国内外の株式市場は8月に入り最高値を更新するなど「サマーラリー」に沸いています。市場心理は強い一方で、PERなどの指標では割高感も。

足元の株価上昇は、米国の利下げ期待や、これまで出遅れていた中小型株への物色の広がりなどが背景にありますが、果たしてこれは強気相場の新たなステージなのか、それとも終盤戦の始まりなのか。


相場は「強い」けど株価は「割高」、ジレンマ相場の投資戦略は?...の画像はこちら >>

サマーラリー中の株式市場

 連休明けで迎えた今週の株式市場は、日本株(日経平均とTOPIX)が連日で最高値を更新する場面を見せるなど、上方向を目指す動きが活発化しています。さすがに14日(木)の取引では下落したものの、この日の日経平均終値(4万2,649円)は、昨年7月11日の高値(4万2,426円)を上回っていて、相場のムードはかなり強気に傾いていると言えます。


 こうした株式市場の好調さは米国株も同様で、S&P500とナスダック総合はともに、12日(火)と13日(水)に連日で最高値を更新したほか、NYダウについても、昨年12月4日の取引時間中につけた高値(4万5,073ドル)まであとわずかに迫っています。


<図1>世界主要株価指数のパフォーマンス比較 (2024年末を100)(2025年8月13日時点)
相場は「強い」けど株価は「割高」、ジレンマ相場の投資戦略は?(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDⅡおよびBloombergデータを元に作成

 また、上の図1にもあるように、日米だけでなく、中国や欧州の株価指数も8月に入ってから騰勢を強めていて、国内外の株式市場は「サマーラリー」の様相を呈しています。


「相場は強いが、株価は割高」というジレンマ

 このように、株式市場が勢いよく上昇する局面を迎えると、それに伴って浮上してくるのが、「この上昇はいつまで続くのか?」、「今から乗っても大丈夫なのか?」という、期待と不安の入り混じった感情です。


 実際に、足元の株価上昇に対する見解としては、「株価はすでに割高なので、(上昇は)長くは続かない」という弱気の見方がある一方、「(状況が変わったので)まだまだ上値を追える」という強気の見方の両方が交錯している状況ですが、この両者は、「株価が高いか安いか(バリュエーション)」から見た視点と、「相場は強いか弱いか(モメンタム)」から見た視点の違いでもあります。


「株価は高い」というバリュエーションの視点

 まずはバリュエーションの視点から見て行きますが、「株価が高い」根拠としてはPER(株価収益倍率)が挙げられます。


 日本株のPERについては、今週12日(火)付の レポート で言及していますが、米国株については下の図2で確認します。


<図2>米S&P500(月足)と長期PER(CAPEレシオ)の推移(2025年8月13日時点)
相場は「強い」けど株価は「割高」、ジレンマ相場の投資戦略は?(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを元に作成

 上の図2のグラフは、米S&P500の月足と「CAPEレシオ」と呼ばれる長期のPERの推移を示したものです。


 このグラフはこれまでのレポートでも何度か紹介したことがあり、実は紹介する度にこのCAPEレシオの数値が上昇しています。8月13日時点では35.52倍となっていますが、チャートを遡っても35倍を超える場面は少なく、また、図の表示期間(約30年)の平均値(23.89倍)と比べても、現在のS&P500はかなり割高であることが分かります。


 また、PERは「株価÷1株あたり利益(EPS)」で計算されるため、PERの上昇を抑えるには、株価が下がる、もしくはEPSが増えることが必要です。つまり、企業の「稼ぐチカラ」を今後も示すことができれば、現在の高いPERも正当化され、これについては時間を掛けて見極めて行くことになります。


 もちろん、こうしたEPSの増加期待を先取りする格好で、しばらくの間は高いPERを維持したまま、株価が上を目指していく展開も考えられますが、現在の株価が割高であることに変わりはなく、いずれ株価の上値が重たくなってくることが予想されます。


「相場は強い」というモメンタムの視点

 とはいえ、足元の株式市場は割高感が意識されながらも上昇基調を辿ってきました。


 例えば、先週末8日(金)の国内株市場は3連休前ということで、通常であれば、取引終了時刻が迫るにつれて手仕舞い売りに押されることが多いのですが、この日の手仕舞い売りは限定的で、結局、日経平均は前日比761円高と株高を維持して終えています。それだけ、現在の相場ムードと買い意欲の強さを感じさせる格好になっています。


