最近、セックスレスに悩む夫婦が多いという。日本性科学会の定義によれば、セックスレスとは「特殊な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシャル・コンタクトが1カ月以上なく、その後も長期にわたることが予想される場合」という状態だ。



 その理由や状況はさまざまだが、妻が夫を拒むケースだけでなく、夫が妻の求めに応じない場合もある。例えば、2人の子供がいるAさん(40代男性)の場合は、「欲求はあるが、妻をその相手とは考えられない」というものだ。

「2人目の子供が生まれたあたりから夫婦間がギクシャクして、そのままセックスレスになりました。妻は夜中に近づいてきたり、泣いて不満を訴えてきたりしましたが、私は寝たふりをしたり、『疲れているから』と言い訳をしてやり過ごしました」(Aさん)

 また、一児の母であるBさん(30代女性)は、以下のように語る。

「新婚の時から、夫が精神的なストレスを抱えていたこともあって、性生活がまったくありませんでした。不安になって『離婚も考えている』と話し合いをしたことで解消しましたが、当時は『女として終わってしまう』と焦り、絶望的な気持ちになりました」

 夫婦間における性生活の不一致は大きな問題であり、時には離婚問題に発展することもある。しかし、性生活の不一致は離婚の理由として法的に認められるのだろうか?

 弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP LPC執行役で弁護士の山岸純氏と、同法人弁護士の榎本啓祐氏は、次のように解説する。

「民法770条1項5号は、『婚姻を継続し難い重大な事由』を離婚原因のひとつとして定めており、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがないような事由がある場合には離婚が認められます。

 この点、性交渉も婚姻生活に重要な構成要素であるため、病気、老齢などの理由により性関係を重視しない合意があるといった事情がない限り、夫婦の一方による継続的な性交渉の拒否は『婚姻を継続し難い重大な事由』に該当することがあります。

 過去の裁判例においても、夫がポルノ雑誌を用いて自慰行為を繰り返すのみで、妻からの度重なる哀願にもかかわらず、約4年間ほとんど性交渉を行わなかったことなどにより別居に至った事例について、『婚姻を継続し難い重大な事由』を認めたものがあります。

 性交渉拒否により婚姻関係が破綻したと認められた場合には、拒否した側に慰謝料の支払い義務が認められる可能性もあります」

●夫婦間でも、強制わいせつ罪や強姦罪になる可能性

 性生活の不一致は正当な離婚理由になるばかりか、慰謝料の支払い義務まで発生することもあるようだ。また、両氏は「相手が拒否しているにもかかわらず、配偶者に性交渉を強要することも、離婚理由となり得る」と語る。


「求められる側からすれば苦痛なことを強要されるわけで、多大な精神的負担が生じるため『婚姻を継続し難い重大な事由』となり得る上、慰謝料の支払い義務が生じる可能性もあります。

 また、異常的性行為の強要も、『婚姻を継続し難い重大な事由』に当たる場合があります。古い判例ですが、配偶者に対して性交渉のたびに必ず靴を履くことを要求したことにより多大な苦痛を与えていたとして、『婚姻を継続し難い重大な事由』を認めたものがあります。

 さらに、仮に性交渉を拒否する相手方に対し、暴力を振るう、怒鳴りつけて恐怖を与えるなどの暴行・脅迫を用いて性交渉を強要した場合には、夫婦間であっても、強制わいせつ罪や強姦罪といった犯罪が成立する可能性があります。

 夫婦生活においては、お互いにさまざまなことを考えており、それがうまく相手に伝わっていないばかりに、性生活がうまくいっていないケースがよく見られます。性の不一致に悩まれている方々は、その悩んでいる内容を相手方に伝え、よく話し合うようにすべきでしょう」(山岸氏、榎本氏)

 よく「セックスは最高のコミュニケーション」といわれるが、コミュニケーション不足および一方的なコミュニケーションは、相手を傷つけかねないということだ。デリケートな問題だけに一概には言えないが、性の不一致解消のためには、お互いのことを知ろうという努力が必要なのかもしれない。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP LPC執行役・弁護士、榎本啓祐/同法人弁護士)

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