある。
① 繁華街にポートが数多あり、それが誘惑になっている
あくまでシェア、ちょいノリ、だから……、という部分だ。これがクルマやオートバイ、自転車なら、そのほとんどは「自分で乗ってきたもの」であろうし、そもそも「飲む日は乗ってこない」になる。
それを判断するのは素面のアタマだ。ところが、電動キックの場合、酔っぱらいアタマに「どうだい? 乗ってくかい?」と直撃するわけだ。
② オモチャに毛が生えたようなモノだからという感覚が抜けない
2つ目がこれだろう。電動キックのイメージは「自転車よりオモチャ」なのだ。じつはこれ、海外でもそうで、パリでも、マドリードでも、電動キックは交通法規を守らない。「オモチャだから」だ。だからこれらの都市ではシェア電動キックが全面禁止になった。
■LUUPの注意喚起は全然足りていない
これらのことをLUUP社は把握していないわけじゃない。だから渋谷のキャンペーン大看板には確かに「飲酒運転禁止」のアイコンが描いてあった。
しかし、その注意喚起が足りているかと問われれば、足りてないとしか言えないだろう。ポートにもアプリにも何のアラートもない。現実として事故車両の2割が飲酒運転だった。

無免許OKという状態もどうかと思うが、自転車だって今や飲酒運転はしないのだ。それなのに電動キックには平気で酔っぱらって乗る。その結果事故を起こす。
LUUPは来年「ユニバーサルカー」と称する3輪のシェアモビリティ「Unimo」をリリースする予定だという。免許返納後のお年寄りのラストワンマイルを意識したモビリティで、私は、ここにはかなり注目している。良い取り組みかもしれないと思う。
だが、その前にやるべきことがある。
こんな無法者だらけの電動キックを放っておいて、世間の理解が得られると思ったら大間違いだ。

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疋田 智(ひきた・さとし)

自転車評論家

1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。大東文化大学社会学研究所客員研究員。学習院大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。
毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。YouTube『芝浦自転車研究所

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(自転車評論家 疋田 智)
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