 このように、相場のムードが強くなった背景としては、米国の関税政策に対する過度な警戒感が後退したことや、米国の利下げ期待が高まったこと、米テック株の買い戻しの動きや物色の広がりが出始めたこと、そして、国内の決算発表がピークを迎える中、米関税の企業業績に与える影響が限定的にとどまりそうという見通しが優勢になったことなどが挙げられます。


 もっとも、米国の関税をめぐっては、「最悪の事態が回避された」、「具体的な関税率が見えてきた」、「景気や企業業績への影響が今のところ限定的」など、過度な不安が後退したことがポジティブ材料となっていますが、8月7日から実施された相互関税の上乗せ分の「第2波」がこれから景気や物価、企業業績などに反映されてくることや、米トランプ政権の急な方針転換の可能性などを踏まえると、先行きの不透明感はくすぶっており、本格的に強気に傾くには少し力不足な面もあります。


 それでも相場のムードが強気を保っているのは、米利下げ期待の高まりと、物色される銘柄が広がっていることが大きいと思われます。


米利下げ期待はどこまで相場を支えるか?

 とりわけ、米国の利下げについては、今週発表された米7月消費者物価指数(CPI)が無難な結果になったことで、9月に開催される米FOMC(連邦公開市場委員会)において、利下げの実施がほぼ確実視される状況となりました。


<図3>米消費者物価指数(7月)の推移
相場は「強い」けど株価は「割高」、ジレンマ相場の投資戦略は?(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを元に作成

 さらに、市場の一部では、9月の米FOMCで、利下げ幅が0.25%ではなく、0.5%に拡大するのではないかといった見方も浮上しています。


 確かに、足元の株式市場を見ると、利下げの実施を通じて米国金利が低下し、相対的に債券市場と比べた株式市場の割高感が薄れることによって、「まだまだ株は買える」というリクツで株価が上昇している格好になっています。


 ただし、利下げ幅の拡大に期待するのは少し危ういかもしれません。


 そもそも利下げ幅が拡大するのは、想定以上に景気が急減速してしまい、それに対処するためというのが基本であり、利下げ幅の拡大観測は本来ネガティブに働きます。


 最近までの米経済指標を見る限り、米国経済はまだ深刻な景気後退に陥っているとは言えず、どちらかというと、期待されている利下げは、米労働市場が足元でやや不安定なってきていて、これから景気後退が訪れるかもしれないことを想定して行われる「(景気悪化の)予防的利下げ」になります。


 従って、利下げ期待だけで株価上昇の勢いを保っていくのは難しいほか、米10年債利回りを見ても、低下傾向ではあるものの、まだ4.2%台で踏みとどまっています。


<図4>米10年債利回り(日足)の推移(2025年8月13日時点)
相場は「強い」けど株価は「割高」、ジレンマ相場の投資戦略は?(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを元に作成

 米債券市場で金利水準がもう一段階低下して行くと、株式市場にとって追い風になってきますが、上の図4を見ると、米10年債利回りは、上値の切り下がりと下値の切り上がりによる保ち合いを形成しつつ、次のトレンド発生を待っているようにも見えます。


 そのため、株式市場が利下げ期待で株価上昇を演じていることに比べると、債券市場ではそこまでの利下げ期待を織り込んでいない印象です。


米国株で積極的に買われているセクターは? 

 続いて、米国株の物色動向についてもチェックしていきます。


<図5>米主要株価指数のパフォーマンス比較
相場は「強い」けど株価は「割高」、ジレンマ相場の投資戦略は?(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDⅡおよびBloombergデータを元に作成

 上の図5は、昨年末を100とした米主要株価指数のパフォーマンス比較ですが、足元では半導体関連銘柄で構成されるSOX指数と、中小型株で構成されるラッセル2000の上昇が目立っていることが分かります。


 半導体セクターについては、人工知能(AI)という大きなテーマの下、データセンター投資の拡大や、AI技術の進展にともなうデバイス(PCやスマホなど)の高機能化などへの思惑が株価の上昇につながっていると思われます。


<図6>米SOX指数構成銘柄の株価上昇率上位の状況(2025年8月13日時点) コード 銘柄名 株価
(ドル)
8/13 株価
(ドル)
24年末 上昇幅
(ドル) 上昇率
(%) AMD アドバンスト・マイクロ・デバイセズ 184.42 120.79 63.63 52.68 KLAC KLA 949.48 630.12 319.36 50.68 LRCX ラムリサーチ 106.74 72.23 34.51 47.78 MU マイクロン・テクノロジー 124.27 84.16 40.11 47.66 MPWR モノリシック・パワー・システムズ 861.80 591.70 270.10 45.65 NVDA エヌビディア 181.59 134.29 47.30 35.22 AVGO ブロードコム 309.09 231.84 77.25 33.32 QRVO コルボ 90.14 69.93 20.21 28.90 TSM 台湾積体電路製造(TSMC) 241.44 197.49 43.95 22.25 COHR コヒレント 114.01 94.73 19.28 20.35 AMAT アプライド・マテリアルズ 190.03 162.63 27.40 16.85 LSCC ラティスセミコンダクター 65.22 56.65 8.57 15.13 ARM アーム・ホールディングス 141.60 123.36 18.24 14.79 MCHP マイクロチップ・テクノロジー 65.75 57.35 8.40 14.65

 また、上の図6は、米SOX指数構成銘柄の昨年末比での株価上昇率の上位銘柄の状況ですが、これまでのリーダー格だったエヌビディアだけでなく、半導体製造装置メーカーの アプライド・マテリアルズ(AMAT) や ラムリサーチ(LRCX) をはじめ、メモリー半導体メーカーの マイクロン・テクノロジー(MU) 、設計会社(ファブレス)のAMDやブロードコムなど、幅広い銘柄が買われていることが分かります。


 そして、ラッセル2000に代表される中小型株が買われている背景については、以下の3つがポイントとして考えられます。


1:金利低下への期待感

一般的に、中小企業は大手企業に比べて財務基盤が弱く、事業資金を銀行からの借入に頼る割合が高い傾向があります。そのため、FRBの利下げ期待は、金利低下による支払利息の負担軽減や借り入れコスト低下するなどの追い風になりやすいです。


2:米国景気への自信

中小企業の業績は、海外売上比率の高いグローバルな大手企業よりも、米国内の景気動向を敏感に反映します。中小型株が買われるということは、多くの投資家が「米国経済はソフトランディングを達成し、今後も底堅く推移する」というシナリオへの自信を深めている可能性があります。


3:割安感

 米国株市場では、長期にわたって大型株優位の相場が続いた結果、中小型株には相対的な「出遅れ感」があります。主力企業の割高感が意識され始めている中、まだ割安に放置されている銘柄群として中小型株に目を向け始める動きが出てきた可能性があります。


現在の株高は上昇相場の終盤戦か?

 実は、半導体株と中小型株については、ともに景気動向に敏感であるという共通点があり、これらの株価が上昇しているウラには、米景気の先行きに対する不安が後退していることが反映されていると考えられます。


 逆を言えば、「米国の景気が思ったよりも悪化していくのでは」と、見通しが悪化した場合に注意する必要がありますが、それは今後の米経済指標などを見ながら確認していくことになります。


 むしろ、現時点で注意したいのは、「現在の株高が上昇相場の中でどの局面に位置しているのか?」の方です。


<図7>相場のムードから見た上昇トレンドの局面とポイント
相場は「強い」けど株価は「割高」、ジレンマ相場の投資戦略は?(土信田雅之)
出所:筆者作成

 上の図7は、上昇トレンドにおける一般的な局面とポイントを示していますが、春先のトランプ相互関税で相場が急落した箇所を「弱気の罠」と見立てるならば、現在の株価上昇は中盤と終盤に差し掛かっていると考えられます。


 また、物色面からみた上昇トレンドは、「景気回復期に大型優良株が先行し、景気拡大への自信が深まる中で中小型株が後を追い、最終的には業績の裏付けのない銘柄まで物色される熱狂相場へ至り、やがて終焉を迎える」というのが、過去に繰り返されてきたパターンです。


ジレンマとの付き合い方

 これまで見てきたように、「割高だが、強い」というジレンマ相場と、どう付き合っていけば良いのかについて考えて行きたいと思います。


 歴史を振り返ると、強気相場のサイクルは、「①業績相場(ファンダメンタルズ主導)→ ②金融相場(金利低下期待など)→ ③熱狂相場(バブル化)」という順で進む傾向があります。


 現在の市場は、堅調な業績期待ともに、利下げ期待という金融相場の要素も加わって、物色の裾野が広がる②の局面にあると考えられます。この局面では、「割高だから売る」という単純な戦略は、大きな機会損失に繋がる可能性があります。


 従って、当面の投資戦略としては、しばらく「トレンドには逆らわない」のが基本になりますが、上昇相場が終盤に差し掛かっていることや、「株価が割高である」ことへの意識もあり、思ったよりも早く株価の調整局面がやってくるかもしれないことを想定すると、短期的なスタンスで相場に臨むのが良いかもしれません。


(土信田 雅之)

編集部おすすめ